第12話 思い出の品
朝の日差しが部屋に差し込む中、僕はここ数週間のことを思い返していた。
最近、母さんは週に二、三回ほど僕を町へ連れて行ってくれる。買い物を手伝ったあとは、テアと少し遊ぶことも許してくれていた。
テアはいい子だった。
友達になれて、本当によかったと思っている。
少し頑固で、ときどきちょっと馬鹿なこともするけれど……まあ、それくらいで友達をやめる理由にはならないだろう。
母さんが僕をテアの家に預けている間、僕たちはたいてい裏庭で遊んでいた。
木剣を使って、一人が悪者、もう一人がそれを捕まえる役をやったりする。
なぜか悪者役はいつも僕だった。
ほかにも、どちらが遠くまで跳べるか、どちらが速く走れるかを競ったりしたけれど、そういう勝負もだいたいテアが勝っていた。
年齢のわりにかなり運動神経がいい。
最初は、この身体がまだ激しく動くことに慣れていないだけだと思っていた。
少し時間が経てば簡単に追い抜けるだろう、と。
けれど、どうやらそう簡単にはいかなさそうだった。
僕がいない間も、テアは遊んでばかりいるわけではないからだ。
彼女の父親は、かなりしっかりとテアを鍛えていた。
母さんと町へ来たとき、裏庭で二人が訓練しているところを何度か見たことがある。
ぱっと見ただけなら、ダレンは娘にまったく容赦していないように見えるかもしれない。
テアが勢いよく飛び込めば、直前で身体をずらして体勢を崩させる。
木剣に強く打ち込んで、手から落とさせることもあった。
でも何度か見ているうちに、ダレンの動きはすべてきちんと加減されていることに気づいた。
テアが本当に怪我をするような攻撃はしない。
あくまで、自分の失敗に気づかせるためのものだった。
木剣を落とせば、ダレンはそれを拾ってテアの前へ放る。
するとテアは毎回すぐに立ち上がって、また父親へ向かっていった。
一番驚いたのはそこだった。
僕なら三回目くらいで文句の一つでも言っていると思う。
でもテアにとっては、訓練というより遊びに近いらしい。
僕のほうは、少し事情が違った。
父さんが今でも僕にかなり手加減していることは分かっていた。
攻撃を防ぐこと自体はできる。
でも、訓練を重ねるたびに少しずつ難しくなっていた。
最初が力の一パーセントだったとしたら、今は三パーセントくらいになったような感じだ。
もちろん、完全に僕の適当な予想だ。
父さんの顔には、苦戦している様子なんて欠片もない。
左右から素早く、それでもきちんと加減した攻撃を繰り出し、正面から受け止めるのではなく、流すように何度も言われた。
力より先に技術を身につけろ、というのが父さんの教えだった。
相手の攻撃を正しい角度で受けて、自分の剣の上を滑らせることができれば、自分よりずっと力の強い相手とも真正面から力比べをする必要はない。
今は特に、それを覚えてほしいらしい。
剣の訓練が終わると、少し休憩を取る。
その頃になると母さんがやって来て、今日は何をしたのかと聞いてくれた。
そして僕が話すことを、本当にちゃんと聞いてくれる。
そのあとには、夕食に何が食べたいかまで聞いてくれた。
自分が食べたいものを作ってもらえるというのは、不思議なくらい嬉しいものだった。
孤児院では、そんな選択肢はなかった。
その日に出されたものを食べるだけ。
あとは料理をする人たちの良心次第だった。
そしてたいていの日、その良心はあまり調子がよくなかった。
ここでは、母さんが本当に僕に何が食べたいのか聞いてくれる。
今でもまだ慣れきれない、小さな幸せの一つだった。
テアは二日前、僕を自分の誕生日に招待してくれた。
この世界で、家族以外の誰かの誕生日を祝うのは初めてだった。
店の裏にある庭で祝うらしい。
近所の知り合いが何人か来るほか、僕たち家族も招待されていた。
母さんとテアのお母さんは、もう顔見知りだ。
町へ来るたびに、二人で長いこと話をしている。
でも父さんたちは、まだ一度も会ったことがなかった。
ただ、僕にはそれより大きな問題があった。
テアに何を贈ればいいのか、まったく分からない。
僕の前の誕生日には、父さんが若い頃に使っていた少し古びた方位磁針をくれた。
「ルーク、こいつには良い思い出も悪い思い出もたくさんある。昔、俺の進む道を教えてくれたみたいに、これからはお前の道も示してくれたらいい」
そう言って渡してくれたとき、父さんは少しだけ感傷的になっていた。
*他人にあげるわけじゃないんだから、父さん。僕は息子だよ。心配しなくても、そんな遠くには行かないって。*
今夜、母さんに聞いてみるのが一番だろう。
僕より長くテアを知っているし、プレゼント選びの経験だって僕よりずっとある。
夕方になると、台所から僕の大好きな匂いの一つが漂ってきた。
母さんお得意の肉と野菜の煮込みだ。
料理そのものはかなり普通なのに、母さんが作るとなぜか完璧になる。
肉は口の中でほぐれるほど柔らかく、野菜もじっくり煮込まれて、スープにいい味を出していた。
席に着くとすぐ、目の前の皿を見た。
「母さん、もう見ただけで分かるよ。すごく美味しそう」
母さんは、毎回初めて褒められたみたいに嬉しそうにする。
頬が少し赤くなった。
「ありがとう、ルーク。あなたのために作ったのよ。足りなかったら言ってね。おかわりもあるから」
*本当に最高だな。これ以上何を望めって――*
「おい、『ルークのため』ってどういうことだ? 俺たちは植木鉢か何かか? 昔は俺のために作ったって言ってただろ」
父さんは少しだけ嫉妬しているようだった。
するとミリアが、まるでこの瞬間を待っていたかのように父さんへ顔を向けた。
「ラルフ様、残念ながら現在は二番目かと」
父さんは小さくため息をつき、目をくるりと回した。
そのまま食事を続けようとしたところで、母さんが笑顔を向ける。
「もう、あなたのためにも作ったわよ。あなたは私の一番好きな夫なんだから。愛してるわ」
「俺も愛してるよ」
父さんは何の迷いもなく答えた。
どうやら母さんの言葉に含まれていた、ほんの小さな部分には気づかなかったらしい。
僕が小さく笑うと、母さんはすぐに眉を寄せてこちらを見た。
どうやら父さんには気づかれたくないらしい。
しばらく静かに食事を続けた。
でも僕の頭の中には、まだテアの誕生日のことが残っていた。
家族以外の誰かにちゃんとプレゼントを選ぶのは初めてだ。
何を選べばいいのか、本当に分からない。
何口か食べたあと、ようやく話を切り出した。
「母さん、テアの誕生日には何を買えばいいかな?」
母さんはスプーンを置いて、僕を見た。
すぐに、あの見慣れたニヤニヤ笑いが浮かぶ。
「プレゼント? うーん……ルークにとっては特別なものにしたいわよね。ちゃんといいものを選ばないとね?」
「いや、その……そういう意味じゃ……まあ、うん。いいプレゼントのほうが悪くはないけど。できればずっと使えるものがいい」
母さんは少し考えた。
「可愛いおもちゃの荷車はどう? ずっと使えるものじゃないかもしれないけど、初めて会った日の記念にはなるでしょう?」
悪くない。
初めて会った日に壊れた荷車のことを考えれば、むしろ結構いいかもしれない。
そう考えていると、父さんも話に加わった。
「シンプルな腕輪にしたらどうだ? 紐で調整できるやつならいい。今でも使えるし、大きくなってからもつけられる」
一瞬、父さんの顔を見た。
思っていたよりずっといい案だった。
「父さん、それ本当にいい案だね。よく思いついたね」
父さんの顔がすぐに明るくなる。
「当然だろ。俺は女の子のことなら分かってる。何か困ったら母さんじゃなくて俺に聞け」
母さんの笑顔が、ゆっくり消えた。
「そんなに女の子のことが分かるのに、どうして私にはいつも花しか買ってこないの?」
父さんは数秒、何も答えなかった。
僕は食事を続けながら、その様子を眺める。
*さあ、どうやって切り抜ける?*
「いや、その……そういう意味じゃなくてだな」
父さんは咳払いをした。
「お前は俺の妻なんだから、花で十分だろ」
食卓が一瞬、静まり返った。
*完全に墓穴を掘った。*
母さんは眉を寄せた。
ミリアは軽く視線を下げ、何も聞かなかったことにしようとしている。
父さんも数秒遅れて、自分がどれだけまずい答えをしたのか理解したらしい。
皿へ目を落としたあと、妙に真剣な顔で頷いた。
「今日の料理、本当に美味しいな」
母さんは答えなかった。
父さんは椅子を後ろへ引いた。
「そういえば、外で用事があったんだ。ちょっと行ってくる。俺のことは待たなくていいぞ」
ほとんど逃げるように席を立ち、そのまま扉へ向かっていった。
母さんはその背中を見送りながら、小さく首を振っていた。
あの表情を見る限り、父さんが今言ったことを簡単に忘れてくれるとは思えない。
僕はもう一度、自分の皿へ視線を戻した。
少なくとも、一つだけ決まったことがある。
テアには腕輪を贈ろう。
◆
翌朝、母さんはいつもより少し早く僕を起こした。
「ほら、早く準備して。今夜のために買っておきたいものがいくつかあるの。その間に、あなたも友達へのプレゼントを選べるでしょう?」
「分かった。すぐ準備するから、ちょっと待ってて」
ようやく、ちゃんとプレゼントを探しに行ける。
テアにとって特別なものにしたかった。
どこかに放り込んで、そのまま忘れてしまうようなものじゃない。
できれば、長い間使えるものがいい。
少しして、母さんと一緒に家を出た。
太陽が昇ってからまだそれほど時間が経っていなかったので、暑さもまだ厳しくない。
僕はこの時間に外を歩くのがかなり好きだった。
道は静かで、涼しい空気のおかげで歩くのもずっと気持ちいい。
町に着くと、母さんは小さな装飾品店の前まで僕を連れていった。
向かい側には、母さんが立ち寄る予定の八百屋がある。
店を離れる前に、母さんは店主へ声をかけた。
「おはようございます。ルークが少し腕輪を見ているので、私は向かいの八百屋へ行ってきます。すぐ戻りますから」
カウンターの向こうにいた女性は、母さんに笑いかけながら頷いた。
「心配しないで、エリサ。私が見てるから」
母さんは僕を見る。
「ここから出ちゃ駄目よ。分かった?」
「分かった」
母さんが道の向こうへ渡っていくのを見送り、僕は店の奥へ入った。
中には、ほのかに甘い香りが漂っている。
右側にはいろいろな首飾りが並んでいた。
綺麗なものもたくさんあったけれど、首飾りを買うつもりはなかった。
僕たちくらいの年齢には、少し飾りすぎな気がする。
その点、腕輪ならもっと気軽につけられる。
今でも使えるし、ちゃんと選べば大きくなってからも使えるかもしれない。
店内を見回している途中、ガラス張りの台の下に置かれている指輪が目に入った。
光を反射して、かなり綺麗に輝いている。
でもあまり気を取られず、そのまま腕輪が並んでいる場所へ向かった。
ほとんどのものは派手すぎるか、テアなら数日もしないうちにどこかへ引っかけて壊しそうなくらい細かった。
テアは一日中走ったり、跳ねたり、剣の練習をしたりしている。
あまり細くて繊細なものを選ぶのは、賢くないだろう。
しばらく探していると、ほかよりもシンプルな腕輪が目に留まった。
小さな石が三つついている。
黄色、青、そしてまた黄色。
紐は少し太めで、手首に近づくにつれて細くなっている。
端には簡単な留め具があり、長さを調節できるようになっていた。
*これならよさそうだ。*
派手すぎない。
簡単に壊れそうにも見えない。
それに、大きくなっても紐を少し緩めれば、そのまま使える。
もう少し近くで腕輪を眺めていると、背後から店主の声がした。
「いいのを選んだわね。お友達へのプレゼント?」
「うん」
女性は僕の隣まで来て、腕輪を覗き込んだ。
「丈夫よ。それに紐の長さも変えられるから、子供でも使いやすいわ」
僕は石を少し眺めた。
「この石って、鉱物として何か価値はあるんですか? それともただの飾り石ですか?」
女性は数秒、僕の顔を見た。
「鉱物としての価値?」
「はい」
さらに少しだけ、僕の顔を見つめる。
「あなた、いくつ?」
「四歳」
女性は一瞬黙った。
「……そう」
あまり納得している顔には見えなかった。
それから腕輪を手に取る。
「いいえ、高価な宝石じゃないわ。飾りに使っている普通の石。価値があるとしたら、私が作った手間のほうね」
それを聞いて安心した。
友達へのプレゼントだからといって、母さんたちに必要以上のお金を使わせたくはない。
少しすると母さんが店へ戻ってきた。
八百屋で買ったものが入った小さな袋をいくつか持っている。
僕の隣まで来ると、選んだ腕輪を見た。
「これが気に入ったの?」
「うん。派手すぎないし、紐の長さも変えられるから。テアはいつも走り回ってるし、細いものだとすぐ壊しそうだから」
母さんは僕を見て、それから少しだけ微笑んだ。
「ちゃんとテアのことを考えて選んだのね」
「テアへのプレゼントなんだから当然でしょ」
どうしてそんなふうに笑うのか分からなかった。
母さんは自分の手首に腕輪をつけ、長さの調節具合を確かめる。
「いいものを選んだわね。きっと似合うと思う」
それだけ聞ければ十分だった。
腕輪はそれほど高くなかった。
それにも少し安心した。
誕生日プレゼントだと知ると、店主は小さな箱に腕輪を入れ、綺麗に包んでくれた。
僕はその包みを大事に受け取った。
母さんの買い物もすべて終わっていたので、店を出て家へ向かう。
歩いている途中、何度も手の中の小さな包みを見ている自分に気づいた。
*気に入ってくれるかな。*
気に入ってくれるといい。
それよりも――
ちゃんと、つけてくれたらいいな。




