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3 猫の恩返し・・・・・・?

「え、なんでシラタマが……てか喋って? それに羽って……え!?」


 私はただただ混乱していた。

 周囲の白に溶けそうな純白ボディの愛らしいニャンコは、私の友達のシラタマで間違いない。

 けど何故ここに?

 羽を生やしてパタパタ飛ぶ姿から、私は一つの可能性に行き当たった。


「まさか、シラタマまで死んで……!?」


 私のせいで、雨の中放置されたから!? っと、私は一気に青ざめる。けれど、シラタマはやけに腰にくる美声で「違うよ三葉」と言った。


「実は僕は、猫は仮の姿で本当は天使なのさ」

「て、天使?」


 ただでさえ状況の変化についていけてないのに、またもや理解し難い単語が飛び出した。


「そう、僕は神様に使え、人間界を管理するお手伝いをしているんだ。そして僕はそんな天使の中でも、個々で人間に干渉する権利を許されている『中級天使』なのさ」

「えっと、よ、よくわからないけど、シラタマは凄い存在ってことよね?」

「そうだよ、さすが三葉。それさえ理解してくれたら今のところは大丈夫さ」


 見慣れた猫の姿なのに、超絶美声で猫目を細めるシラタマは、極上の美形が微笑みを浮かべているようにしか見えない。

 どうしよう、私の友猫がイケメンすぎる。


「僕はこうやって猫の姿をして、人間たちを観察しているんだ。それで稀に僕が認めた人間には、天使の力をほんの少しだけ、人生のテコ入れ程度に貸してあげているんだ。でも力を使うと疲れちゃってね。たまに猫の姿のまま倒れてしまうことがあるのさ」

「だから、シラタマは寮の裏で倒れていたのね……?」


 私は目の前の彼との出会いを思い出す。まだ入学して間もない頃で、絶賛お友達づくりに挑んでは失敗していた時期のことだ。たまたま通りかかった寮の裏庭で、私は真白な猫がぐったりと横たわっているのを見つけた。慌てて自分の部屋へと運び、外傷はなかったので暫く部屋で休養させていたのだ。すぐに回復して出て行ったが、それからも交流があったので、私は自分の好物であり白い毛並みを持つことから、彼を『シラタマ』と名付けた。

 どこか不思議な猫だとは思っていたが、まさか天使だったとは。


「僕は助けて貰ったこともあり、君のことをここ三ヶ月ほど観察させてもらっていた。――――さて、ここからが本題だよ、三葉」


 シラタマの尻尾が、くるんっと揺れる。


「君はつい先ほど、寿命を使い切って死んでしまった」

「っ!」


 ぐっと胸に痛みが走る。他者に口に出してはっきりと言われると、自分の死を実感するようで嫌だった。やっぱり私は死んだんだと再認識する。


「そんな悲しい顔をしないでおくれよ。僕は最初に君に言っただろう? ……それならあと少しだけ、この世界で生きてみるかい? って」


 私はシラタマの言葉に、大きく目を見開いた。それはつまり――――


「――――シラタマが、私を生き返らせてくれるってこと?」


 期待を込めて、私はシラタマに問うた。

 ずうずうしいことかもしれないが、出来れば私はもう一度生き直したい。今度こそ、自分の好きなように生きてやると決めたのだ。再びそのチャンスを天使である彼がくれるのなら、縋らないはずがない。

 けれどシラタマは、どこか申し訳なさそうに耳を丸めた。


「生き返らせる、という言葉に間違いはないよ。でも、君が死ぬことを全く無かったことにするのは、僕の力じゃ無理だ。僕が出来るのは、君の死ぬ時間を少しだけ先延ばしにするだけさ」

「どういう意味……?」

「わかりやすく言えば、さっき0になった君の余命を、ほんの少しだけ延長できるんだ。死んですぐ後なら、まだ体と魂がつながっているから、今のうちに僕の力で一時的に体と魂のつながりを強化するのさ。そうすれば君は生き返り、ほんの少しの時間なら生き続けることが出来る。中級天使の僕の力だと、最大で六ヶ月かな。上級天使なら一年半はいけるんだけど……」

「つまり私は、死んだけど後六ヶ月だけ、余命を貰えるってことよね?」


 そうだよ、とシラタマは頷いた。彼は申し訳なさそうにしているけど、私には身に余る幸運のようにも思える。だってもう死んだはずだったのに、生き返らせてもらい、六ヶ月も余命を延長してもらえるのだ。

 私は思わず、宙に漂うシラタマの体に抱きついた。


「わっ! どうしたんだい、三葉!?」

「ごめん、本当に嬉しくて……。ありがとう、シラタマ。やっぱりあなたは、私の大切な友達だわ」


 そのもふもふの体に顔を埋める。猫だろうと天使だろうと、私の荒んだ日々で心の支えだったことには変わりない。おまけにこんなチャンスまでくれて。私は最大の感謝の気持ちを込めて、そっとシラタマを抱きしめた。


「いいのかい、三葉? ここで生き延びても、君の日々は変わらないよ。また一人ぼっちで、周りからは見下される毎日に身を置くんだ。それに、君は六ヶ月後に再び死ぬんだよ。辛いことがある場所で生きて、死が待つとわかっている日まで、短い時間を生きるんだ。それでも、君は生き返りたいのかい?」


 私の腕の中から顔を出したシラタマが、澄んだ緑色の瞳で私の顔を覗き込んでくる。

 言われてみればなるほど、ここで大人しく死んでおく方が、もう辛いことは何もないのかもしれない。


 それでも、私は。


「―――――それでもいいよ。私はもう一度、短い時間でもいいの、あの世界で生き直したい」


 決意を込めて、私はそっと微笑んで見せた。

 するとシラタマは髭をピクピク揺らした後、ふっと私の体から離れ、その短い猫の手を差し出した。手の中にあったのは、私が落としたまま拾えなかった、クローバーの飾りピンだった。


「これ……」


 すっと、私はそれを受取ろうと手を伸ばす。

 その瞬間、眩い光がシラタマの体を包み、私は思わず瞳をきつく閉じた。暗くなる視界。再び意識が遠のく感覚の中で、心に語りかけるような彼の声だけが脳に響く。


「三葉。これは友人としての僕からの言葉だよ。――――負けないで。君は、きっと幸せを掴めるさ」


 ―――――その言葉を最後に、私の意識はブラックアウトした。



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