うっかり。
読んで下さりありがとうございます!
ものすごく久しぶりですみません。
夜、ひとりベッドの上で今日のことを振り返る。
あの後ヴェロニカ様は私をキッとひと睨みして去っていった。
彼女が言う通り、この世界の道理で言うならば、アランに相応しいのは私じゃないのだろう。それでも…。
『例え愛する人でも、俺の幸せの基準は変えられない。俺は、俺の幸せを、求めたいんだ。俺は…イリィと生きたいんだ』
ひとりになった今も、アランの真剣な眼差しが私を射抜く。思い出すたびに息もできない程胸が締め付けられて苦しい。すごく、苦しくて………。
…………クラリ。
ヤバい。本当に目眩が……?え、恋煩い?それとも長時間のアランとのダンスでイケメンにあてられた?いやいやいやいや。
あー、こりゃ…
「魔力切れだわ……」
人間の姿を連日、長時間保っていたから…。失敗したわ。人間の姿を保つためには神の呪いを抑え込み続けなければならず、なかなかに魔力を使うのだ。
どうしよう?このまま寝て体を休めても、明日の朝にそれほど回復しているとは思えない。ある程度活動できるようになったとしても、夜会まで保つかどうか…。
ふと、愛しい人の顔が過る。
魔力をもらうならあの人しかいない。あの人じゃなきゃ…嫌だ。あの人は、今、どこだっけ…?
魔力が少なすぎてだんだん思考が雑になってきた…。
ふわり。
………気付くと私はドラゴンの姿でアランの部屋…と、思わしき部屋のベランダにいた。恐らく自分の部屋の窓から飛んできたんだろう。…本能って怖い。無意識にここまで来るって…。今後は魔力切れにならないように気を付けよう。無意識に何かやらかしたら最悪だわ…!
私はボーッとしながらもなんとか意識を保つため、眉間に力を入れて部屋の中を覗き込む。霞む視界でよく見えないが、部屋の中には…ふたり?男性の話し声がする。
「明日の夜会で…………を、連れて…………」
「しかし、……………は、…………………じゃないか?」
私の頭がボーッとしているのに加え、ふたりがヒソヒソと話しているので内容がよく聞こえない。
ひとりの声はなんだか聞いたことがあるような気がするが、アランではない。…部屋を間違ったか。無意識に部屋に入らなくて良かった。
私が改めてアランの部屋を探しに行こうと翼を開いた、ちょうどその時。
「勇者を始末できないのか?」
ヒソヒソ話だったのにも関わらず、そこだけがハッキリと耳に届く。
心臓の音が大きくなる。
今…なんだって?勇者を…アランを始末するって……?
落ち着け…落ち着け、私。
頭に血が上るのを必死に抑える。ここは冷静に対処するのよ。
今、突入しても魔力切れの状態では何も出来ない。状況をしっかり把握して、体制を立て直すの。
何よりもまずはこのふたりが誰なのかを知っておく必要があるんたけど…
頭はクラクラするし部屋は薄暗いしで、全く誰だか分からない。
少なくともひとりは知っている人だと思うんだけど…。
「では、夜会で…………を、…………………」
ダメだわ、何も分からない…。夜会で、何を…?
その後、ニ、三言葉を交わしていたが、内容は全く分からないまま、ふたりは部屋を出ていった。
でも…ひとつだけ分かった。
「アランが、狙われている…」
それは絶対に阻止しなければ。
焦る気持ちとは裏腹に、鉛のように重くて言うことをきいてくれない体をなんとか起こす。
改めてアランの部屋を探しにいこうと、羽を広げたとき。
「イリィ!」
小声で私を呼ぶのは…アラン!どうやら斜め上の部屋がアランの部屋だったようだ。助かった…。
なんとかかんとか、私はアランのところまで飛ぶ。
「どうしてドラゴンの姿に?…っ、魔力切れか。辛かったな……」
「そんなことよりアラン……、あなた、狙われているわ」
「!とりあえず入ろう」
アランが私を抱えて部屋に入る。
私を抱えたままソファーに座ると、魔力をくれそうに…だから、つまり…キキ…キスを…してくれようとしたのだが、先に話をしたいと断った。
すごく不満そうな顔をされたけど…。
私は先程見知ったことを、なんとかぽつりぽつりと説明した。
誰かと誰かが明日の夜会で何かをしようとしていること。
そのふたりのうちのひとりは、私が聞いたことのある声だったこと。
勇者を…アランを、始末したがっていたこと…。
話し終えてアランの顔を伺うも、そこに動揺の色は見えない。
「狙われてるっていうのは…なんとなくは知っていたよ。そもそもイリスに拾ってもらうきっかけを作った魔物との戦いでも…魔物以外の何者かの攻撃があったように思う」
「そう…知っていたのね……」
アランは知っていたのだ。あの、不自然さを。瀕死のアランだけが転移させられた、あの状態を。
では、やはり…勇者のパーティーの中に犯人が?
「そう考えるのが妥当だろうな。まぁ、考えても分からないさ。明日何かしらをやるっていうなら尻尾を掴むいい機会かもしれない。ともかく…イリィはなんの心配もいらないよ。俺が守るからな」
「狙われているのは私ではなく、あなたよ…」
「俺の弱点はイリィだからな」
…その弱点は相当な攻撃を受けなければ死なないのよ。
そう言えばアランは嬉しそうに笑うから…なんだか気が抜けてしまった。
ホッとして改めて周りを見回すと、備え付けの机の上に広げられた、書きかけの便箋が目に入る。
なんとはなしに眺めていると、アランが私の視線に気付いた。
「父親から…婚約の打診が来てたから、断りの手紙を書いていた」
「…断るの?」
ぽやぽやとする頭でアランを見れば、拗ねたような顔を向けてくる。
…初めて見る顔。可愛い……。
「俺にはイリィがいるだろう」
アランが私の頭を優しい手付きで撫でてくれる。
……気持ちいい。優しい。嬉しい。愛おしい。
トクトクと聞こえる心地よい心臓の音は、私を落ち着かせるのに、どこか甘く切ない。
魔力切れでふわふわとする頭は、うまく働いてくれなくて。
だからちょっと…心が、気持ちが、溢れてしまって……
「アラン、好き………」
撫でる手が止まったから見上げれば…限界まで開かれた青がこちらを見ていて、はたと気づく。……………しまった。やっちまった。
「処刑回避のために頂点をめざしますわ!」という、だいぶテイストの違うものも書いております。
読んでくださると嬉しいです!




