第一章 旅へ 3
「うわぁぁぁぁぁ! すごい! すごい! すごい! すごぉぉぉぃ!」
それは、想像以上の光景だった。
摩天楼のように空高く突き抜けるのは、ニホンノクニのカナメでもあるネオ大江戸城だ。威厳たっぷりの重厚な造りの城の周りには、何重にも堀が彫られている。
堀の周りの水路を彩るように桜の木が植っており、美しく世界に色を添える。
その光景は、この国のトップを敬い、慕い、守り、慈しみ、そしてひれ伏す、この国の在り方そのもののようだ。そう、その城に住まうのは将軍様──、この国の長だ。
そして、七姫の私は、その将軍の嫁候補の一人……なんだけど……。
そんなこと考えたくもないわ!
何のために、私に与えられた領土を完璧に運営して、姫不在でもことが足りるように民営化したと思ってるのよ!
スローライフな旅をするために、十七年の人生の全てを賭けて、私は徹底的に領土の管理を行なってきた。私がいなくても領民だけで、安全に・快適に・幸せな生活ができるよう、私は基盤をしっかりと築いた。
それが成せたのも、前々世の記憶・都華菜絵としての社畜な毎日のおかげだった。彼女の記憶は私に様々な知識を分け与えてくれたのだから。
そのおかげもあって、私の領地は華々しい発展を遂げた。
だから、私はこうして今、領地から離れて旅に出ることができているのだ。
まぁ、そのせいで、慧花の姫なんて、たいそうな二つ名をつけられてしまったのだけれど。
しかも、そのせいで、私は大奥制度の七姫の中でも、将軍の嫁としてかなり優位な立ち位置になってしまっているみたいなんだけど……。
旅に出たい──ただそれだけのために、がむしゃらに領地開拓をしていたら、将軍の嫁、最有力候補者になってしまうなんて……そんなの本末転倒じゃない。
私はこの人生では、姫様なんて地位はいらないの。
私はただ、世界を歩いて回りたいだけなんだからぁ!
魂が抜き出てしまいそうなほどに、ため息の連発が止まらないわ。
「ダメだめ! せっかくの夢のスローライフよ! 七姫ってことは忘れて、旅を楽しまないと!」
私はひとりごちりつつ、街並みを堪能する。
大通りには様々な露店が連なって、大都市らしく派手な着物で着飾った男女が練り歩いている。
見たこともない着物の着崩し方。髪の結い方や髪色だって、とても奇抜だ。人を運ぶ乗り物だって、宙を飛んでいるものもある。
さすがは、ネオ大江戸。カラクリの技術も、花々しい文化も、私の納める東の地方都市とは比べ物にならないわ。
私の声は浮かれっぱなしだ。さっきまで筋肉痛で死にそうだと思っていたふくらはぎの痛みだって、今はもう感じない。
「やっぱり、旅のスタート地点をこの場所にしたのは正解ねッ!」
私の隣でスーさんが、宿の一つを指差した。
「姫さま……じゃなかった、凛様? まずは、今宵の宿探しを。あの宿屋なんか良さそうですよ?」
大通りの中で一番目立つ面構えに、どんと構えた宿屋は、相当の老舗だと窺える。私は、懸念まじりに言葉を返した。
「でも、スーさん? あんな高そうなところに泊まったら、私が七姫の一人ってバレないかしら? 私が七姫だってバレてしまったら、一気に領地へと強制送還されてしまうじゃない! もっと、どこか、身を隠しやすいようなところ……、安そうな宿屋にしましょうよ?」
すると、私の言葉に間髪入れずにカカさんが返事を返す。
「いけませんわ、凛様! 凛様ともあろう方が、安い宿屋なんて! それに、ある程度の宿屋であれば、治安も良いでしょうし。ね? ここは、鈴華の言う通りにしましょ?」
「うーん。まぁ、そうね。スーさんとカカさんは、その辺りの殿方よりは強いとは思うけど、女三人旅だもんね? わかった。宿屋は良いところにしましょうか?」
こうして、私たち三人は、ネオ大江戸の中でも随一の宿屋と謳われる『シン蔵屋』へと足を運んだ。
そしてこの決断が、私の運命をガラリと変えてしまうことになったのだった。




