第六章 大奥姫の世直し旅 3
どうして……? なんで……? いろんなことを考えながら馬を走らせた。
どうして私が七姫だって知っていたのに、近づいたの?
なんで、私に簪を贈ってくれたの?
どうして私に口づけなんてしたの?
なんで、あんな風に私に笑いかけたの?
ねぇ……全部、嘘だったの?
だけど、やっぱり、私には答えはわからないから。
まだ胸は痛い。だけど、知らないことの方がよっぽど嫌だわ。
誤魔化されるくらいなら、あなたにはっきりフラれた方が何倍も良い。
「だから……、直接答えを聞かせてもらうんだからね──瑳希!」
***
先行潜入していた銀之助から高速簡易音声伝書鳩が戻ってきた。
瑳希の情報曰く、瑳希はネオ大江戸城の最上階、政をするための広間に幽閉されており、祝言を挙げるのは七姫のうちの一人、西の領土を任されている、駿河桜子様だという。確か彼女の領地は去年からの不作で年貢が落ちているだけではなく、そのせいで領内の税も上がってしまい領民が苦しんでいるという噂を聞いたことがある。
七姫の中で、頭角を現すのに苦戦している。それが、桜子様だ。
もしも、大奥制度が『国の母になるべく女性』を探すものなのだとしたら、申し訳ないが、桜子様の領民を拝見する分には彼女は『国の母』には相応しくないだろう。
なんて、私、もしかして嫉妬しているのかしら。
彼女と私の領地を無意識的に比較して、『私の方が優れている』と感じようとしているのか。
「いやね……。まさか私の中に、こんなにも性根の悪い嫉妬の部分があったなんて──」
銀之助のデンショバトが言葉を続ける。
祝言を挙げるために桜子様一行は、すでにネオ大江戸城に登城しているらしい。
祝言は今宵、月が城の天辺に刺さる時に挙げられる。将軍様の祝言をそんな夜中に民にも知らせずに執り行われるということは、何かよからぬことがあるからだ。
『それと、姫さん。これは言い難いんですが……隠しても仕方ねぇので、言いますぜ?』
「いいわ、銀之助。隠し事無用。言いなさい」
『かの方は全身を拘束され身動きが取れやせん。そして、媚薬を盛られている』
「媚薬……?」
『これは俺の憶測ですが、形ばかりの祝言をさっさと終わらせて、強制的に夜の伽をさせるんじゃねぇか……と思います。七姫が将軍のお子を孕んでいるかもしれないとなれば、政治的にも優位になる……。そしてやはり、裏で糸を引いているのは、先代将軍、徳川煉弥様で間違いありやせん。煉弥様は、相当やばいことを企んでいるかもしれやせん……』
私の右隣で馬を走らせているカカさんに視線を向ける。私はとあることを彼女に伝えると、彼女は頷きを返す。彼女からデンショバトが飛ばされるのを見届けて、どうか間に合いますように──と願いを込める。
まさか──アレが役に立つかもしれない時が来るなんて思わなかったけれど。
「ねぇ……? 銀之助。教えて欲しいことがあるの……」
『なんでしょう、姫さん?』
「瑳希は……求めているのかしら……?」
私の声が震えている。彼は、私からの手助けを求めているかしら。
もしかしたら、西の姫との夜伽を求めているかもしれない。
『それは、姫さんがあの男に聞くべき問い。しかしながら、俺が見たことからお教えできるのは……、瑳希は、拘束された縄がどれほど体に食い込もうとも、そこから逃げようと足掻いていましたぜ?』
「そう──!」
私は前を見据える。
もうすぐ、山を越える。太陽が沈んでしまう前に、急がなければ。
『姫さん、笑えると思いやせんか?』
「どういうこと、銀之助?」
『姫さんの旅の点と点が、今、繋がりを見せる。姫さんが願っていた──自分らしく、正義の名の下で生きる、──それが今、あなた様をここまで導いてきやした。救ってくださいよ。城に囚われたこの国の大将を、あなた様の正義で──!』
その言葉に緊張していた私の顔にも、思わず笑みが浮かんでしまう。
まさか、誰が想像すると思う?
前前世の私が社畜であってくれたおかげで、私の領地運営は他の誰よりも発展を見せた。前世の私が悪役令嬢であったおかげで、私は正義のために生きたいと強く思えるようになった。
私が七姫として生きると決めたおかげで、スーさんにカカさんに、銀之助に、出会うことができた。彼らがいなければ私は旅に出ることすらできなかったわ。
そして、旅に出たい──そう思ったおかげで、私は瑳希に出会うことができた。
「そうね、銀之助。あなたの言う通りだわ。私の今まで全ての生き様を、今、ここにぶつけさせてもらいましょう!」
私は胸を張る。
もう、悩むのはやめよう。彼が私を求めていなくても、私は、私の生きる道を進むだけ。
だって、私は、皇凛。
大奥の七姫の中でも、容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備、その言葉の全てを束ねる、慧花の姫である。
そんな私は、家出姫。私の趣味は、悪代官成敗。
「行くわよ! みんな──! 日が沈むまでに、ネオ大江戸に入ります! 私の馬についてきなさい!」
私は愛馬の手綱を強く握った。
走れ、彼を救い出したくば──!




