第34話 大会に向けて
時は流れ、とある中学校の体育館。
俺達は中学生になったから、何かしらの部活に入れという事で、その部活紹介の為の全校集会をダラダラと過ごしていた。
ちなみに、絶対に部活に入らないといけないという掟は無い。
「野球部で汗を流そう!」
「サッカー部は楽しいぜぇ!」
「テニス部で親睦を深めよう!」
汗臭そうな運動部の勧誘。そして、文化部の地味な勧誘も適当に見る。
「吹奏楽部で楽しく音楽を!」
「美術部で絵を書いて楽しもう!」
「茶道部でお茶してみませんか?!」
等々、各種様々な部活動の勧誘を見終わり、俺達は一旦教室の元へと集合し、入部届を担任である本多教師に貰い、皆はスラスラと入りたい部を入部届に書いているのだが、入りたい部が一向に思いつかん。
武術を取り入れている部もあったのだが、剣道と柔道しかなかったのだ。剣道は武器を使うのであまり乗り気は無く、柔道に至っては興味が無い。
何故なら、俺はいつか爺さんとの勝負に勝ちたいからだ。投げ主体の合気道に力を必要とした投げで対抗するのは柔道を使う俺の負けが見えている。合気道は相手の力を利用するので、柔道を習ったって意味が無いのだ。柔道よりも爺さんとの修行が効率の良い修行なのだ。
そんなこんなで悩んでいる事、数日が経ったある日、中学生に入学したという祝いで俺達中学生の全校生徒は近所の公園に向かってわざわざ遠回りして歩いていくという歓迎遠足をえっちらおっちらと歩を進めている体操服姿の俺はある事を決意した。
「う~ん。よしっ、部活に入らないっ!」
麗香も部活に入っていなかったという話を今朝聞いたので、俺も入らないと決意。俺ってニートだなぁ。
「えーっ?!あ、ならさ?私と一緒にテニスやろーよっ。ね?いいでしょー?」
「うん!それがいいよー。私もテニス部だしね~」
俺の報告を待ちに待ったという一文字ことみと宮川綾の体操服を着た二人は俺をテニス部に勧誘する。が、俺の決意は揺るがない。
「むぅ、入らないって言ったら入らないっ!決まりだっ!」
俺はムッとした表情で二人を睨む。いや、二人にしてみれば、違う意味で捉えるだろう。
「わ~♪スネたぁ♪」
「こわーい♪助けてぇ♪」
ご満悦の表情を浮かべる二人は俺に抱き着いてくる。そんな急な行動をとった二人の攻撃に俺は避ける暇もなく、二人の抱擁を俺の小さな身体で受け止める。
「うわ?!な、なんで抱きつくんだぁ?!」
「えへへ~。美仁香ちゃんが悪い子だから~」
「そうだそうだ~。どうだっ!参ったかっ!」
二つの抱きつきは力ずくで離せるのだが、ケガさせる恐れがあるので、ずっと抱きつかれたまま何もしないのだ。
そんなこんなで公園に到着。
レクレーションとしてドッヂボールや大縄跳びをやり、昼飯の時間となり、一文字ことみや宮川綾と共に飯を食うので、シートを敷いて、仲良く座る。
「わぁい♪お弁当ぉー♪」
「ついでにお菓子ー♪」
二人は興奮しているのだが、何故か精神が幼児みたいになっているのを俺はそっとしておく事にした。
「「いただきまーす♪」」
「・・・いただきます」
興奮している二人をよそに、弁当箱を開け、色とりどりの飯を目で楽しみ、それを口に放りこむ。
「もきゅもきゅしてるー♪リスみたい♪」
「も、もう一回♪もう一回♪」
二人は俺が飯を食べている姿をリスという表現を用いて褒めているつもりなのか、アンコールしてくるのだが、お前達も口に飯を入れるだろうが・・・
二人の興奮に耳を傾けずに、再び飯を口に入れて、よく噛む。すると
「キュン♪」
「ぽけ~・・・」
二人は俺を見て自分の世界にトリップ。はぁ、やれやれ・・・
そんなこんなで飯を食べ、適当にお菓子をつまみながら、しばらく三人で雑談していると・・・
「あのぉ~、ちょっといいかなぁ?」
見ず知らずの背の高い女子が三人程俺達の近くに来て、俺達に話しかける。多分だが、一つか二つ先の先輩かもしれないので、俺が代表としてその女子達と会話する事にした。
「へ?なんですか?」
俺は俺に話しかけた女子の目線に目を合わせる。俺は人と話す時は人の目を見るクセがあるので、今も女性とは気軽に話せるのだ。
「あ、あのっ、抱きしめてもいいかなっ?!」
「え?!!」
二人の発言に耳を疑う。何故抱きしめられないといけないのか?そして、何故俺を抱きしめたいのだ?意味が分からん。
「だ、だ、ダメーっ!み、美仁香ちゃんは私のモノだもんっ!」
「こ、こ、ことみちゃんっ!美仁香ちゃんは私のモノーっ!ダメっ!」
そして二人は俺をモノ扱いする。子供扱いは百歩譲っていいとしてモノ扱いはヒド過ぎではないか?
「え、えっと、そういう事なので、ダメという方向で・・・」
俺は仕方無く二人の意見を尊重して、三人の女子に言ってしまう。
「えーっ?!お、お願いっ!少しだけっ!」
「ちょっとだけだからっ」
「一回だけだからっ」
三人の女子は文句を言う。何故だ?俺は何をしてこの女子達の興味を持たせたのか?うーむ、理解不能だ。
「み、美仁香ちゃんっ・・・ぎゅっ」
「うわぁ?!」
突然、一文字ことみが俺に抱きつき、俺は驚くばかり。なんでこうなるの!!?
「わ、私もっ・・・ぎゅっ」
更に宮川綾も抱きついてくる。俺は二人に再び抱きつかれたのだ。しかも、その理由すらも分からないのだ。
「い、いいなーっ!次、私達の番っ!」
なんやかんやで先輩らしき人物達も俺に抱きついてきて、俺は恥ずかしくて恥ずかしくて顔を赤らめてしまい、当然のように
「あぅ」
変な声まで出してしまう。はぁ、もう好きにしろよ・・・
ーーーーーーーーーーーーーー
歓迎遠足が終了し、俺達全員わざわざ学校まで戻り、教室に置いていた制服へと着替えて下校。何故、教室に制服を置かないといけないかは、学校側の皆の体力をつけるという方針で、制服を教室に置かないといけないというのだ。そして、登下校時は必ず制服だという事を肝に銘じられるのだ。
更に部活動しているヤツはそのまま学校に残り、それぞれ楽しまなければならないのだ。うーむ、キツいのにお疲れ様だな。
俺は部活に入っていない。いや、入りたくないな。何故なら爺さんとの修行の時間が短くなるからだ。そんな俺は一人で下校し、このまま爺さんの道場へと制服姿のままで行く。
母親達には夕飯前には必ず帰ると約束していたので、母親達はそれを信じて待っている。
しばらく歩くと、西園寺道場に到着。遠足プラスこれまでの道のりで多少疲れたのだが、まだまだ動けるので心配ご無用だ。
そんな元気いっぱいの俺は、西園寺道場の扉を開き
「たのもぉー♪」
爺さんとの修行が楽しみで仕方なかったので、その声は子供らしく無邪気で明るい声なのだ。
「おー、美仁香ちゃん。ささっ、入って」
爺さんは優しい声で俺を招き、俺は西園寺道場へと入っていく。
「おーっ!そういえば、美仁香ちゃんはもう中学生だったね!よし、これから世界格闘技大会の説明するからおいで?」
爺さんは手招きして、近くに寄れと支持したので俺は猛ダッシュ。そして、無意識に爺さんを両腕で包み込むようにして抱きしめる。
「こ、こらっ。誰が抱きしめろと・・・まぁ、いいか。よしよしっ、いい子いい子」
爺さんは俺の抱きしめを解放させずに、右手で俺の頭を撫でてくれる。それが嬉しくて嬉しくて俺は
「にひひー♪もっとぉー♪」
無意識に声を出してしまう。俺はどうやら本気で爺さんが大好き、いや愛してしまったようだ。
すると、爺さんの生徒である女子達は
『キュンっ』
バタンバタンと次々と倒れていく。はぁ、またコレだよ・・・俺が爺さんとスキンシップをとる度に、気絶していくんだ。
「も、もぉーっ!絶対、わざとだよねっ」
「ホントホントっ!美仁香ちゃんは天使っ」
「・・・大好き。大好きだよ?美仁香ちゃん」
女子達は目覚めて次々とセリフを言うのだが、どうやら原因は俺らしいのだが、人に触れずに気絶させる能力なんぞ無いぞ?そんなもん、ファンタジーの世界でしか無いだろうが。
「ほっほっほ。今回の世界格闘技大会の時期はね?美仁香ちゃんの中学校がちょうど夏休みに入った頃にあるんだよ」
爺さんは早速、世界格闘技大会の事を話す。もちろん、俺は爺さんに抱きついたままだ。自分の意志では離れたくても離れられないのだ。
「へー。あ、でもさ、学校が許してくれるかな?だって、危ないんでしょ?その世界格闘技大会」
俺は参加出来る事を学校側が許可してくれないかを心配する。
「大丈夫だよ。お偉方がわざわざ美仁香ちゃんの中学校に行って、ちゃんと校長先生とか偉い先生に許可取ったよ」
もう既に学校側の許可を貰ったようだが・・・それはそれで学校側は緩くないか?我が生徒の生命に大きく関わるかもしれないのに、『はい、いいですよ』だなんて言える学校は有り得ないのだが・・・
「だからね?学校とか気にしないで全力を出してくれればいいよ。あ、ちなみに生徒達には口止めするようにって頼んだらしいよ」
なんという気の利いたお偉方だろうか。俺の事までちゃんと考えていたらしい。もし、生徒達に世界格闘技大会に俺が出場するという話を聞いたら、皆は俺の事をバカにするだろうな。
「それと、世界格闘技大会にはテレビ局が来て、生放送するんだってさ。全世界中に」
「て、テレビ?!!」
爺さんの発言に耳を疑う。
まさかまさかのテレビ放送するというのだ。まぁ、世界最強を決める大会だからテレビぐらいは来るだろうが・・・生放送だと?俺を知る人間がそれを見てしまっては、世界格闘技大会に出るという秘密がバレてしまうのではないか?
「ちなみに、今年から世界格闘技大会は三年に一度開かれるから、三年後も出るかどうか考えててね?美仁香ちゃん」
な、なんとっ!三年に一度の大会だと?!で、でも、いつから始まっていたのだ?その世界格闘技大会というのは・・・その疑問を爺さんにぶつけると
「だから今年からだよ?美仁香ちゃん」
「こ、今年からっ?!」
俺が中学生になった途端から世界格闘技大会だと?あまりにも都合のいい話ではないか?何らかの力でそういう運命になっていないと、こんなタイミングのいい話なんて無いのだ。
「ほっほっほ。美仁香ちゃん、何か言いたげそうだね?」
「ぎくっ」
爺さんは俺の表情を読み取ったのか、俺の心中をズバリと言い当てる。
「あ、あのさ、僕が中学生になった途端、何でそういう世界格闘技大会なんていう大会が開いたのかな~って」
俺はウソは言わず、爺さんの顔を見て話す。すると、爺さんはニコッと笑い
「ほっほっほ。それは、初めて美仁香ちゃんと戦って、ワシは強い美仁香ちゃんを好きになったんだよ」
「ふぇ?!!」
俺は爺さんに正面から好きだと言われた。不意打ちに好きと大好きな爺さんに言われたので、スゴい嬉しい。
「だからね?美仁香ちゃんをもっともっと強くして、ちゃんとした大会で勝負を着けたいって思って、ワシはお偉方さんとか色んな人に話をして、三年に一度の世界格闘技大会を開いたんだよ」
す、スゴい行動力だ!爺さんは俺との戦いで大会を開くという決意をして、それを実現したというのだ!
更に、俺を認めてくれたのだ!一人の格闘家として!
「よし、それじゃあ、修行だっ!」
「おー♪」
こうして、夏の世界格闘技大会に向けて修行に明け暮れていたのであったーーー。
次の話から、世界格闘技大会編となっていますので、応援よろしくお願いしますね。




