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殺し屋が執事になってみました。  作者: ヘモグロビン
6/6

この女、冷徹にして最狂




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


メルロside




「差別は嫌いなので、分け隔てなく殺します」




口元に笑みを浮かべながらアオメさんはそう言った。




彼女の考え方はもちろん理解できるが、

私には到底実行しようとは思えない。



主を殺すのは慣れたが、無関係の人を殺すというのはしたことがない。




しかしアオメさんはそれが当たり前かのように話していた。




それがスペルタールでの教訓なのだろう。




確かだがスペルタールでは『自分の邪魔をする者は誰でも殺せ、暗殺に差別はいらない」と教えられていたはずだ。




私はまだ暗殺者に、黒に染まれてないのだろうか…




そう思った時いきなり私の名を呼ばれた。




「メルロさーん??なんでまた毒入ってるんですか?」




どうやら今日の晩食であるハンバーグを口にしたようだ。




「フグの毒でも気づくんですね…」



「生臭いですもん、青酸系とかも消毒くさいですけどね」




そう言ってハンバーグを食べている。



それは普通の元気の良い男の子みたいだ。




16歳にして彼は何を見て育ち、何をして生き、何を体験してきたのだろう。




少なくとも私が見てきた甘い世界とは比にならないほどの黒い毎日だろう。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アオメside




結局、3日後に控えた結婚式を狙うと決めた私達は侵入方法を練る。




「コルトさん、招待状は偽造できますか?」



「全て直筆、そしてテルターノ家の紋章が入っているので偽造は無理そうです」




ともなると招待状が入らない客はオーケストラなど何かを披露する人達だけだ。




「アオメ、人目をひくこと出来るって言ってたよね?」



「はい、結婚式ならバイオリンでの演奏とかどうですかね?


扉付近から入って人の目を集めるのでその時に裏から入れるでしょう」





明日、バイオリンも持ってこなきゃな…




「それが1番いいな、計画はだいぶ立てれたから大丈夫だろう。


コルトは引き続き、情報を出してくれ」




そこまで話すと、あとはみんなで笑い話や雑談をしながら晩食を終えた。






それから私達は自室に戻る。


マスターからは明日の外出許可は取れたようだ。




メモに明日持ってこなければならない物をリストアップする。




女物の下着、武器、バイオリン、使えそうな者全部持ってこようかな…




ここに来た時に来ていたコートのポケットから自宅の鍵を出す。




久しぶりの家だな…少し楽しみだ。




私はもう一度お風呂に入り、次はカツラを外したままベッドで寝ていた。




コンコンコン




やば、メルロさんとかだったらカツラが…




私は「はーい!」と言いながらカツラを手に取っていたらステラさんの声が聞こえた。




カツラを離して、私はステラさんを部屋に入れる。




「うぉっ!あ、お前か…」



まだこの姿に見慣れてないようで、一瞬驚かれたがすぐに無表情に戻る。




正直、また襲われるのではないかと身構えたがそれは杞憂だった。




部屋に来た理由はは私の家がどの辺にあるか、を知りたかったからだそうだ。




「ここから徒歩で30分ですね。


ここから1番近い街の路地裏にあります」




ステラさんが持ってきてくれていた地図でこの辺、とペンで示す。




「なら、買い出しの途中で寄れるな。

明日は燕尾服以外の地味な服を着ろよ?


ただの買い物じゃなくて、闇商品を扱う店に行くから拳銃は持っとけ。


キョロキョロせずに堂々と歩いて、殺気を常に出しとけ。


人を寄せないようにして、顔を覚えさせるな」




全てに私は返事をして、理解する。



ついでにクローゼットから服を取り出して、明日の服をコーディネートしてもらった。




「明日あたり、女だって事言おうと思います」




私がそう言うと、ステラさんは「分かった」と言って帰って行った。




私も早く寝てしまおう….







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


メルロside




部屋に6個のアラームが鳴る。



低血圧の私に朝という存在は天敵でしかない。




全てのアラームを止めてからカーテンを開け、朝日を全身に浴びる。




冷水で顔を洗い、目を覚ましてから

自分の身支度を整える。




燕尾服ではなく、長い丈の白いTシャツに紺のジーンズ、その上に黒のロングコートだ。




このままだと髪の毛が目立つので、後ろで一本にまとめて荷物を持って外に出る。





「おはようござ……いない」




挨拶をしたのはいいものの、まだ誰も出てきていなかった。




みんなの部屋の戸を叩き、催促する。



クレナとステラの部屋からは返事が聞こえてきたが、アオメさんの部屋からは聞こえてこない。




部屋に入って起こしてきた方がいいか…




幸いにも鍵が開いていたのでそのまま部屋に入る。




暗い部屋を進み、ベッドへ行くと白い布団の塊が1つあった。




「アオメさん、朝ですよ!起きてください!!」




彼がいると思われる布団の塊を優しく叩いた後、カーテンを開ける。



その間に「…ん、ふわぁぁ~」と大きな欠伸も聞こえたので私は振り返る。





「ーーっっ!?!?!?!?!?!?!?!?」




布団から出てきたのは長い髪の、胸が膨らんでいる人だった。




「おはようござぁぁぁぁぁぁぁ!!」




私を見るなり、叫んで部屋を出て行った。




後を追いかけると、もう部屋から出ていたステラの肩を掴んでいた。




「ステラ、どういうことです?彼女は誰ですか!?」




私がそう聞くと、彼女を落ち着かせたステラがなぜか私の眼の前に彼女を立たせた。




「自分で言え…」



ステラがそう言って彼女の背中を叩く。




「あ、あの黙っててすみません!

実はあれ変装で、こっちが私の本当の姿なんですっ!!!」




いきなり意味のわからないことを話した彼女の後ろでステラがため息をつく。




「要するにこいつはアオメだ。

アオメは男じゃなくて女ってこと」




私はステラとアオメさんの顔を交互に見る。



ステラは大真面目な顔でそう言ってるし、彼女の顔はよく見ると確かにアオメさんだ。




「あ、なるほど…こちらこそすみません。勝手に勘違いしてました」




訓練場で見た時の動きでは確かに女性らしい繊細な攻撃ではあったけど、クレナに負けないほどの力も持っていたから分からなかった。




「おい、お前は急いで着替えてこい!」




ステラがアオメさんにそう言うと、彼女は部屋に戻って行った。




「ステラはいつ知ったんですか?」



「あいつが来た当日に…」




アオメさんが女なのは別に不思議な事ではないのか…と自分の中で納得をする。




ただ胸がものすごくドキドキしてる。




まさかこの歳になって年下に一目惚れですか…




自分を自分で笑ってしまった。






「何事?叫び声聞こえたけど…」




眠い目を擦りながら、私服を着たクレナが部屋から出てきた。




「アオメさんが女性でした…」



「やっぱりかぁ~、そんな気がしてた」




やっぱりクレナも驚いて…………




「「クレナ知ってたのか/知ってたんですか!?」」




私とステラが驚くなか、クレナだけが

平然としている。




「知ってたと言うか、アオメの匂いが女の子と匂いだったから」




嗅覚が強いのは知っていたけど、まさかここまでとは…。



今日まで知らなかったのは私だけか、と少し落ち込んでしまった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


アオメside




自分から切り出そうと思ってたのに、

こんな感じで知られるなんてっ……




私は慌てて顔を洗い、昨夜にステラさんがコーディネートしてくれた服を着てウィッグをつけてから部屋を出る。




「お待たせしてすみません!」



「ーアオメ、クレナにもバレてるぞ」




「へっ!?」と私は言いながら、クレナさんを見るとまた抱きついてきた。




「女の子だって分かってたけど、訳ありだと思ったから黙ってたの」




ということはもう既にみんなにバレてるということだ。




「黙っててすみませんっ!」




私が謝ると、みんな笑って許してくれた。




屋敷に雇われてたったの2日で全員にバレてしまった。





「もうバレたのにカツラでお出かけするの?」




「女だと絡まれやすいからそのまま行ったほうが都合いい。じゃあ、行くぞ」




そう言って私たちは屋敷を出る。



雪は降っていないが、地面には数ミリ積もっていて歩くたびに音がなる。




「ここはまだいいが街に出たら、気を引き締めろよ、いいかクレナ?」



「なんで僕だけ!?」




というやり取りに私は笑う。


隠し事もなくなったのでものすごく体が軽く感じる。



無事に受け入れてもらえてよかった。



約3日ぶりに外に出たのだが、やはり外観もこの屋敷は豪華だ。



襲いに来た日は夜だったからな…




屋敷の周りにはたくさんの自然があるし、こういう所を昼間に見るのは初めてだ。





少し歩くと、私が住んでいた治安の悪すぎる街に出る。




朝からそこらにガラの悪い奴がゴミのようにたくさんいる。




「アオメ、殺気だしとけ。見られてる」




ステラさんがそう言ってきたので、私は仕事の時と同じ気持ちにする。



4人組が道の真ん中を歩いていると、いろんな意味で目立つがそこまで見なくても…と思ってしまう。




それにステラさん達も殺気を出しているので、肌がチクチクする気がする。




ステラさんの殺気も普通にすごいが、クレナさんはもっとすごい。



少し微笑んでいるのに、この殺気。




この人たちも普通じゃないな…。




なんて思っていたら最初の店に着く。



ここは治安は悪いが物価がとても安い、その理由は裏取引で仕入れてるからだそうだ。




「よぉ、今日はなんにする?」




店の常連のようでマスターが気さくに話しかけてくる。



ステラさんが欲しいものを書かれたメモを渡すと、すぐに袋に詰めて持ってきてくれた。



すると金貨を3枚ほど渡してすぐに店を出る。




そんな感じでそれを何件か繰り返していると、私の家の近くになった。




「ここ曲がって少し歩けば家があります」




次は私が少し前を歩き、みんなを案内する。



路地裏はさらにヤバい奴らがたむろしていて、ジロジロと見てくる。




「おい、テメェら俺の陣地に足入れんじゃねーぞ」




たまにそんな感じで文句を言う奴もいるが、彼に目を合わせると舌打ちをして何処かへ行ってくれる。






「ーここが我が家です」




路地裏には似合わない、青々しい蔦に包まれたレンガ壁の我が家。





鍵を開けて中に入ると、代わり映えのない普通の家だ。



一通りの家具は揃っていて、なかなか暮らしやすいのでここは気に入っていた。




みんなをソファに座らせて、ティーバッグの紅茶を出す。




「荷物まとめてくるので待っててくださいね」




居間の左隣の部屋から女物の下着と眼帯だけをバッグに詰める。




それから居間に戻り、棚から幾つかの箱を取り出す。




この棚は私が持っている武器や薬がすべて入っているのだが、必要そうなのは持っていく。




「あ、メルロさん!青酸系の固形と液体の毒ありましたよ!いります?」




私はビンをメルロさんに渡すと、礼を言いながらポケットに入れていた。



これで着替えと愛銃は手に入ったので、あとはバイオリンなどだ。




違う棚からそれらのものを取り出す。


詰めれるだけバッグに詰めて、これで準備は完了だ。





「ーーお待たせしまし…《グゥゥゥゥ》




一瞬の沈黙が流れた後、私はおもわず吹き出した。




「クレナさん、お腹すいたんですか?」




おなかの虫をならせたのは、照れ笑いをしているクレナさんだった。




「お時間あるなら私食事作りますよ、簡単なものだったら」



「アオメの手料理っ!?食べますっ!!」




速攻で返事が返ってきたし、他のみんなも賛成のようだったのでお昼は私の家でということになった。




冷蔵庫を開けると、食材があまりないので限られたものしか作れなさそうだ。



「スパゲティかオムライス…どっちがいいですか?」




私がそう聞くと、オムライス派が多かったのでオムライスを作ることにした。




「完成ーー!!アオメ特製オムライスです!」




4つの皿をテーブルの上に乗せて、みんなをイスに案内する。



「めっちゃ美味しそう!食べていい!?」



「どうぞ、美味しいといいですけど…」




そしてみんなオムライスを口にすると、口々に「おいしい」と言ってくれたのでな良かった。




私はみんなよりも少い量を盛っていたので早く食べ終わる。




というのもしたいことがあったから、早く食べ終われるようにしたのだ。




「食事しながらでもいいので聞いててもらっていいですか?」




私はバイオリンを構えて、いつでも演奏できるところまで気持ちを落ち着かせる。




久しぶりだし、聞かれてるのもあって緊張するがやるしかない。




「♪~♪~♫~~♪~♫~~♪………」




綺麗な音で始まった演奏はミスなく一曲を弾き終わる。



バイオリンを下ろして、みんなの方を見ると口が開いている。




「あの…そんな下手くそでしたか?」




「え、あ、いやっ!上手かったぞ!」



「とても鳥肌が立ちました……」




私が聞くと、急に電源が入ったみたいに動き出したみんなが面白かった。




今日1日は仕事の休みをもらっていたので、私は自由に屋敷を歩く。




「シェロさ~ん!差し入れと買い出しのものです!」



両手いっぱいに抱えた食材達を私はシェロさんに渡す。




「さっきメルロから聞いた。女だったんだな。気づかなかったが……いい身体だな」




ったく、この兄弟はなんなんだよっ!



メルロさんたちと同じく体裁を加えて、

私は着替えてから訓練場へ向かった。




久しぶりに愛銃を使うなぁ~




1番私にあったこの銃は絶対に雑魚相手になんか使わない。



これで殺してきた者たちは少なくとも私が人間だと認識した者だけだ。




真っ白なボディーにはめられた幾つかの小さな黒い玉。


そして黒玉のより上の部分には蒼い大きな玉が1つはめられている。




「ーこれはお前だ。俺が思うお前だ」




職人からそう言って渡された世界に1つだけのこの銃。




「次に使う時は誰を殺れるのかな…」




私は心を躍らせながら銃をくるくると回していた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ステラside





何度も目をこすった、それでも目の前の幻覚は消えない。



暇だったからみんなで訓練場に来たのだが、白いものが飛び回っている。




訓練場全てを使って、壁に設置された的を動きながら射ている。



最後の的を射たのか、それはようやく床に着地して動きを止めた。





やっぱりアオメだったか……




声をかけようとして、彼女に一歩近づこうとしたが俺はその足を戻した。




久しぶりに恐怖というものを感じた。



アオメは真っ白なパーカーを着て、フードを深くかぶっているので顔はうかがえない。



だか、凄まじい殺気を彼女は纏っていた。




彼女を捕まえた日にこんな殺気を感じなかった、力が計り知れない…




「っ……っ!?……」




声もでないし、ガラにもなく体が震えているのがわかった。




不意にビクッと動いたアオメはゆっくりと顔を上げながらこちらを見た。



ー!!!!!!




俺はあいつを知らない、あいつはアオメじゃない、そう思ってしまうほどだった。






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