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赤い鳥の神話  作者: みえさん。
一章 アカイハネノヤクソク
1/12

 明くなり始めた空を、まだ十にも満たない少女が真剣な面持ちで見上げていた。

 少女の髪は朝の太陽に照らされて赤く輝いていた。否、彼女の髪は元々シノの迷路をしていた。肩より少し短い髪は羽毛のようにふわふわとしている。大きな瞳は深い海のような蒼をしていた。その顔は少女にしては随分と大人びた表情を浮かべていた。

「不吉な星だね」

 幼い少女は笑いを含んだ声で言った。

 声は少女らしく高く澄んだ声で合ったが、声音は表情と同様に落ち着いた大人を思わせる。

 彼女はじっと空を見つめている。

 他の星々はとうに光に紛れて消えていったというのに、禍々しい光を放つ星だけはなおもネセセアの大地を見下ろしていた。

「あれは人を惑わす闇星だね。……そうか、既に始まっていたか」

 少女の隣を風がかけていく。

 文字通り風の声を聞いた少女は幼い顔に少し苦痛の色を上らせた。

 やがて太陽が昇りきり、暖かな日差しが迷い込んでくると、少女の顔つきが少しずつ大人の女性の顔つきに変っていった。急激に年を重ねていった彼女の外見は二十代後半くらいでぴたりと止まる。

 この光景を見ないものは二人がよく似た親子だと勘違いするだろう。そしてこの光景を見た者は眼を疑った事だろう。幼い少女から大人の女性へと一瞬で成長したのだ。

「やれやれ、何度やってもこれは気持ちが悪い」

 彼女は苦笑混じりで頭を振った。

 人の気配を感じて彼女は振り返る。

 少女がはっとしたように頭を下げた。随分とそうしていたのだろう。寒さの為か顔も指先も真っ赤になっていた。

「何だ、パール。いるのなら声をかけてくれれば良かったじゃないか」

「いえ、占いをなさっているようでしたから」

 パールと呼ばれた少女は表情なく言った。

 淡いクリーム色の髪を後ろで一つにまとめただけの簡易な髪型をしている少女は彼女の弟子だった。

 まだ十代半ばだというのに、随分と大人びた印象を見せる少女だった。

「……おはようございます、ユナ様」

「おはよう。今日も寒いね」

 ユナの笑顔はあまり寒そうには見えなかった。

 パールは普段の服の上に分厚い防寒着を着て、さらにその上から風よけのマントを着込んでいたがまだ寒いと感じていた。しかし、ユナの服装は厚手の服を着た程度のものだった。本当に寒さを感じているのか疑問に思う。

 ネセセアの北に位置するその場所は、この国で唯一雪の降る場所だった。ネセセアは元々暑い国であったが、この場所だけは一年の大半が冬という驚異的な気候をしている。この村で生まれ育ったユナは寒さに強い。対して、ユナの弟子入りをするために他の町から移り住んだパールは慣れてはいたものの、寒いのには変わりなかった。

 それでも今朝は雪が降っていないだけまだ、マシだった。

「結果はいかがでしたか?」

 パールはユナに近づきながら問う。

「ああ、やはり始まっていたよ。思ったよりも早かったね。せめてあの幼い王子が大人になるまで待って欲しかったけれどね」

 無表情なパールの顔に不安そうなものが生まれる。

 ユナは笑って彼女の髪を撫でた。

「そんな顔するものでもないさ。確かに私の占いでは滅ぶ運命が出た。お前の占いにもね。だが、占いは起こり得る未来を予見するに過ぎないんだ。……だーいじょうぶ、例えサファイアの血を引く者が百回同じ結果を引き当てたとしても、その通りにならないこともある。未来は常に不定なんだ」

「……そうですね」

 ようやくパールは笑った。

 北の賢者、サファイアの血を引く者の占いはよくあたる。少なからずその血を引くパールは身をもってよく知っていた。けれど、その占いも本人次第で無理にでも変えられることもよく知っている。

 たやすいことではなかったが、あり得ないことではない。

「さぁ、早く部屋に入ろう。そんな青い顔をさせたままではまたエメルに怒られる」

 ユナはパールの肩を抱き寄せた。

 その腕からぬくもりを感じ、パールは自らの占いの師匠に対して小さく頷いて見せた。

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