最後の浄化
「あの、レインさん!」
「はい?」
野営地にてアルハルトと談笑していたレインの元へアカリがやって来てその腕へと絡みつく。
「レインさんってお強いんですよね!」
「あー、まぁ、一応二つ名持ちっスからね」
「凄いです!! 私、強い人って好きなんです!」
「どうもっス」
曖昧に笑ったレインにアカリは更に体を密着さてくる。
レインの隣に座っていたアルハルトはアカリが現れた途端に素早くその場を移動した。
レインが恨めし気な視線を向けて来るが無視である。
関わったら碌な事にならないのだ。
「レインさんが最初っから護衛についてくれていたら私、すっごく安心して旅が出来ていたと思います」
「……」
「アルハルトさん達が強いっていうのは分かるんですけど、なんだか安心は出来なくて……だから私、この旅の間ずっと不安だったんです」
「……」
「“依頼”だから守るんだって最初の方に言われて、それからはもう、本当に不安で不安で……」
「……可笑しな事言うんスね」
「え?」
アカリの言葉を黙って聞いていたレインが自身の腕に絡まっているアカリの腕を半ば無理矢理に解き立ち上がる。
「“安心して出来る旅”なんてこの世に存在してないんスよ」
「え?」
「どんなに屈強な護衛を雇おうと、どんなに強固な守りで固めようと、そこに“絶対の安心”なんて保障されてないんスよ。どこで何が起こるかなんて分からない。不安で仕方ないのは皆同じなんスよ」
「それは……そうかもしれないけど、でも……」
「それに、“依頼”だから守るなんて、そんなの当然じゃないっスか。俺達はギルドの人間なんスよ。依頼を請け、それを遂行して報酬を貰う。あんたを護衛してほしいという依頼を請けたからあんたを守る。何か可笑しいっスか?」
「それは……」
「まぁ、俺にはそんな依頼来てないっスから、俺があんたを守る義務はないんで、もし何か危機が迫った時はアルさんかシルさんを頼って下さいね」
「っ、」
顔を歪めたアカリが馬車の方へと踵を返す。
「まぁ、もし俺に依頼が来ても断るっスけど」
ベー。と舌を出し馬車に乗り込むアカリを見送ったレインの元にアルハルトが戻って来た。
「案外早く追い払ったな」
「だって相手するのも馬鹿らしいっスよ」
「お前、なんか会う度にいい性格になって行ってるよな……」
「そうっスか? まぁ、お手本は周りにいっぱい居るっスからね!」
「あー、確かに」
再び腰を下ろして他愛もない話をしていた二人の元に今度はシルティーナがやって来る。
「ちょっと、聖女様がまた浄化やらないとかほざきだしたんだけど、何を言ったの?」
「別に事実を言っただけっスよ」
あっけらかんと答えたレインにシルティーナは息をつく。
「事実を言われて臍を曲げるのがあの人なんだから、時と場合を考えて言ってよね」
「了解っス。それで? 聖女様は?」
「今ユトが宥めてるわ。今日は一先ずこのまま待機よ。浄化はたぶん明日になるだろうから、好きに過ごして貰っていいわ」
「はいっス」
「分かった」
溜息混じりに去って行ったシルティーナの言葉通り、その日は結局アカリの機嫌が直らずそのまま待機となった。
ーーーーー
ーーー
ー
そうしてやってきた次の日。
陽が昇りきった昼前、アカリの機嫌も何とか持ち直し、一同は再びマンリーニャの入り口へと来ていた。
シルティーナが結界に触れれば、そこから霧散する様にして結界が消える。
「いよいよ最後の浄化だね、アカリ」
「うん。ねぇユト、この旅が終わってもずっと一緒に居てくれる?」
「……」
答えない代りにユトがアカリの手を握る。
それを答えととったのか、アカリが嬉しそうに笑ってユトに寄り添った。
穢れた土地を前にして行われる奇妙な茶番劇にレインが理解出来ないといった様な表情をする。
「……何時もあんな感じっスか?」
「何時もあんな感じだな」
「ユトさんも大変っスねぇ」
「あら、あれはあれで楽しんでるのよ」
「ユトさんもサディスティックな一面があるっスよね……」
「代表格はやっぱジン様だけどな」
「言えてるっス……そういえばキハトさん達はどうしたんスか?」
「ああ、彼等はクーちゃん達と合流して貰ってるわ」
「成る程。いよいよっスからね」
「ええ」
そんなこんなと話している内にアカリが浄化を開始した。
「綺麗っスねぇ」
「これが見納めなのはちょっと残念よね」
「ま、やってる奴の心が全く綺麗じゃないのが皮肉って感じでいいとは思ってたけどな」
「アル、あなたそんな風に思ってたの?」
「何だよ、あながち間違いでもねぇだろ?」
「と言うよりは的を得てるっスよ」
「あなた達、ユトやジンの事をサディスティック呼ばわり出来ないわよ……」
これを入れて計五回、シルティーナはアカリの行う“浄化”を視て来た。
その度にそれの美しさに見とれ、そして思うのだ。
『人の心も浄化出来ればいいのに』と。
「まぁ、それが出来たところで今更何も変わらないだろうけどね」
「え? なんスか?」
「何でもないわ」
徐々に光が収まって行き、遂に浄化が終わる。
「さぁ、最後の幕が上がったわ」
パチンと小さく鳴らされた指の音がティルティンクルの操る風に乗って辺り一面に響いた。
それが、終わりの合図だった。




