アクアマリンの中に光る希望の色
「イリス…!イリスだろう!?あぁ、なんてことだ!ずっと探してんいたんだ…!!なぜ俺の前からいなくなったんだ!?イリス…イリス……!!」
「っ、違…!」
ガシッと私の肩を両手で掴み、縋るような目で私を見つめてくる。今にも泣き出しそうに。必死に「捨てないでくれ」とでも言うように。
「私、は…」
「………………っ!イリス、じゃ………ない………?」
母様と私は確かに一見、似ている。だがそれは大まかな造形と色だけで、雰囲気は全く違う。母様は華やかな美女だ。中身も外見も太陽のように明るく、たくさんの人が母様に魅了されるのを鞄の中からよく見た。だが私に華やかさは皆無。ぱっと見で見間違うことはあっても、すぐに気付くはずだ…ラヴィル様のように。
まじまじと私を見つめるその瞳から、アメジストのような輝きから、ゆっくりと希望の光が消えていくのを目の前で見てしまった。ラヴィル様の苦しさとか寂しさとか悩みだとか、いろんな感情を見てしまった。感じてしまった。
肩を掴んでいた手がずるりと落ちる。
……絶望。ラヴィル様を絶望が飲み込んでいく…。
空がゆっくりとラヴィル様の心のように陰っていく。
「イリスじゃ……、な、い………」
「ラヴィル…」
国王が心配そうにラヴィル様を見つめる。
「イリーネ殿、弟のラヴィルが失礼したね。昔、弟は旅先でイリスという娘と出会い、晴れて恋人になったのだが…その娘がある日突然消えてしまったらしい。ラヴィルは縁談を全て拒み、ずっとその娘を探しているのだが…もう、20年近く前の話だからね…」
そんな王家の個人的なこと、みんなの前で言って良かったんだろうか?周りをチラリと見ると、驚いた風ではない。私の戸惑いに気付いたのだろう。「恥ずかしながら有名な話なんだ。縁談を断るために勝手に大々的に発表してしまってね」と国王が苦笑しながら教えてくれる。仕方のないやつだ…という雰囲気の裏には確かな愛情と憐憫が垣間見える。
ラヴィル様が何かを振り払うようにふるりと頭を振る。
「そう…だよな。イリスが今もこんなに若いわけがない。すまなかったな、お嬢ちゃん。よく似てたもんでな…。俺の…大切な、人に」
「大切な…人………」
「その…親戚に、君に似たイリスという女性はいないか?私の少し下くらいの年のはずなんだが…」
どうしても諦めきれない想い。愛情、執着。それはまるでドラゴンが決めた番のようだ。
当時、母様とラヴィル様は一見、年齢が近かったかもしれないけど、今も母様の外見は変わらないので見た目だけなら少し下どころではない。そして実年齢はまさかの300歳超え。それを知らない、ということは…つまりは母様はラヴィル様に自分がドラゴンであることは伝えなかったのだ。いや、伝えられなかったっていうのが正しいのかもしれないけど…。
私はどうすればいいかしばし思案する。
その時、雲が風に流され、少しずつ晴れ間が見えてくる。
ところどころ雲の切れ間から光が差し、謁見室にも、私の立っている場所にも光が降り注ぐ。
ずっと祈るように私を見つめていたラヴィル様の目が見開かれる。
「水色に…紫、の…瞳………?」
私の瞳の色は水色。だけど、日の光に当たると少しだけ入っている紫がよく見えるのだ。アランも洞窟にいるときは気付かなかったが、洞窟から出て初めて気付いた色だ。この紫は母様には無い。私だけだ。
それを聞いて、その場の全員がハッとする。
………あ、なるほど。これはマズい。
「きみは…きみは、イリスの子なんだね!?父親はもしかして…!」
「っ!ラヴィス様!…………申し訳ございませんが私の両親については事情によりこの場ではお話できないのです」
「それは、どういう…?」
「…………後程、個人的にお時間を頂くことはできますでしょうか」
こんなにたくさんの人の前で話せることはできない。でも私と母様の呪いについて、この人は知る権利がある。きっと、ずっと母様を探していたのだ。母様だけを…。もう、終わりにしてあげなければ。
ちらりとアランを見る。表情から、意外な展開に私を案じてくれているのが分かる。
胸が痛い。
結局、母様も私も、この呪いから逃れることはできないのだ。
*****
その後、国王から明後日はちょうど城で夜会が開かれるので、それに参加してから魔王討伐に出発せよと言われて謁見室を後にした。
なぜ魔王が出現している状況なのに夜会に参加?みんなに『魔王がいても余裕ですよー』っていうデモンストレーション?それとも政治的意味が何かあるの?うーん、そこらへんは私には分からないけど…その間、私達は城に滞在することになるらしい。緊張するわぁ。肩肘張るわぁ。城下の宿が恋しいわぁ。
でもまぁ、ラヴィス様とゆっくりお話も出来るし…って、もしかしたらそこが目的かもしれないわね?
謁見室から出た私達はそれぞれの部屋に案内された。部屋はお城だからゴテゴテにキンキラキンな予想だったけど(あれ?この想像、私だけ?)、意外にも落ち着いた雰囲気だった。でも家具や調度品は上品な造りで、恐らく名のある職人の手によるものだろう。流石王城!
私が部屋の真ん中で部屋を眺めていると、落ち着いた侍女がスッと出てきて腰を折る。
「私はイリーネ様の身の回りをお世話させて頂きますアンナと申します。以後お見知りおきを」
「え?」
「イリーネ様の身の回りのことは私がすると言っているのに…」
「え??」
「男性ではこなせないこともございましょう?それにここは王城です。国王の名に恥じぬおもてなしをさせて頂きます」
フランツさん、いたの…。ていうかお世話なんていらないよ?身の回りのことは自分で出来るし…なんてことを言ったらふたりに怒られた。あ、はい。おとなしくしてまーす…。
アンナさんは私より少し年上かな?落ち着いた茶色い髪で榛色の切れ長の瞳を持つ、クールビューティーさんだ。
「ラヴィル様からお茶に招待されております。お召かえ下さいませ」
「え、着替えるんですか?」
「そちらのご衣装は旅装束でございますからお茶会には不向きかと存じます。それにお相手は王弟陛下ですから、きちんとしたものをお召になるべきかと。すぐにご用意致しますのでお召しかえ下さい。時間があまりございませんので湯浴みは省かせて頂きます」
「はい…」
ちゃきちゃきしててなんか口を挟めない…。うん、もうこのまま言う通りにしよう。そうしよう。
「ではフランツさん、外に出ていて下さいませ」
「………………………かしこまりました」
間が長い!!
着替えるんだから出ててよ!いや、待てよ?この世界って執事なら着替えのとき同席するのが普通だったりする?私がおかしかったり?あ、はい。やっぱり普通同席しないんですね?
フランツさん!ゲットアウト!!
私はアンナさんが用意してくれた淡いラベンダー色のワンピースを身に着ける。
はぁん…ときめくぅ〜!
ウエストはピンクのリボンでキュッと締まっているが、スカートの部分はシフォン生地が重ねられていて、ふんわりと広がって可愛い!ウエストのリボンとお揃いのチョーカーが可憐で女の子らしい。
髪の毛はフランツさんがふんわりと結い上げてくれた。小さな生花が散りばめられていてこれまたときめくぅ…!
ちなみに髪を結い上げるにあたり、どちらが結うかでアンナさんとフランツさんで無言の攻防があったようだが、どうやら今回はフランツさんが勝ったらしい。
だがこの出来上がりに、あまり表情豊かではないアンナさんもどことなく満足そうにしているところを見ると、アンナさん的にも申し分ない出来上がりだったようだ。
「とてもお似合いです。銀の髪と淡い色合いが相まって…妖精のようですわ」
「すごく美しい…さすが私のお嬢様です」
「ありがとうございます…!」
これで金髪とかだったら華やかだったんだろうけどね〜。なんかごめんね。でも褒めてもらえて嬉しいな。
コンコンッ。
ノックの主はアランだった。返事をすると、入って来て私を見たまま…固まった。
そして顔を真っ赤にして片手で口元を抑え、ぐりんっとそっぽを向かれてしまった。え、見るに堪えないってこと?
…酷い。分かってはいたけどさぁ…。現実から目を逸らしてはいたけどさぁ…。
私のウキウキとした心がしゅんと萎んでいく。
「そんな風にしなくても…」
「…え?」
「確かに私、お婆ちゃんみたいでこういう女の子らしい洋服は似合わないけどさ?そこまで露骨に態度に出さなくてもいいじゃない…」
「えっ!?」
「「勇者、サイテー」」
フランツさんとアンナさんの声がハモる。
「ええっ!?ちが…違う!俺はイリーネがあまりにも美しかったから直視できなかっただけで…」
「……アリガトウゴザイマス」
「本当だ!!」
ハイハイ、分かりましたよ。
「本当だ!信じてくれぇ!!」
ハーイハイ。大丈夫、傷ついたりなんてしませんよ。分かってはいたからね。そんなに必死に取り繕わなくてもいいですよーだ。
「けれど…お婆ちゃんみたい、とはどういうことです?」
アンナさんがアランをジト目で見つめたまま私に問う。アンナさん的にもアランの態度はアウトだったらしく、小さい声で何やら「ヘタレ勇者が…」とか呟いている。
「だって…私の髪、お婆ちゃんみたいでしょう?」
「「「は?」」」
「顔も華やかさに欠けるし」
3人が丸い目をこちらに向けて固まっている。
なんか面白い。
「ひっ!?」
「それは白髪じゃない!銀髪だぞ!?こんな美しい色見たことがない!」
「何を言ってるんですか!こんなに美しい銀髪なのに!イリーネ様は華やかというより、清楚なんです!
」
「こんなに光り輝く白髪があるわけないでしょう!?銀髪です!妖精のような美しい、稀有な色です!」
アラン、アンナさん、フランツさんがカッ!と目を見開いて、一斉に前のめりに話すから吃驚した!しかも一斉に話すから何を言っているのかサッパリ分からない。
とりあえず怖かったのでへらりと笑って首を傾げると、またしても3人一斉に何やら熱弁しだした。
んもう…何言ってんのか分かんないってば!
でも、ラヴィル様に真実を話さなくちゃって気を張ってたから…なんだか肩の力が抜けたわ。
私がついへにゃっと笑うと、3人も目をぱちくりとさせ…ふっと笑ってくれたのだった。
投稿が遅くてすみません!
なるべく早く投稿できるよう頑張りますので、読んでくださると嬉しいです。
イリーネに一目惚れしたクールビューティー、アンナちゃんです。




