レイン合流
「何、これ?」
「結界みたいです……」
「結界? そんなモノが何故ここに張られているんだ?」
「さぁ? けれど中に魔物の姿も確認出来ませんし……」
中途半端に言葉を区切ったテドラが後ろに居るシルティーナ達を振り返る。
『そうだった、忘れてた』と言う表情で頭を抱える一同にテドラは何となく状況を察した。
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カミーナとの定期報告の後シルティーナが言った通り、それから三日後にはマンリーニャに着いた。
マンリーニャに着く前にキハト達三人が先に馬を走らせ、マンリーニャ付近に居た騎士達を上手く誘導して干渉して来ないように手を回したところまでは完璧であった。
マンリーニャの近くで待機している双翼の及び"味方"の者達へも到着の報告を済ませ、後は浄化をすればいいだけとなったのだが、そこで問題が発生した。
否、別に問題と言う程深刻なモノではないのだが、その存在をすっかり忘れていたシルティーナ達は即興で"言い訳"を考える事となったのである。
その"問題"というのが、クラリナ達が上陸した時にクラリナの使い魔であるマイラの力で一掃した魔物達の事とマンリーニャに張られた結界の事であった。
それにいち早く気づいたのはミリアーネである。
「あ、あの、」
マンリーニャに着いたのは明け方近く。
一度休んでから浄化をしようと各々が休息の態勢に入った時、状況確認の為に出ていたミリアーネとテドラが戻って来た。
その状況確認の時にミリアーネがマンリーニャに張られている結界に気づいたのである。
そして冒頭の場面へと戻る。
ミリアーネの報告でマンリーニャの入り口まで来た一同は、不可視の、けれど触れるとそこに"何かある"と分かる結界に困惑していた。
と言っても困惑しているのはアカリとフラクト、マースにミリアーネ、テドラと言った面々だけで後のメンバーは一様にすっかり忘れていたその存在に頭を抱えていたのだが。
「そうだったわ。クーちゃんが結界張ってくれてたんだった……」
「どうやってごまかすよ?」
「騎士団の者があの様な高度な結界を張れない事は流石のフラクト様でも分かっているでしょうし……」
「私達の仲間がやった事にしたってその理由を考えないといけないわよね」
後方で話し合いをするが中々良い案は出てこない。
そんな時、
「ヤッホー、シルさん!! お久しぶりっス!!」
そんな明るい声を張り上げてシルティーナ達に手を振りながら近づいて来たのは金の短髪が目立つ一人の男だ。
「あれ、レイン?」
「はいっス! アルさんも久しぶりっスね!」
「おー、久しぶり。って、そうじゃねぇよ。何でお前ここに居んだよ?」
「あの、お知り合いですか?」
突然現れた男に警戒心全開でミリアーネが尋ねる。
「はい。私とアルが所属する傭兵ギルド、双翼の剣の一員です」
「レイン・ナナセイトっス。よろしく」
「あ、ミリアーネ・フルクトルです。よ、よろしくお願いします」
笑顔で自己紹介をしたレインにミリアーネも微笑みを浮かべて返す。
「レイン・ナナセイトって、二つ名持ちの……?」
「お? 知ってくれてるんスか?」
驚いた様に声を上げたのはテドラである。
そんな彼の前に行ってレインは右手を差し出した。
「世間様からは"神雷の槍使い"って二つ名で呼ばれているっス。レインでいいっスよ。よろしく」
「あ、テドラ・バルラトナです。よろしくお願いします」
「知ってるっスよー」
しっかり握手を交わしながらレインは笑顔で言う。
「シルさんの元弟君っスよね」
「っ、」
"元"をやけに強調した、笑顔も声音も明るいまま全く変わらないで言われたその一言はしかし、だからこそテドラを震え上がらせるには十分なものだった。
「それで? 何で貴方がここに居るの?」
固まったテドラは気にも留めないでシルティーナがレインに問う。
それまで固く握り締めていたテドラの手を何事も無かったかの様に自然に離したレインがスッとマンリーニャに張られている結界を指さした。
「これの説明に来たんスよ!」
「ああ、その結界の事。それ、クーちゃんが張ったヤツでしょ?」
「お、流石シルさん! 分かるっスか?」
「そりゃあ、こんな大掛かりで強力な結界張れるのはクーちゃんくらいだからね」
「ご名答っスよ! コレ、クラさんの使い魔のマイラさんが張ったんスよ」
「中の魔物も?」
「はいっス。マイラさんが殲滅してくれたっスよ」
「流石クーちゃんね。それで? 何でクーちゃんが魔物の殲滅をしたり結界を張ったりして、貴方がここに居るの?」
特に打ち合わせした訳でもないのに自然と話を合わせる二人にアルハルトが苦笑して肩を竦める。
「流石はクラリナ。先見の才は相も変わらずってか」
ポツリと呟かれた言葉を拾ったのはミリアーネだ。
「あ、あの、それはどういう事ですか?」
「うん? あー、あの結界な、うちのギルドの奴が張ったんだよ。クラリナ・ハミューリーって奴でな、俺達はその事を知っていたんだけどすっかり忘れていた訳だ。で、たぶん俺達が忘れているだろうって事まで見越してクラリナがレインを寄越した。他の奴等に怪しまれない様にちゃんとした“言い訳”まで用意してな」
「言い訳、ですか?」
「ああ。まぁ見とけって」
ニッと笑ったアルハルトがシルティーナとレインに視線を戻す。
そこでは既に、他のメンバーを前にした“言い訳”が始まっていた。
「俺とクラさんにちょうどこの国の人から別の依頼が入ったんスよ。で、出向いた先でついでだからシルさん達の手助けでもしようかってなって、俺達が居た場所から一番近い穢れた土地の魔物の殲滅と、穢れを抑える結界を張った訳っス。クラさんはその後直ぐに別の用事があるって行っちゃったんスけど、俺はシルさん達に説明する為に残ってたんスよ」
「成る程ね。帰ったらクーちゃんにお礼言わないとね」
「結界はシルさんが触れたら解ける様になってるから、浄化には問題ないって言ってたっスよ」
「分かったわ。なら一度野営地に戻って休みましょうか。日が完全に昇ってから浄化を始めましょう。レインも来るでしょう?」
「あ、いいっスか? ならお邪魔するっス」
そうして一同は今度こそ休息をとるために野営地へと向かうのだった。




