第4話 男の価値は衣服で決まる
煌びやかなショーウインドウの中で足の長いネキン達が色とりどりの衣服を身にまとっている。ここは繁華街だ。
「さてと、まずは買い出しね」
リアは俺を足元からジロリと見るなり、葉っぱパンツに視線を落として、そうおもむろに言い出した。いや、そんなに葉っぱパンツを睨みつけられても困るんですけ…
「そうか。なにを買うんだ?」
俺は買い出しと言われてもピンとしなかったので、何を買いたいか尋ねることにした。
「何を言っているの!? まさか、本当にわからないのかしら。ハァ、本当にあなたはそんな格好で私の護衛をする気だったの? ありえないわ!」
俺の質問をアンは葉っぱパンツを指しながらそう答えてきた。ええ!? 俺はこれしか持ってないんだけど。いや、待てよ。確か、俺の記憶が正しければこいつは冒険者ギルドに仕事を依頼することができるくらいの金持ちなんだったけ?
思い出せよ。リアは買い出しに行くと言っていた。そうリアが買い出しだ。つまり、そうか!! リアは俺に服を買ってくれると言っているに違いない! 俺はついに葉っぱパンツ生活から抜け出すけとができるのか!!
「何を泣いておるのじゃ? ぬしよ?」
「え!? 急に泣き出すってどうしたの?」
俺が急に泣き出して驚いてる二人。だ、だってよ。葉っぱパンツ1枚でずっと生活していたから。嬉しくて、嬉しくてよ!!
「ま、まさか、リア様!! 俺に服を買って頂けるのですか?」
俺はリアの提案に歓喜した。抑えようとしても、口元の笑みは消えそうにない。や、やっと、葉っぱ生活ともおさらばできる!! やったー!!
「まちんす」
俺が嬉しくて小躍りしているとアイリが突然に話に割り込んできた。何だよ。アイリの奴め。なんで、唐突に俺とリアの話に割って入ってくるんだよ?
「何だ? 急にどうした? アイリ」
俺は急に会話に割り込んできたアイリの態度を不振に思いながらも彼女に話を促した。だって、アイリの意見を聞くことは重要だろ? 彼女好みの格好をしたいしな。なんて、浮かれたことを考えていたら、
「そやつは、趣味でその格好をしておりんす」
と突如として、そんなとんでもない爆弾発言。嘘を言わないでくれよ!? 俺はこんな葉っぱ生活を早く引退したいんだよ。
そう思って、アイリを振り返ると彼女は、俺の方を見てそうだよねっと言わんばかりの目で見つめてきた。大好きな人にこんな目で見られたら、嘘も本当にしてしまいたくなるよな。うん、仕方ないよね。さよなら、俺の服のある生活。
こんにちは、葉っぱパンツ…
「うん、そうだね。たぶん、きっと、大好き」
ああ、俺の目はきっと死んでるんだろうな。服を着て街を歩きたかったな。
「え!? 嘘? それ好きで着ていたの!?」
リアはその話を聞いて若干引き気味。いや、完全に引いていた。俺の顔を可哀想な人だわと言わんばかりの目で見てきた。
俺だって、そんなこと言う人を見たら、引くよ。うん、わかる。わかる。わかるけど納得いかない!!
「よく考えてみよ。これほど強い男が冒険者をして稼ぎがないわけがありんせん。だから、これがこやつの好きな格好であるということがわかるであろう?」
アイリがさもそれが本当であるかのようにそう吹聴する。やめて下さい。
「え、冗談でなくて、本当なの?」
リアの目がさらに驚愕に染められているのがわかる。いや、信じないでくれ!!
「なわけないだろ! 冗談だ! いろいろあってこの格好なんだよ」
俺はそれが真っ赤な嘘であると主張した。どこに葉っぱパンツを着て喜ぶ人がいると言うのだろうか。俺は原始人かよ!!
「でも、普通に仕事をしていたら服ぐらい買えますよね? と言うことは…」
リアの疑問は御尤もです。でもね。働けど、働けど暮らしは一向に良くならんとですよ。だって、報奨金が一度も貰えなかったからな。うん、どう説明すればいいのやら。
「・・・」
「だまるなよ」
俺は答えることができない。だって、仕事しても無報酬だったて、言ったら今回の仕事がなくなりそうじゃん。そんな風に黙っているとリアからツッコミがきたよ。
…貧乏は最悪だ。うん、貧乏が悪いね。だって、服すら買えないし!!
「前回の仕事内容を見て、なんとなくわかってるわ。ため息しかでないわね。仕方ない人ね。今回の服代金は報酬から引いておくわ。いいわよね?」
それは前払いということか!? 太っ腹だ。今なら、俺の目の前にいる人が女神だと言っても信じてしまいそうだ。俺は二つ返事で了承を示して早く買おうと急かすように服屋に駆け駆け込んだ。
今なら犬の気持ちがわかるね。嬉しくて仕方ないよ。これで本当に葉っぱパンツとおさらばだ!
ダーンと扉を開けて店に入り、俺はシャツを掴む。久しぶりの布の感触。素晴らしい。
「そんなに急がなくても服は逃げませんわ」
「そうじゃぞ? ぬしよって、何をしておるのじゃ!?」
あれ? また、俺は泣いていたの? シャツを握って泣いているってどんだけ、俺は服を求めていたのだろう。いや、でも、仕方ないよね。だって、俺はずっと葉っぱパンツ1枚で久しぶりに服が着れるだからね。
「まったく、服なんてモノはどれも同じじゃろう?」
なにを悩むんじゃと続けてアイリが言うと、
「何を言ってるのかしら? この精霊は衣服はきちんとしたものを纏わないと時に人格すら疑われるのよ?」
とリアが指摘した。アイリの顔がカチンときたと言わんばかりに強張っているんですけど。ちょっと、イヤな予感がしてきたぞ。
「つまり、そちはわっちのこやつを小馬鹿にしておるのかの?」
アイリとリアの視線から火花が散っているように見えるのは気のせいか?
「惚気ってイヤよね。当てられちゃって熱いわ」
二人の睨み合いはリアが視線を外すことで、なんとか収まったようだ。
「ふ、ふん、そちも良い連れを見つければ良いのじゃ」
照れているのだろう。アイリは顔を真っ赤にしてそういうとソッポを向くようにリアから顔を背ける。アイリは相変わらず可愛いな。
「そうね。そうすべきなのかもしれないわね」
あれ? なんか、リアが眉毛がきりりと釣りあがってないか?
「ねぇ、ユウ、私が選んであげるわ。どうせ、この精霊では碌な服を見繕えないでしょうしね」
そう言って、俺にしなだれかかってきた。
「童であるそちに大人の男の格好がわかるわけありんせん。ここはわっちがぬしのために選んでやるのじゃ!!」
「あら? 精霊さまは長生きして物知りかもしれませんが先ほどの言動からとても衣服に詳しいとは思えませんわ。ここは私に任せてしばしばお待ちして頂きたいのですわ」
あれ? あれ? また、二人の視線に火花が散っているような気がするんですけど。
「こっちはどうじゃ?」
アイリはタイトなカーゴパンツにカーディガン等の彼女が好きそうな色合いの服を持ってきて俺に上目づかいに尋ねてきた。いや、もう、それを買っちゃうよ!
「そ、それ良いよね。買おうかな」
「そうじゃろ? そうじゃろ! ぬしよ」
俺がアイリと楽しく話していたらリアが、
「仕事のことを考えて欲しいものね。ダンスパティーに参加するならシックな服にしてよ」
と言って、黒いスーツの様な服を俺に渡してきた。そうか。今日は仕事着を買いに来たんだった。でも、アイリが選んだ服も欲しいな。リアにどれだけの金額が貰えるか尋ねなくてはいけないな。
「ふん、どうせ、こやつはわっちが選んだ服を買うのじゃ。だから、そちの服はしまっておきんす」
「何を言っているのかしら? 今日は仕事着を買いに来たのよ? そっちこそ、しまいなさいよ。まぁ、精霊さまには人間のお仕事の大切さが理解できないかもしれませんけどね?」
あれ? ヒートアップしてない。俺は置いてけぼりですか? お二人さん…
「「で、どっちにするの(じゃ)?」」
俺の服のことだよね。なんで、二人が言い争っているかわからないんだけど。
「こうなったら、ぬしに決めてもらいんす」
「ちょ、エエエえええぇ!?」
さっきまで、俺の意見を伺っていても決定権はなかったんですか? 衝撃の事実だ。と言うか、だったら俺に意見を求めてた意味がわからないわと心から思ってしまったぞ。
「構わないわ。だって、私の服を選ぶことは確定しているのだから」
そう婉然と微笑むリアはまるで熟練の狩人みたいな目をしてこちらを見てきた。視線が怖いぞ。
「良くないからね!! 自分の服くらい俺が決め…」
「なにを言っておるのかや?」
「何を言っているのかしら?」
ちょ、ちょっと、怖いんだけど。
「あなたの意見はどちらが良いか選ぶだけよ。もちろん、仕事するために服を買うのだからこっちを選ぶわよね? だって、こんなセンスないバカ精霊の服なんて選ぶ人はいないはずよ」
「いや、いや、ぬしは愛するわっちが選んだ服を選択するはずじゃ。こんな人の連れにちょっかいをかけようとしておるアバズレなどは黙っておれ!」
「ア、アバズレですって?」
「バカ精霊でセンスなしじゃと?」
「ぬしは死にたいようじゃな。精霊の力は人などと比べられんほどに強いのじゃ」
「誰に喧嘩を売ったか分からせる必要があるわね。精霊さまは世間知らずだから、分からないかもしれないけれど、人を舐めると痛い目を見るわよ?」
ちょ、ちょっと、魔術をこんな店で放つなよ。ああ、並んでいた服たちが棚から落ちる。店の窓が割れる。
「お客様? これはどういうことでしょうか?」
騒ぎを聞きつけてきた店員さんが怒ってるよ。当然だけど。なんで、俺を睨むんだよ…
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なんでいつもこうなるんだ!! その後、店は半壊して俺は平謝り。金はリアが払ってくれたけどさ。賠償金は出世払いとか言ってやがる。俺が払うんかい!! お前が壊したんだろう。
しかし、それ以上に最悪なことがあるんだ。何かっていったら、服を買えなかったことだよ。
洋服屋に行っても、服を手に入れることができなかったら意味ないだろ!? 泣けてきたよ。俺に葉っぱパンツで生活を強いるこんな世の中、間違っている。俺は追い出された店の前で叫ぶ。
「誰か俺に衣服をくれ!!」
俺の虚しい響きは街にこだました。後ろでアイリとリアがどこか居心地が悪そうに苦笑いしているが今は気にしない。
その後、この繁華街で夜な夜な衣服を求めてさまよう男が噂で流れたが俺ではないと明言しておく。




