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光の様子を見た黒斗が、落ち着いた口調で光に話しかけてきた。
「遊園地での君達の活躍を見た。新堂くんの判断能力も朝倉くんの攻撃力も素晴らしい……そして輪鳥くん」
「は、はい」
突然黒斗に声を掛けられた光は、少し驚いた声を上げた。
「いくらクリュエルが無防備だったからと言って、お前のつけている石の大きさでは、クリュエルに感知されずに致命傷を与えることはできない。お前にはなにか大きな力を感じる。それをAATの訓練で引き出したいんだ」
「俺にそんな力があるんですか?」
「クリュエルを倒したのがその証拠だ。自信を持て」
黒斗の言葉を信じられない光だが、黒斗の声は力強かった。
その様子を見ていた霧人だが、会話が落ち着いたところで、全員に向かって話しかけた。
「AATに所属する隊員はこの研究施設の隣に完成している特殊部隊官舎に移動してもらう」
「えっ? じゃあ本部の寮のような大浴場や、バイキング。カラオケやボーリングを楽しめないんですか?……イテッ!」
「光……お前そんなこと言っている余裕あるのか?」
霧人の言葉に、光は本心から動揺した声を上げた。
そんな光を見た亮夜は思わず、光の後頭部を平手で叩いて説教した。
光と亮夜のやり取りを見た霧人は怒ることを忘れてつい、微笑んでしまう。
「フフッ。官舎の部屋は全て個室。そして温泉浴場だけではなく温水プールもある。炭火焼肉が出来るバイキング。 ボウリング、ミニシアター、カラオケなどは完備されている」
「や、焼肉! 本当ですか? 是非行かせて下さい!」
「現金な奴だ。クリュエルを倒した奴だとは思えんな」
「光……突っ込むとこ焼肉なの?」
官舎の設備を聞いた光は、即座に表情を変え、目を輝かせた。
その現金な様子に、黒斗と鈴はすっかり呆れ返っていた。
「焼肉ってことは、牛サガリとかハツもあるんですよね!……イテッ!」
「お前は! そんなこと以外考えることないのか?」
「亮夜さん、バカになるからそんなに叩かないでくださーい」
「そんなこと言っていること自体、もうバカだろ」
光の無遠慮な発言に、再び亮夜の鉄拳が飛ぶ。
しかし2人のやり取りを見ている霧人や黒斗からは笑みがこぼれた。
一見、失礼な態度の光だが、しかしこの張り詰めた空気を和ませるムードメーカーになっているからだ。
珀は、本来なら怒る場面なのだが、なぜか笑わせてしまう光の行動を見て、改めて不思議な力を持っているなと思った。
「じゃあ話はこれぐらいにして。後日、特殊部隊専用官舎への引越しの詳細を伝えます」
黒斗が話を纏めると、その場で解散になり、光、亮夜、鈴は自分達が生活している討伐隊本部の寮に戻った。
後日、討伐隊員全員に、霧人からの正式な発表があって、討伐隊からAATに選ばれたのは30名。
ウォームが地球に来ることを想定して、引越しは順番を決めて行われた。
光達が荷物を纏めて、特殊部隊専用官舎に引越しをするのはそれから数日たった頃である。
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