近づく終わりに
「これが"浄化"ですか」
「ヘェ! 初めて見たが、綺麗なモンだナ」
「本当、幻想的だね」
フユネの浄化を目の当たりにしたキハト達三人が感嘆の声を上げる。
キラキラと輝きながら空へと昇って行く光の粒子が浄化が無事に行われている事を示していた。
「これで後一カ所……」
「いよいよ、だな」
その光景を見ながら、シルティーナとアルハルトは言葉を交わす。
「ラカヤンではもう戦いが始まっているし、エレイン達もラカヤンに向かっているし、マスター達も既に海上で待機してる」
「国民達も戦の事に気付き始めて少しずつ混乱が広がっていっているしね」
「全てが終わりに向けて急速に動き出してる感じだな」
「動き出してるのよ。私達の"計画"通りに」
「この国の国民達はどうするんだろうな?」
「さぁ? どのみち、"リディーラン王国"という国は滅びるわ。ルラン王国がこの大陸を支配下に置くだろうから、ここは"ルラン王国"になる。その後彼等がどうするのか何て興味はない。ルラン王国の国民になりたくないなら何か行動を起こすだろうし、別に国の名も王もどうでもいいのなら今まで通りに暮らすでしょう。まぁ、どこまで"今まで通り"が出来るかは知らないけれどね」
興味もないと言った体で話すシルティーナにアルハルトが肩を竦めて苦笑した。
そんな二人の方へマースが駆けて来てキハト達の方を指さす。
「お姉ちゃん! 騎士の人達が呼んでたよ」
「そう、分かったわ。有り難う」
「ねぇ、」
アルハルトを伴ってキハト達の居る方へと踏み出したシルティーナをマースが引き留める。
「なに?」
「もうすぐこの旅は終わるんでしょ?」
「ええ、そうよ」
「終わったらお姉ちゃん達はどうするの?」
「私達は在るべき場所に戻るだけよ」
「あるべき場所?」
「そう。私達がここに居るのはあくまで"依頼"だから。それが終わったのなら何時までも共に居る必要はないから、そこで一緒に旅して来た人達とはお別れよ」
「お別れ……もう、いっしょに居れないの?」
「少なくとも、私達と聖女様達は別々の道に進む事が決まっているわ」
「……」
俯いてしまったマースにシルティーナが小さく息をつく。
小さな彼にとって、今のこの旅はそれで一つの"世界"なのだろう。
アカリが居てフラクトが居てテドラが居てユトが居て、ミリアーネが居てアルハルトが居てティルティンクルが居てクロイツが居てシルティーナが居る。
全員の仲が良い訳ではないけれど、それでも決して短くはない道のりを共にした者達。
幼い彼が情を抱くには十分で、離れ難く思うのは当然で……
それでも、別れは目前なのだ。
「元々終わりのある関係だったのよ」
「……」
幼い彼に皆は優しく接した。
シルティーナやアルハルト、クロイツは自ら進んで関わる事はしなかったが、それでも話しかけられれば言葉を返し、問われれば答えた。
彼は、そんな優しい関係をこれからも欲しているのだ。
けれど、
「私が言った言葉を覚えてる?」
「え?」
「自分で道を選ぶのよって言ったの覚える? 後悔しないように、二度と繰り返さないようにって言ったの、覚えてる?」
「うん」
「そう」
ポン、とマースの頭に手を置いて数回撫でる。
出会った時より僅かばかり高くなった背丈に目を細めた。
「あなたが選ぶのよ」
「え?」
「この旅が終わったその時、どうするのか。あなたが選ぶの。この旅の結末をきちんと受け止めて、受け入れて、そうして選ぶのよ、自分の道を。決して後悔しないように」
「僕が……」
「分からない事があったら教えてあげる。知りたい事があったら教えてあげる。全てに答えてあげる。けれど、どうするかは自分で決めるの。それだけは、私の言葉も、聖女様の言葉も、その他の誰の言葉も聞き入れてはいけないの。自分で考えて自分で決めるのよ。分かった?」
「なんで?」
「だってあなたの人生だから」
「僕の……」
「そう。あなたの。だから、この旅がどういう終わりを迎えようと、あなたは自由に生き方を決められるの。他人に任せてはダメよ。あなたの人生の責任は、あなただけが負うの。あなただけが負えるのよ」
「……?」
「ふふ。ちょっと難しかったかな? それでも、忘れないでね。選ぶのはあなた。決めるのも、あなたよ。分かった?」
「うん。分かった」
「いい子」
頷いたマースの頭を最後にもう一度撫でてシルティーナは歩き出す。
浮かべた笑顔は心底楽しそうなモノだった。
「ご機嫌だな」
隣に並んだアルハルトが言えばその笑みは更に深まった。
「当然でしょ。彼はこの旅のメンバーにとてもよく懐いているもの。聖女様は勿論だけど、ユトや私やアルにも同じくらい懐いてる。そんな彼がどんな答えを出すのか、楽しみでしょうがないわ」
「恨むのか憎むのか許すのかってか?」
「そうよ。私は彼が出す答えを知りたくてしょうがないの。彼の人生はその時決まるのよ」
かけた言葉に嘘偽りはない。
けれどその根底にあるのは決して優しさや慈しみでは無いのだ。
自分を信じ切っている菫色の瞳にシルティーナはまた小さく笑みを溢したのだった。




