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第14話 少し早すぎる

夕方が近づくころ、俺は部屋で小さな包みを三度目に確認していた。


一回目も、ちゃんと中にブレスレットは入っていた。


二回目も入っていた。


そして驚くことに、三回目でも消えてはいなかった。


包みを閉じた。


もう開けない。


扉のそばから声がした。


「四回目も確認するのか?」


顔を上げる。


父さんが扉にもたれながら、こっちを見ていた。


「三回目だよ」


「数えてるんだな」


「たまたま」


父さんが包みを見る。


「なくなってたか?」


「ううん」


「じゃあ、確認した甲斐はあったな」


「すごく助かったよ」


「いつでもどうぞ」


包みをポケットに入れた。


父さんが数秒、俺を見ていた。


「逆さだぞ」


手を止める。


包みをもう一度取り出した。


本当に逆さだった。


……。


「わざとだよ」


「そうかそうか」


父さんの横を通って廊下へ出た。


父さんも後ろからついてくる。


階下へ降りると、母さんはもう支度を終えていた。いつもより少しきれいに髪をまとめ、小さな籠を持っている。


籠の中からいい匂いがした。


「それ何?」


「テアのお母さんを手伝おうと思って、少し料理を作ったの」


父さんがすぐに籠へ顔を近づけた。


「何が入ってる?」


母さんが籠を遠ざける。


「あなたのじゃありません」


「見るだけだよ」


「この前もそう言ってたわね」


父さんが数秒黙った。


「あのときはちゃんと見たぞ」


母さんが父さんを見る。


「そのあと食べたでしょう」


「全部じゃない」


「半分」


「三分の一だ」


父さんの弁明がどんどん強くなっていた。


靴を履きながら、無意識にポケットの包みに手を伸ばす。


ちゃんとあった。


父さんも気づいたらしい。


「まだあるぞ」


「分かってる」


「本当に?」


「父さん」


「はいはい」


家を出た。


まだ日没には早かったけれど、太陽は少しずつ低くなっていた。


町までの道はもうすっかり覚えている。


それでも今日は、いつもより少し短く感じた。


行き先がはっきりしていたからかもしれない。


それとも、ずっとポケットの包みが気になっていたからか。


もう確認しない。


手がポケットへ伸びる。


……。


これは確認には入らない。


ダレンの店に近づくと、裏のほうから子供たちの声が聞こえてきた。


正面の扉の横にはダレンが立っていた。


俺たちを見ると笑顔になる。


「いらっしゃい」


母さんが先に近づいた。


「遅くなってないかしら?」


「大丈夫です。ちょうどいい時間ですよ」


ダレンの視線が父さんへ移る。


父さんもダレンを見る。


それから父さんが手を差し出した。


「ラルフ」


ダレンが握り返す。


「ダレンです」


父さんの視線がほんの一瞬だけ、ダレンの左腕に止まった。


けれどすぐ、何事もなかったように顔へ戻る。


「テアから聞きました。ルークのお父さんも昔は冒険者だったって」


父さんが眉を上げた。


「そこまで話してるのか」


ダレンが笑う。


「子供って、父親の話をするのが好きですから」


「だいたい実物より少し強くしてな」


「間違いない」


父さんがダレンを見る。


「そっちも冒険者だったんだろ?」


「昔は」


「俺もだ」


ダレンが顎で俺を示した。


「じゃあ、子供たちが『俺の父さんのほうが強い』って言い始める前に逃げたほうがいいかもしれませんね」


父さんは妙に真剣な顔で頷いた。


「もう遅いかもしれない」


そのとき、裏から声がした。


「ルーク!」


振り返る暇もなく、テアが走ってきた。


俺の前で止まる。


「来た!」


「来るって言っただろ」


テアは数秒考えた。


それから頷く。


「そうだった」


もう少し俺を見る。


「今回は遅くなかったね」


「前だって遅れてない」


「遅れてた」


「いつ?」


「初めて来た日」


「あの日は来るって言ってなかっただろ」


テアは一瞬も考えず答えた。


「でも来た」


……。


このやり取り、前にもした気がする。


テアの視線が母さんと父さんへ移る。


「こんにちは!」


母さんが笑った。


「お誕生日おめでとう、テア」


「ありがとう!」


父さんも片手を上げる。


「誕生日おめでとう」


テアは数秒、父さんを見た。


「ルークのお父さんだ」


父さんが真顔で頷く。


「そう見えるな」


眉をひそめた。


「そう見えるって何?」


「証明できるか?」


「父さん」


テアが笑った。


後ろからダレンの声が飛んでくる。


「まだ五分も経ってませんよ、ラルフ」


「今は準備運動だ」


最高だ。


本当に仲良くなりそうだな、この二人。


テアが俺の手を掴んだ。


「来て!」


そのまま店の裏へ引っ張っていく。


「ちょっと待って」


テアが止まった。


「なに?」


ポケットに手を入れる。


包みを取り出した。


しばらく手の中で眺める。


店であれだけ悩んだことを思い出すと、今になって少し大げさだった気もしてきた。


ただのプレゼントなのに。


テアへ差し出す。


「これ、テアの」


テアは包みを見る。


それから俺を見る。


「私の?」


「テアの誕生日だろ」


「知ってる」


「じゃあ、そういうこと」


すぐに受け取った。


そして開け始める。


丁寧に開けてくれるなんて期待するべきじゃなかった。


紐をちぎりそうな勢いでほどいていく。


少なくとも包みを取っておく気はなさそうだ。


中からブレスレットを取り出した。


石が光を受けて、かすかに輝いた。


テアが数秒黙る。


俺も顔を見る。


何か言ってくれ。


両手でブレスレットを持った。


「これ、本当に私の?」


「それも今話したよな」


ぱっと大きな笑顔になる。


「すごくきれい!」


気づかないうちに止めていた息を吐いた。


テアはすぐにブレスレットへ手を通そうとした。


紐を緩めすぎて、危うく地面へ落としかける。


慌てて掴んだ。


「どうやってつけるの?」


「貸して」


俺に渡してくる。


宝飾店の人に教えてもらったように、紐を少し緩めた。


「手、出して」


テアが腕を伸ばした。


手を通して手首に合わせ、それから紐を少し締める。


テアが腕を持ち上げて眺めた。


それから手首を左右に回す。


「できた」


「できたな」


何度か腕を振る。


ブレスレットは落ちなかった。


「これ、外すの?」


「外したければ」


テアはすぐ首を横に振った。


「外さない」


それから、何週間も俺の頭を悩ませていた問題が三十秒で解決したことなんて知らないみたいに、こっちを見る。


「来て。見せたいものがあるの」


そう言って走り出した。


少しだけその後ろ姿を見る。


気に入ってくれた。


すぐにつけてくれた。


そして今はもう別のことに夢中だ。


……。


五歳の子からもらえる反応としては、たぶん最高なんだろう。


後を追った。


店の裏庭は思ったより少し人が多かったけれど、大きな祝いというほどではなかった。


片側にはいくつかのテーブルが並び、パンや果物、小さな焼き菓子や料理が置かれていた。


母さんはもうテアのお母さんのところへ行って、持ってきた籠をテーブルへ置いている。


父さんとダレンは少し離れたところで、まだ話を続けていた。


庭の反対側には何人か子供がいる。


テアはまっすぐそこへ俺を連れていった。


地面には木で作られた小さな的が置かれていた。


三重の円が描かれていて、その横には小さな布玉がいくつか置かれている。


テアが的を指した。


「お父さんが作ったの」


「いいな」


「真ん中に当てたら三点」


「一番外は?」


「一点」


「真ん中と外の間は?」


テアが俺を見る。


「二点」


「分かりやすい」


少し胸を張った。


「私は十二点だった」


的を見る。


それから地面の玉を見る。


「何回投げて?」


テアが黙った。


目を細める。


「何回投げて?」


「大事じゃない」


「かなり大事だと思うけど」


「ルーク!」


後ろから別の声がした。


振り返る。


俺たちと同じくらいの年の子供が二人、こっちを見ていた。


一人は背が低くて、薄茶色の髪をした女の子。手には薄い本を持っている。


もう一人は、その子より少し背が高い、ぼさぼさの金髪の男の子だった。


男の子がまっすぐ近づいてくる。


「お前がルークだな」


質問じゃない。


ただ確認しているだけだった。


「うん」


親指で自分を指す。


「俺はブラム」


それから隣の女の子を示した。


「こっちはミラ」


ミラがブラムを見る。


「自分で言えたけど」


「言ってなかっただろ」


「二秒も待たなかったから」


ブラムが肩をすくめる。


テアが俺の隣へ来た。


「ブラムはいつも競争したがるの」


「いつも俺が勝つからな」


「違う」


「合ってる」


「この前転んだじゃん」


「転ぶまでは勝ってた」


「最後まで走ってないでしょ」


「それと途中まで勝ってたのは別だ」


テアが眉をひそめる。


「別じゃないと思う」


ブラムが首を横に振った。


「テアは競争ってものが分かってない」


テアが俺を指す。


「ルーク、魔法使えるよ」


ミラの視線がすぐ俺へ向いた。


ブラムもだ。


「本当に?」とブラム。


「少しだけ」


「火は出せる?」


「出せるよ」


ブラムが両手を大きく広げた。


「これくらい?」


「違う」


少し狭める。


「これくらい?」


「違う」


さらに狭める。


「これくらい?」


「なんで俺の火の大きさを当てようとしてるの?」


ブラムが手を下ろす。


「気になったから」


ミラがもっと落ち着いた声で聞いた。


「火の魔法だけ?」


「違う」


「他の種類も?」


「いくつか」


少しだけ目の色が変わった。


「今度見せてくれる?」


「たぶん」


テアがすぐ口を挟む。


「私は見たことあるよ」


ブラムが振り返る。


「何した?」


「風」


「大きかった?」


テアが両手を広げる。


「これくらい」


俺を見る。


「ね?」


「風の大きさってどうやって測るんだ?」


テアはさらに手を広げた。


「これくらい」


……。


諦めた。


ブラムが急に俺を見る。


「競争しよう」


「なんで?」


「俺が勝つから」


「走るなんて言ってないけど」


ブラムがにやっと笑う。


「怖いのか?」


しばらく顔を見る。


テアもブラムを見る。


ミラは本を閉じた。


本当にそれで挑発してるつもりなのか?


「なんでお前を怖がるんだよ」


「じゃあ走ろう」


テアが俺の腕を引っ張った。


「やろう」


「なんでブラムの味方なんだよ」


「私も走るから」


……。


もう選択肢がなくなってきた気がする。


ブラムが少し先、地面に引かれた線を指した。


「ここから始める。あの木まで走って触って、戻ってくる。一番最初にこの線まで戻ったやつが勝ち」


庭の反対側の木を見る。


それほど遠くはない。


「それだけ?」


「ああ」


テアがすぐ線の後ろへ立った。


「私もやる」


ブラムが眉をひそめた。


「俺とルークの勝負だったんだけど」


「今は違う」


「でも――」


テアが腰に手を当てる。


「今日は私の誕生日」


ブラムが数秒考えた。


「何でも誕生日だからで通すなよ」


「今日はいいの」


ミラが近くの小さな木箱へ座った。


「私が審判する」


ブラムが見る。


「ミラっていつも審判だよな」


「二人がルールを変えるから」


「変えてない」


ミラは瞬きもせず言った。


「前はゴールの線を前に動かした」


「あれは別だ」


「どう違うの?」


ブラムが黙った。


ミラが本を膝に置く。


「私が審判」


誰も反論しなかった。


三人で線の後ろへ並ぶ。


テアが少し前傾になる。


ブラムも足を構えた。


俺も準備する。


ミラが片手を上げる。


「位置について……」


ブラムの足が線の前へ出た。


「まだ始まってないけど」


ブラムはすぐ戻った。


「バランス崩しただけ」


「前に?」


「そう」


ミラがブラムを見る。


ブラムは何も言わなかった。


ミラがもう一度手を上げる。


「位置について……」


ほんの少し間を置いた。


「スタート!」


三人同時に走り出した。


最初の数歩はテアが前に出た。


ブラムがすぐ後ろ。


俺は二人より少し遅れていた。


四歳にはいくつか不利な点がある。


脚の長さもその一つだった。


木へ近づくと、ブラムが加速した。


幹に手をついて振り返ろうとした瞬間、足が滑る。


転びそうになったが、ぎりぎりで踏みとどまった。


テアが木に触れて折り返す。


俺は数秒遅れて到着した。


帰り道ではブラムが前に出ていた。


テアがすぐ後ろ。


俺はまだ三番目だった。


一瞬、風魔法が頭をよぎった。


魔法を使ったら反則かな?


当然、反則だろう。


でもルールには何も書いてない。


もう一秒考える。


いや。


父さんに知られたら、たぶん最初は笑って、そのあと罰として何周か余計に走らされる。


そのまま走り続けた。


最初に線を越えたのはブラムだった。


両腕を上げる。


「勝った!」


すぐ後ろにテア。


俺は数秒遅れて線を越えた。


止まって息を整えていると、ブラムが俺を見る。


「悪くなかったな」


「俺、四歳だから」


なぜか言っていて少し気分がよかった。


テアが突然ブラムを指した。


「ズルした」


ブラムの勝ち誇った表情が消える。


「してない」


「始まる前に前に出た」


「戻っただろ」


「でも先に動いた」


「まだ始まってなかっただろ!」


テアがミラを見る。


「ズルしたよね?」


ミラは落ち着いて首を横に振った。


「始まる前に戻ったから、あれはなし」


ブラムがまた笑う。


「ほらな」


テアが頬を膨らませた。


「もう一回」


「いいぞ」


「今度は私が勝つ」


「無理」


「勝つ」


二人はまたスタートラインへ戻っていった。


俺は姿勢を戻した。


ミラが近づいてくる。


「あの二人、いつもあんな感じ」


「気づいた」


手に持っている本を見る。


「何読んでるの?」


こっちへ表紙を向ける。


子供向けの薄い本だった。


「昔の冒険者の話」


「本当の話?」


ミラが肩をすくめる。


「本当のもあるかも」


「面白い?」


「二つは面白い」


表紙へ目を落とす。


「一つはすごく変」


「なんで?」


「男の人が大声を出してドラゴンを怖がらせるの」


少し考えた。


「ものすごく変な声だったんじゃない?」


ミラは数秒こっちを見る。


それから笑った。


「そこまで変な声はないでしょ」


後ろからテアの声がした。


「ルーク!」


振り返る。


「なに?」


「ルークが審判やって!」


「ミラが審判だっただろ」


「ブラムがミラの言うこと聞くから」


ブラムがすぐ抗議する。


「審判の言うことは聞くだろ!」


テアが俺を指した。


「ルークがいい」


ミラは少しも反対しなかった。


本を俺へ差し出す。


「頑張って」


本を見る。


それからミラを見る。


「どこ行くの?」


「何か食べてくる」


そのまま歩いていった。


……。


完全に俺を置いて逃げたな。


テアとブラムは線の後ろで待っていた。


二人へ近づく。


「分かった。線の後ろに立って」


ブラムが自分の足を見る。


「立ってる」


テアがすぐ指差す。


「足、線の上」


「上だ。前じゃない」


「線を踏むのは禁止」


「誰が決めた?」


テアがこっちを見る。


「禁止だよね?」


俺も線を見る。


……。


「知らない」


「審判でしょ!」


「審判になってまだ二秒だよ!」


ブラムが笑う。


「じゃあいいんだな」


「ブラムが決めることじゃない」とテア。


「審判が分からないって」


「じゃあ私が決める」


「お前は選手だろ!」


また言い合いが始まりそうだったので、手を上げた。


「分かった。誰も線を踏まない」


テアはすぐ一歩下がった。


ブラムは俺を見る。


「なんで?」


「そうすれば競争を始められるから」


少し考える。


それからブラムも下がった。


「分かった」


意外と簡単だった。


手を上げる。


「位置について……」


二人とも前傾になる。


「スタート!」


同時に飛び出した。


今度は横から見るだけだから楽だった。


最初はテアが前に出たが、木に近づくにつれてブラムが差を縮める。


ほとんど同時に木へ触れ、戻ってくる。


帰りはブラムが少し前。


テアがすぐ後ろにつく。


最後の数歩で二人とも加速した。


ほぼ同時に線へ到着する。


しばらく二人を見る。


二人も俺を見る。


「どっちが勝った?」とテア。


……。


分からない。


本当に分からなかった。


「引き分け」


二人が同時に叫ぶ。


「違う!」


やっぱり。


「俺が先だった」とブラム。


「私!」とテア。


「俺の足が前だった」


「私の頭が前だった!」


ブラムが止まった。


「頭で勝つのか?」


テアも止まる。


二人ともこっちを見る。


……。


「俺、審判やめる」


そのとき、庭の向こうから声がした。


「みんな、ご飯よ!」


テアのお母さんだった。


言い争いは一瞬で止まった。


ブラムが振り返る。


「行こう」


「さっきまで誰が勝ったか言い合ってなかった?」と俺。


「食べてから」


テアも後を追う。


「私が勝ったもん!」


「違う!」


二人がテーブルへ向かうのを見送る。


なるほど。


食べ物で解決する揉め事もあるらしい。


ミラはもうテーブルのそばに座っていた。


近づいて本を渡す。


「はい」


「ありがとう」


「置いていったな」


「審判したくなかったから」


「俺もしたくなかったよ」


ミラが肩をすくめる。


「でもやった」


返す言葉がなかった。


テーブルへ座ると、思っていたよりずっと料理が並んでいた。


母さんが持ってきたものも一緒に置かれている。


テアは何を食べるかしばらく悩んでいた。


最後に二種類を皿へ取る。


そして三つ目も追加した。


少し離れたところからダレンが見た。


「全部食べるのか?」


「うん」


「本当に?」


「五歳だから」


ダレンが数秒黙った。


「それで何が説明できるのか分からないな」


テアが食べ始める。


俺は笑わないように下を向いた。


しばらくして父さんもこっちへ来た。


すぐ後ろにはダレンもいる。


まだ話していたらしい。


父さんが俺を見る。


「楽しんでるか?」


「たぶん」


「『たぶん』ならいい兆候だな」


ダレンがブラムとテアを見る。


二人は食べながらも、さっきの競争について話していた。


「この二人に巻き込まれたのか?」


「うん」


父さんが軽く肩に触れる。


「頑張れ」


「助けてくれないの?」


「この戦いは自分で乗り越えろ」


「どうもありがとう」


「どういたしまして」


ダレンが笑った。


本当に仲良くなってるな。


食事のあと、小さなケーキが運ばれてきた。


テアがテーブルの先頭に立つ。


みんなに見られて、最初はかなり満足そうだった。


でもすぐ、視線がケーキへ移る。


「いつ食べられる?」


ダレンがため息をついた。


「先に誕生日を祝う」


「もう祝ったよ」


「もう少し祝うんだ」


「どれくらい?」


テアのお母さんが笑う。


「ほんの少しよ」


その答えで納得したのか、テアは待った。


ケーキが切られると、最初の一切れはテアへ渡された。


俺も自分の分をもらう。


テアが数秒、俺の皿を見る。


それから自分の皿。


また俺の皿。


「ルークのほうが大きい」


二つを見る。


「同じだよ」


「ルークのほうが大きい」


「違う」


ブラムも身を乗り出して見る。


「ルークのほうがちょっと大きいかも」


ブラムを見る。


「なんで入ってくるんだよ」


「見てるだけ」


ミラが自分のケーキを一口食べた。


「同じ大きさ」


テアがミラを見る。


「本当?」


「うん」


テアはもう一度、自分の皿を見る。


ようやく納得したらしく、ケーキを一口食べた。


数秒後には、そのこと自体もう忘れていた。


日がさらに傾くにつれて、大人たちの中にも帰る人が出始めた。


庭の声も少しずつ減っていく。


ミラの家族が呼ぶと、ミラは本を脇に抱えた。


帰る前に俺を見る。


「今度来たら、魔法見せてね」


「いいよ」


すぐブラムが割り込んだ。


「その前に競争な」


「なんで先に?」


「今日、俺が勝ったから」


庭の反対側からテアの声が飛んでくる。


「勝ってない!」


ブラムが振り返った。


「一回目は勝った!」


「二回目は私!」


「引き分けだろ!」


テアが俺を見る。


「ルーク!」


両手を上げた。


「もう俺は審判じゃない」


ミラが少し笑った。


「またね」


「またね」


しばらくして、俺たちも帰る時間になった。


母さんがテアのお母さんと別れの挨拶をしている間、父さんはダレンと話していた。


「また今度寄ってください」とダレン。


父さんが頷く。


「ああ」


「でも剣は持ってこないでください」


父さんが眉を上げる。


「なんで?」


ダレンが俺を指す。


「息子さん、もう十分練習してるみたいだから」


「まだ始まったばかりだ」


ため息をついた。


「家に帰る前から訓練の話しないと駄目なの?」


ダレンが笑う。


「それはそうですね」


父さんはあまり納得していないようだった。


ちょうど出口へ向かおうとしたとき、後ろからテアが走ってきた。


「ルーク!」


振り返る。


俺のところまで来る。


「明日も来る?」


今度は答える前に母さんを見なかった。


「分からない。母さんに聞かないと」


テアの表情が少し落ちる。


「でも来ても、もう審判はやらないから」


すぐ笑顔になった。


「分かった」


「本気だからな」


「分かった」


全然信じてなさそうだ。


手を上げて振る。


俺も振り返した。


「またね」


「またね!」


帰り道についた。


町を離れるころには、空気が少し冷たくなり始めていた。


父さんが隣を歩いている。


しばらくして、こっちを見る。


「どうだった?」


「疲れた」


「誕生日が?」


少し考えた。


「人が」


父さんが笑った。


「そのうち慣れる」


「自信ない」


少し前を歩いていた母さんが振り返った。


「テア、プレゼント喜んでた?」


「うん」


「つけてくれた?」


頷く。


「すぐつけた」


母さんが笑った。


「じゃあ、ちゃんと選べたのね」


ポケットに手を入れて歩き続ける。


数週間前、町へ向かいながら、友達がいないことを考えていた。


それからテアが現れた。


今度はミラが次に来たら魔法を見せてと言い、


ブラムはまた競争したがっている。


テアはたぶん、また俺を審判にしようとするだろう。


……。


友達っていうのは、少し増えるのが早すぎる気がした。


でも今回は、それが嫌じゃなかった。

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