(9)合格……
その後も奈美は勉強に精励した。薬剤師になること、東京に住むことを目標に掲げて、やる気を奮い立たせた。毎月の模擬試験の結果は、はじめのうちは振るわなかったが、徐々に成績が伸びて行き、年末には第一志望の東京都内にある薬学部上位校の合格確率がついに八〇%以上になった。
結衣はすでに夏休み明けの模擬試験で、第一志望の弘前大学農学生命科学部の合格確率が八〇%以上になっていて、その後もずっと八〇%以上を維持していた。
「結衣はすごぇね。東北大農学部も合格圏内でねぁ」
「んだども、私はやっぱり弘大さ行ぐ」
「なして? もったいねぁでねぁ」
「自炊とか洗濯とか面倒ぐさぇがら、実家がら通える方がえぇの」
結衣の意志は固く、ブレていなかった。
奈美は結局、東京都内にある薬学部三校を受験した。第一志望は上位校、第二、第三志望は中位校であったが、三校すべてに合格した。
結衣は、順当に弘前大学農学生命科学部に合格した。結衣はこの一校しか受験しなかった。
奈美の薬学部合格を家族が祝福した。
「奈美、よぐけっぱったね」
「ありがとう」
「お姉ちゃんすごぇ。私、東京さ遊びに行ぐね」
「落ぢ着いだら来でね」
「おいも奈美どご見習って、たばこやめるべがな」
「無理しねぁでね」
奈美は薬学部合格後、東京のどの街に住もうか、ネットで調べる作業を楽しんでいた。
それから数日後の夜、修二が難しい顔をして工場から帰ってきた。玄関に入ると、ふうっ、とため息をついた。
「おがえりなさい。あんた、どうしたの?」
出迎えた佳代子が、気になって修二に聞いた。
「……困ったごどになった」
「何があったの?」
「四月一日付で東京本社の技術課長どして転勤してぐれ、って言われだ」
「えっ、本当?」
「転勤なんて初めでだ。栄転だって言われだんだども、おいは大館がら出だぐねえしな」
「んだども、断れねぁでしょ?」
「会社辞める覚悟がなぇば、断れねぁ」
「……奈美だげではなぐ、あんたも東京さ行ぐごどになるのね」
二人は沈痛な面持ちで、しばらく沈黙した。
「奈美、久美、さっとこっち来で」
ちょうど奈美は、ネットで東京のレジャースポットを検索したり、東京での一人暮らしをあれこれ想像したりしながら、にんまりしている最中だった。階下で母が呼んでいるが、どうせ大した用事ではないだろうと思い、すぐには席を立たなかった。
了




