アルハルトとファミラス
カランカラン、と扉に付けられていたベルが鳴った。
それなりに騒がしい店内ではそんな音は無いも同然の様で、入って来たアルハルトには誰も見向きもしない。
「よう、アル! こっちだ!!」
入り口に立ったまま誰かを探す様にグルリと店内を見渡していたアルハルトにかかった声。
「おー、ファーラ。久し振りだな」
少し奥に入った席に座っていた"ファーラ"こと、ファミラス・カランザートがアルハルトへ向かって手を振っていた。
そんな彼に笑みを浮かべたアルハルトがファミラスの前の席へと腰掛ければ、タイミング良く料理が運ばれて来る。
「これは?」
「俺が頼んだ。食え食え! 食いながらでも話は出来るだろ。俺の奢りだ!」
「それなら遠慮なく。と、そうだった。ユトがよろしく伝えとけってさ」
「なんだ、あいつ今日来てないのか?」
「あぁ。聖女様のお守りだよ」
「大変だなぁ」
「まぁ、後少しの辛抱だしな」
「……後二ヶ所、か」
「あぁ」
「ルラン王国の軍がこっちに着くのに大体1ヶ月かかったとして、そこから戦の決着がつくまでに最短で3ヶ月位か?」
「まぁ、戦力差考えるとその位が妥当だろうな。リディーラン王国が海上戦仕掛ける可能性は?」
「ゼロだな。そんな軍事力今のこの国にはねぇよ。迎え撃つので精一杯だろうよ」
「まぁ、軍事力の問題で言えばルラン王国も大したこと無いんだけどな。双翼の剣が手を貸すだけでその戦力図は大きく変わっちまう」
話ながらも食事の手を緩めない二人の前に新たな料理が運ばれる。
その料理にも早速手をつけていたアルハルトがふと手を止めた。
「なぁ、ファーラ。気になってたんだが、」
「どうした?」
「表の奴等は知り合いか?」
「……やっぱ気付いてたか。実はな、この街に来る前に盗賊達と一悶着あってな。その残党だろうよ」
「残すなよな」
呆れ気味に呟いたアルハルトが食事を再開する。
「いや、俺も全滅させる気満々だったんだが、あいつ等逃げ足だけは速くてよ」
そう言って肩を竦めたファミラスも食事の手は緩めない。
その後も会話をしながら食事を続けていた二人の周りをガラの悪い男共が取り囲んだ。
「おい、何か入って来ちまったぞ。お前がこいつ等の話なんてするからだ」
「バカ言え。元々の原因はお前だろうが」
文句を言い合いながらも箸を止めない二人に一人の男が近づく。
「いい身分だなぁ、騎士団員様よぉ!!」
盛大な音を立てて蹴り上げられたテーブルに店の中が静まり返った。
「……」
「……」
「俺達の仲間を散々な目に合わせておいて、自分は暢気に食事かよ? あ"ぁ"!?」
凄んで来る男にファミラスが溜め息をついて立ち上がる。
「食い物無駄にしやがって。食糧難で苦しんでる奴も居るってのによ。いい身分なのはそっちじゃねぇのか? なぁ、アル。…………おい、アルハルト」
「あ?」
問いかけと同時にアルハルトへと視線を向けたファミラスが目に飛び込んで来た光景に思わず呻くように彼の名を呼べば、蹴り上げられたテーブルから間一髪救い上げた皿を持ち、未だに箸を動かし続けていたアルハルトが何とも気の抜けた返事を返した。
「何でお前、未だに食べ続けてんだよ……? 今の流れ分かってるか? なぁ、着いて来れてる?」
「んだよ、ファーラ? そこのやんちゃなお兄さん達が俺達に絡んで来てるんだろ? そんくらい分かってるよ」
「なら、何でお前は未だに食べ続けてんだよ!! これ、今から戦闘になる流れだからな!? お前も体勢整えろよ!!」
「あー? 俺はパス。面倒だ」
「面倒って、お前……相変わらず……たく、しゃーねぇなぁ! おら、やんちゃなお兄さん達よ、表出ろ。お望み通り相手してやる。アルは大人しくそこに居ろ! 後で説教してやる!!」
「おー、負けんじゃねぇぞ」
「誰に言ってやがる」
自身の武器である槍を手に男達を連れ立って颯爽と店を出たファミラスだったが、一分もかからない内に戻って来たかと思えば、苦笑と共にアルハルトへと手を差し出す。
「わりぃ、俺の槍、街中での戦闘には向いてないんだった。お前の剣、貸してくれねぇか?」
「……予備の剣は?」
「今、鍛冶屋に出してるんだよ。手荒には扱わねぇから、頼むよ」
「……今から戦闘するのに手荒くもくそもねぇだろうが。ほらよ」
「わりぃな!」
「少しでも刃こぼれさせやがったら絞めるぞ」
「分かってるって」
アルハルトから剣を受け取ったファミラスが再び店の外へと出て行く。
「まったく……締まらねぇなぁ、ファーラは」
そんなファミラスを見送ったアルハルトは苦笑を溢して食事を再開するのだった。




