テドラの選択
「ルラン王国はこの国の恵まれた土地が欲しくて攻めて来た。だけどだ、今この国一番の港町マンリーニャは穢れにより人は立ち入れない。そして、それとは別で浄化の旅に出ている俺達の最後の浄化地はマンリーニャだ。ここまでは分かっているか?」
「あ、あぁ。分かっている」
「よし、なら続きだ。双翼の剣はルラン王国の依頼を遂行した暁にはギルドから代表して一つだけ願いを聞き届けて貰うようになっている。俺達はな、立地のいい土地が欲しいんだよ」
「え?」
「新しい本部が欲しいのさ。そしてその場所にマンリーニャはうってつけだ」
「まさか……」
アルハルトが言わんとしている事に気付いたテドラが信じられないと言った風に目を見開いた。
そんなテドラにアルハルトが笑みを浮かべる。
「察しが良いな次男坊。そう、双翼の剣は最初からマンリーニャ狙いだったんだよ。ギルドの奴らがルラン王国の依頼を請けたのはマンリーニャを貰う為だったのさ」
「まぁ、それだけって訳でもないんですがね」
「けれどそう簡単に……」
「そりゃあ、この国が勝とうがルラン王国が勝とうがそう簡単にマンリーニャをくれるとは思っちゃいねぇよ。だが、俺達が何の考えも無しに半数近くの勢力をルラン王国に貸し出すと思うか? ただの偶然で、この旅の最後の浄化地がマンリーニャになったと思うか?」
「そんな……じゃあ全てお前らの……」
「そう。計画の上だったのさ。まぁ、ルラン王国にだけ手を貸しても良かったんだけどな。マンリーニャを貰うついでにこの国の奴等がシルティにした仕打ちの仕返しをしようじゃないかと躍起になった奴等が居てよ。……いや、逆だったわ。シルティを傷付けた奴等にどう仕返しをしようか考えている時にルラン王国を利用してやろうって思いついたんだよ、確か。そうだったよなシルティ?」
「そうよ。ジンが新しく本部を造るなら支部は要らなくなるだろうし、どうせ離れるなら今まで散々こき使ってくれたルラン王国の王族どもに一泡ふかせてやるって事でルラン王国を巻き込む事に決めたのよ」
「自分達より弱い筈の国に制圧され、一番大きな港町はかつて自分達が追放した者とその仲間に取られる。こんな滑稽な話があるか? この国の者達……特に王族は、マンリーニャを見るたびに思い出す事になる。俺達に受けた屈辱を。完全なる敗北を。強者に対する恐怖を。死にたいくらいの絶望を。永遠に、死ぬまで、何度でも。生きている限り苦しみ続ければいい。俺達の仲間を傷付けた奴等にはそれでもまだ温い位だけどな」
「たった一人の為だけにこんな事を……?」
「その通り。さて、じゃあ次男坊、選べ」
「え?」
「こちら側に来るか、それとも国の為に散るか、だよ」
「それが僕が選ばなければいけない事……」
「ああ、そうだ」
突き付けられた選択肢は、最早選ぶ余地もない程のものであった。
喉元に剣を突き付け、『さぁ、生きたいか? 死にたいか?』と問うているも同然である。
「僕は、」
けれど不思議な事に、選択を迫られているテドラには一切の迷いが無かった。
真っ直ぐにアルハルトを見つめ返し、力強く拳を握りしめる。
「僕はもう、後悔したくない。二年前と同じ過ちを犯したくない。あなた達がしようとしている事がこの国の崩壊に繋がるのだとしても、それでも、再び大切な人の笑顔を失うよりはずっといい……僕はあなた達に着いて行きます」
言い切ったテドラにアルハルトが笑った。
「いいねぇ次男坊。ちょっとはましになったんじゃねぇの」
アルハルトの言葉に苦笑で応えたシルティーナが一つ手を打って話題を変える。
「さて、では買い出しも終わった事ですし、皆の所へ帰りましょう。予定より少し早いですが今日の夜には此処を発ちます。少々この街で目立ち過ぎたので、いつ他の騎士団が嗅ぎ付けて来るか分からないですからね」
「そうだな。これからは騎士団にも注意して動かないといけないのか。面倒くさいな」
「あの、全体的な何か作戦とかあるんですか?」
「大まかな流れは決まってますが、事細かな作戦は無いですよ。最終的に計画通りに行けばいいので、細かな部分は自分達で好きに対応していくと言う感じです」
「まぁ、あまり細かすぎる作戦だと、それ通りに行かなくなった時の対応が遅れがちになるからな。臨機応変にって事だ」
「臨機応変……」
「最終的な目的を忘れなければ好きに動いていいんだよ。双翼の剣は大抵そんな感じで今までやって来たからな」
「そもそも細かな作戦を決めたところで大人しくその通りに動いてくれる人達じゃないんですよ。双翼の剣の皆は……」
「……」
「今回、私達は"聖女をマンリーニャまで連れて行き、浄化をさせる"というのを最終目的としています。なので、まぁ、大丈夫だとは思いますが、聖女様や王子様にバレない様に気を付けて下さい。それ以外はこれまでとやる事は大差ありません」
「成る程。分かりました」
「さて、そろそろ着くぞ。我が儘聖女様の説得はユトに任せるとして、次男坊、お前は王子様に今夜出発って事伝えてくれ」
「分かった。……って、え? 『ユトに任せるとして』って、もしかして……」
「ユトも双翼の剣の仲間ですよ」
「ま、旅に加わったのは本当に偶然だったんだけどね」
「……」
その言葉にテドラは瞠目する。
どうやら自分が思っている以外に自分達の周りには双翼の剣の関係者で溢れているようだ。
「じゃあ、行きましょう」
「おう」
「はい」
見え始めた野営地にテドラの顔が引き締まる。
これまでとはまた違った意味で彼は気の抜けない日々を歩む事になったのであった。




