三葉と心実と七不思議?
コミカライズ2話、更新されてます!
小話は夏の緩いのんびり会話です!
夏休みを目前に控えた、とある昼時。
模擬試合で勝利を勝ち取り、補習も免除になって、気分は本日の天気と同じ、雲一つない快晴だ。些か蝉が元気いっぱいで、太陽が眩しすぎるくらい。
私は今、さすがに外は陽がアスファルトを焼いて暑いので、いつもの屋上ではなく教室の私の席で、心実とお昼を食べている。
「そういえば、お姉さま。お姉さまは、この学校にある『七不思議』というものはご存知ですか?」
「七不思議?」
七不思議というは、俗にいう『学校の怪談』というやつか。
椅子を借り、机を挟んで向き合う形で座っている心実から、不意に飛び出した夏っぽいホラーなワード。
中学のときはあったなーと思いながら、私は抹茶ミルクのパックを啜る。かえちゃんが「くだらないわね」と一蹴していたのを思い出す。彼女はホラー映画を真顔で見終える強者だ。私は普通に怖いよ。
「クラスの方の会話を偶々聞きまして。放課後の遅い時間帯になると校内各地で、奇怪な現象が起きるらしいのです。面白そうな話だったので、はしたないと思いながらも、つい聞き耳を立ててしまいました……」
心実は小リスのように、具が高級そうなサンドイッチをちまちま食みながら、事の発端を説明した。
彼女が動く度に、ポニーテールに結った長い金髪がゆらゆらと揺れている。髪が汗で張り付いて煩わしそうだったので、私が申し出て結んだのだ。前々から弄ってみたかったので満足だ。クラスの男子たちも、心なしか熱い視線を心実に送っている気がする。
お姫様系美少女な心実が髪をアップにすると、ちょっと庶民派な感じになって、整い過ぎて近寄り難い美貌が和らぐのかな。
心実も「お姉さまに髪を結んでもらえるなんて……素晴らしい夏イベントなのです!」と喜んで……いたんだと思う、たぶん。彼女の言動は時々イマイチ分からない。
「まずは一つ目です。一人でに鳴り出す音楽室のピアノ!」
「定番だね」
「そうなのですか? 私は七不思議というのを初めて聞いたので、よく分からないのですが……。じゃあ、奏でるピアノが洋楽からポップス、演歌からゲームのBGMまで多彩なのも定番なのですね……」
「無駄にハイスペック! それは定番じゃないよ!」
なるほどと小さく頷く心実に、私は思わずパックを持つ手に力を込めて、勢いよくツッコミを入れてしまった。
こういうのは大体、クラッシックが多いと思う。
随分と上級なピアニストさんだ。
「えっと、二つ目は、動く骨格標本です」
「それも、何処の学校でもある話だね」
「骨格標本さんが夜な夜な、エアロビを机の上でされるそうですよ」
「骨なのに何を気にしているの!?」
「音楽室で奏でるピアノと、合わせてされるらしいのです!」
「まさかのコラボ!」
どうしよう、ツッコミどころがありすぎる。
心実は変に世間に疎くて天然なとこがあるから、そのおかしさに気付かず、語る様子は普通に楽しそうだし。
「三つ目は、体育館倉庫の備品が突然浮く、ポルターガイスト現象です」
「それもあるあるだけど……」
「これは、生徒の片付けが悪い時になるそうなのです。ボールの仕舞う場所やネットなどが出しっ放しだと、ポルターガイストが起こって、正しい位置に戻してくれるそうですよ」
「幽霊は美化委員なの? わりと有り難いよ!」
その後も、心実の口から出るのは、定番のように思わせて、どこかおかしい七不思議ばかり。
お弁当はとっくに食べ終わってしまったが、彼女はまだまだ盛り上がっている。
……というか、そろそろ一番入れなくてはいけないツッコミを、入れていいかな。
「そして一番怖いのは、六つしかないのに七不思議と言われていることらしいのです……。七つ目は一体何なのでしょう」
「うん。…………てか、あのね、心実」
「はい、何ですかお姉さま!」
「心実が教えてくれた七不思議って全部――――魔法でどうとでもなるよね?」
――――そうなのだ。
心実が教えてくれた七不思議はすべて、物質操作魔法や浮遊魔法で遠隔操作をすれば、簡単に出来ちゃうのだ。いや、難しい動作を要求しているので、簡単に、では無いけど。
他の学校ならいざ知らず、この魔法学校において七不思議なんて、(笑)が下につく。
心実が聞いた会話をしていたクラスの人たちも、分かった上で面白がって話していただけだろう。
私は七不思議の真相は、部活で魔法の使用許可を取った人間の遊び心か、生徒会の双子の片割れの悪戯なんじゃないかと当たりをつけている。
ただ、心実があまりにも盛り上がっていたので、夢?を壊すようで申し訳なく、なかなか言い出せなかったのだ。
私より頭の出来が良い彼女の、こういう妙に抜けている点は、非常に可愛らしいと思うけど。
流石に意を決して魔法の可能性を示唆すれば、心実は僅かな間の後、ハッと紫の瞳を驚きで見開いた。
「ほ、本当なのです! 確かに魔法で全部可能です!」
「そうなんだよ。ご、ごめんね、心実。せっかくの話題に水を差して……」
「いえ、やっぱりお姉さまは凄いです! お姉さまはたった今、この学校に起こる怪奇を解き明かしてしまったのです!」
「え。いや、これたぶん誰でも分かって……」
「でも魔法と分かっても、お姉さまと一緒に少し見てみたかったのです……動く骨格標本」と呟く心実に、私は「見たいの? 骨のエアロビを?」と思いつつ、たぶん彼女は、七不思議を確かめたいというよりは、『私と放課後の学校を探検する』というイベントがやりたかったのかな、と思い当る。
楽しそうに話すクラスメイト達に感化されたのだろう。
お互いにこの学校に友人が居なかった時代を思うと、そういう友達同士ではしゃぐような内容に憧れるのは、ちょっと分かる。
「まぁ、魔法でも、面白そうだし見に行ってみてもいいんじゃない? もしかしたら、魔法じゃなくてガチの可能性もあるし。……それはそれで怖いけど」
「! では明日、放課後の遅い時間にご一緒しましょう!」
「明日!? あ、あーでも、女の子二人だと心許ないし、樹虎も呼ぼうか?」
そう言うと、微妙な顔をした心実に笑いながら、私は残った抹茶ミルクを飲み干した。
おまけ(寮監室にて。梅太郎さんと理事長の会話)
「お嬢様。最近、生徒の間で『七不思議』なるものの噂を聞くのですが……」
「何を隠そう、仕掛け人は私よ」
「ですよねぇ。確か少し前に、ホラー特集の雑誌を読んでいましたものね」
「うちの学校には七不思議が無いなんて、そんなのつまらないじゃない。頑張って七不思議を考えて、時間もわざわざ作って、生徒が来たタイミングで、魔法を駆使して実行したのよ。噂が広まるようにね!」
「また謎の努力を……。幼少の頃から、ピアノは得意でしたものねぇ」
「体育館倉庫をちゃんと片づけなさいという、注意喚起もついでにしてきたわ」
「しかし、なぜ骨格標本にエアロビを……」
「……最近、太ったのよ」
「標本に踊らせても痩せませんよ」という言葉は呑み込んで、梅太郎は冷たい麦茶を啜るのだった。