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元令嬢様の華麗なる戦闘記  作者: 夢猫


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フィミナン 一日目

「凄い! とっても賑やかね!!」


「うわぁーーー!!」


 感嘆の声を上げたアカリと瞳を輝かせたマースの前に広がるのは多くの人で賑わう大通り。

 通りにズラリと並んだ露店からはひっきりなしに客引きの声が上がり、行き交う人達からは笑顔が溢れている。


「ここ"フィミナン"は、リディーラン王国の中で王都、マンリーニャに続き3番目に大きな都市になります」


「この前の浄化で穢れた土地は残す所あと2ヶ所になりました。先に大陸の南に位置する"フユネ"という村に赴きそちらの浄化を済ませ、最後に港町である"マンリーニャ"へと向かいます。フユネとマンリーニャは距離が離れていますし、その道中にあるのは小さな村ばかりなので、ここ"フィミナン"で物資の最終調達を行います。馬車を引く馬も替えますので、全ての調達時間を考えて明後日まで滞在する予定です」


「ねぇユト見て!! これ可愛い!!」


「そうだね。アカリに似合いそうだ」


「そうかな!!」


「…………」


 テドラとシルティーナの説明を尽く無視した自由奔放なアカリにシルティーナの瞳が剣呑な色を宿す。


「あー、堪えろよ、シルティ」


「分かってる」


「分かってんなら、剣の柄から手を放せ。な?」


「そうね」


 アルハルトの言葉に笑顔を作ったシルティーナはしかし、それから5分程は剣の柄に手をかけたままであった。


「一応滞在中は自由行動ですが、聖女様は私かアル、クロの三人の内必ず一人と行動を共にしてください」


「何で? ユトが居るんだからいいじゃない」


「私達はあなたの護衛です。いくらユトさんが居ても側を離れる訳にはいきません。……まぁいいです。こちらが勝手に後を着いていくので気にしないでください」


 根絶丁寧に説明してやることを諦めたシルティーナが溜め息混じりにそう告げた。


「じゃぁ今日は俺が聖女様の後を着いて行くから、シルティは馬と宿を頼むな」


「分かったわ。クロ、あなたも聖女様に着いて行って」


「了解した」


 手早く分担を決め、シルティーナは馬車の御者席に座る。


「あ、えと、私もシルティーナ様と一緒に行ってもいいですか?」


「どうぞ。じゃぁ、正午にまた此処で」


「オゥ」


 斯くして分かれた一同はそれぞれ濃い時間を過ごす事となった。


ーーー

ー

「……おい、」


「……」


「おい!」


「……」


「おいっ!! そこのお前!! アルハルト・ルーランス!!」


「あぁ、王子様、俺を呼んでたのか。何か用か?」


「何度呼んだと思ってるいる!? お前の耳は飾りか!?」


「いやだなぁ、王子様。俺の名前は"おい"じゃないんだよ。呼ぶなら、さっきみたく名前で呼んでくれや」


「このっ!!」


 怒り心頭という体で拳を握るフラクトを一瞥し、肩を竦めたアルハルトは再び歩き出す。


「待て!! 話はまだ終わってないぞ!!」


「えー、面倒くさいなぁ。手短によろしく」


「……お前達の狙いは何だ?」


「…………へぇ」


 一段低い声音で落とされた問いにアルハルトが足を止めてフラクトを振り返った。


「なぜそんな事を聞く? 王子様」


「……思い出したのだ。お前達、依頼を請ける時に父上に報酬の話をしていなかったな。何故だ?」


「驚いた。一度狂った頭が正常に戻ると、それ以前の頭よりも優秀になるのか」


「誤魔化すな!!」


 態とらしく驚いた仕草と表情をしたアルハルトにフラクトが距離を詰める。


「得体の知れない化け物共め!! 何を企んでいる!?」


「はは……"化け物"、ねぇ」


 フラクトの言葉に目を細めて笑ったアルハルトがグッと体をのり出した。


「……っ、」


 鼻の先端が触れ合う程に近い距離でフラクトの目を真っ直ぐ捉え、アルハルトは再びニィ、と口角を上げる。


「その"化け物"相手に馬鹿正直に感じ取った違和感を口にするのは愚行だぜ、王子様。自分の存在を"消してくれ"と言ってる様なものだ」


「なっ、」


「想像してなかったか? 知らなくてもいい事に首を突っ込んだ愚か者の末路を」


「俺は、この国の王子だぞ……」


「前にも言ったが、そんな事俺達には関係ない。邪魔なら消すだけだ」


「お、俺が居なくなればアカリは浄化どころではなくなるんじゃないのか!?」


「ユト君が居るじゃねぇか。聖女様は今はアイツにご執心だ」


「父上が……国王が黙っていると思うのか!!」


「全て終わった時には黙るしか無くなるのさ」


「え?」


「なーんてな!」


「は?」


 それまでの真面目な声音と顔を一変させてふざけた調子で片目を瞑るアルハルトにフラクトが間抜けな声を上げる。


「冗談さ、王子様。今回俺達に来た依頼はこの国の人間からじゃない。無事に浄化の旅が終わったらソイツからガッポリ報酬を貰う算段さ」


「この国の人間からじゃない……?」


「そ。まぁ、依頼主の事は詳しく話せないけど、聖女様の護衛は浄化の旅が終るまできちんとするし、その後にこの国に不正な報酬を迫ることもしない。誓ったっていいぜ?」


「……」


「ま、王子様達を守る気が無いのは本当だから、旅の途中でうっかり死なないようにはしてくれ」


「……」


「考えてもみろよ、王子様。"双翼の剣(俺達)"はただのギルドだ。国一つ相手取る力なんて持ってないさ」


「……それもそうだな」


「そうそう。ほら、聖女様達と随分距離が開いちまってる。歩いた歩いた!」


 トン、とフラクトの背を押して歩みを促したアルハルト。


「よろしかったのですか?」


「なーにが?」


 先頭を行くアカリとユトとマースの三人に追い付いたフラクトの背中を眺めていたアルハルトの隣に、鷹の姿をとったティルティンクルが並び問いかける。


「あの様な誤魔化し方ではいくらあの方であろうとも怪しむのでは?」


「まぁ、王子様が本当に余程の馬鹿で世間知らずで考えなしじゃない限り先ず間違いなく怪しむだろうな」


「では何故?」


「俺達が何かを企んでいると疑ったところであの王子様に一体何が出来ると思う? 声高に俺達を糾弾するか? それとも力ずくで止めにかかる?」


「それは……」


「どっちも無理だろ。何の確証があって俺達を糾弾する? そもそもあの王子様は確証が持てないから俺に確認したんだ。だが残念。下手でも何でも誤魔化されちまった。明らかに怪しいのに、その怪しさに付随する"理由"が曖昧だ。俺が言った様に"この国の人間からの依頼じゃないから"で解決できちまうモンだ。それじゃあ糾弾するに及ばない。じゃあ力ずくか? 出来る訳がない。双翼の剣(俺達)を"ただのギルド"と言って納得した奴だぞ? 自分の力量どころか、世界の勢力図すら分かっていない。そんな奴にどうこうされる俺達じゃない」


 スッと目を細めたアルハルトはそれに、と言葉を続ける。


「今更どんな邪魔が入ろうが、"計画"はもう止まらない所まで来ちまってる。俺達が何か企んでいるとこの国の人間が気付いた所で既に手遅れだ。王子様はもっと早く、それこそ俺達が依頼を請けたその時に違和感に気付くべきだったんだよ」


 それが出来なかったのなら、その時点で救われる道などこの国にはなかったのだとアルハルトは笑った。


「まぁ、どう転んでもこの国に救いの道なんてモンは用意されてないんだけどな」


 双翼の剣(自分達)に目を付けられたのだ。

 助かる道など無い。


「水面下で動いていた物事がこれから少しずつ表に出てくる。そうなってやっと、この国の者達は気付くのさ。遅すぎる位に遅いタイミングで、自分達が置かれている最悪の状況にな」


「楽しそうですね、主様」


「あぁ、楽しいな。よく見ておけよ、ティル。人間の欲望と願望とがひしめき合いその肥溜めとなったのが今のこの国だ。それが今から自らが生み出した"過失(過ち)"により滅び行く。これぞ正しく"自業自得"で"因果応報"さ。滑稽で笑えるぞ」


 琥珀色の瞳に心底楽しそうな色を称えてアルハルトは笑った。


「我等からすれば人間は何時でも滑稽で面白いのですがね」


「あー、まぁ、お前達(魔族)からすれば俺達(人間)はそうかもな」


 苦笑したアルハルトの視線の先で何やらアカリが男と言い合いになっている。


「あー、聖女様がさっそく何やらやらかしてくれてるし……」


 聞こえてきた怒鳴り声に片手で目元を覆い天を仰いだアルハルトが諦めた様に息をついてアカリ達の方へと一歩を踏み出した。


「滑稽で面白く、それでいて何処までも愛しいのが人間です」


 そう呟いたティルティンクルの言葉は風に乗って誰に届くでもなく空へと消えたのだった。

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