春一番
「うぅ・・・おじ・・・さん・・・。なん・・・で・・・」
街の外壁地下のスクラップ置き場
私の大きな悲しみの声だけが響いていた。
冷たい土の下、傷だらけの彼は、静かに私との再会を待っていた。
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなにも胸が苦しいの?
どうして愛する人と別れなきゃいけないの?
おじさんはきっと、私を助けるために
絶対に外しちゃいけない部品を外して、私をここまで連れてきてくれたんだ
私が
私が死ねばよかった
おじさんにもやりたいことがあったはず
中央研にいたから、すごい発明品を街に持っていくつもりだったのかもしれない
それが、みんなを救う技術だったかもしれない
なのに
私なんかの
子共っぽい
叶わなくてもいい夢のために
おじさんは・・・
「このきた・・・。彼のブラックボックスは・・・、生命維持装置が取り外されてすぐに、壊れていたそうよ・・・」
「・・・・・・・・・」
「きっと、あなたに生きてほしくて、その選択をしたんじゃないかしら・・・」
「・・・・・・・・・」
「さあ、早く出ましょう。こんな防護服が必要な場所、ずっといたら風邪ひいちゃうわよ」
「・・・・・・・・・」
私はレナさんに手を引かれ、おじさんを置いて行った。
「きれいな髪ね~、もう雪よりきれいな白銀色!羨ましいわ~」
レナさんの家に着いて、一緒にお風呂に入った。
コロニーとは違う、熱くてたまらない水を浴びた。
レナさんは優しく、私の髪を洗ってくれた。
「はい、召し上がれ♪ 私たち第三世代フルサイボーグは食事の必要はないのだけれど、こうやって、人としての矜持を忘れないように食事は欠かせないのよ?」
出された料理は見たことない食材で彩られ、色鮮やかで、温かくて、とてもおいしそうだった。
でも口に入れた瞬間、それらは異物となった。
まったくの無味。
あの青臭い3号成形食の方がおいしいと感じるほどだった。
「おしまい。面白かったかしら? この絵本、ずっと昔からあってね、私もお母さんに、こうして寝る前によく読んでもらったのよ~」
ベットで横になっていると、レナさんが絵本の読み聞かせをしてくれた。
動物たちが人間から火を奪うお話。
私のコロニーにも残っているぐらい、有名な話だった。
「おやすみなさい、ハルカちゃん。明日は服を買いに行ってみましょうか。ハルカちゃん美人さんだから、きっと似合う服もたくさんあるわよ~」
「ああ、それと。明日から、ママって呼んでも構わないからね。おやすみ♪」
レナさんが部屋の明かりを消す。
温かいけど、すこし埃っぽいかけ布団を首まで寄せる。
おかしいな
夢は全部叶ったはずなのに
ちっとも嬉しくない
コロニーで親方たちと冷たい水で汗を流して
ちょっとだけしょっぱい成形食をほおばって
キャラバンのみんなとご飯を囲んで
寝る前に何度も何度も、一言一句暗記するぐらい読み込んだ図録を読んで
おばあちゃんと硬いベットで一緒に寝て
そして目が覚めたら・・・
おじさんが・・・おはようって・・・
あれ・・・?
私
何のためにここにきたの?
窓から差し込む穏やかな日の光に目が覚める。
ずっと考えていた
私は、何をしにここに来たのか
幸せは、ここには無かった
1階に降りると、レナはご機嫌に朝食の支度をしていた。
「ハルカちゃん! おはよう、よく眠れた? 今ご飯作ってるから、ちょっと待っててね♪」
私は返事をする気力もなく、ドアを開けて外に出た。
「ああ、ちょっと、ハルカちゃん? どこいくの?」
「・・・ちょっと、散歩・・・」
レナはいってらっしゃいというだけで、裸足のまま外に出た私を止めなかった。
・・・おじさん
※注意※
この先 外壁地下第6スクラップ場
!防護服着用必須!
冷たい
痛い
外と変わらない空気が渦巻いていた。
地面の土は私の指を真っ赤に染め、冷気は私の吐息を白く濁らせる。
体温がどんどん下がっていくのを感じる。
なのに体の中は風邪を引いた時よりも熱い。
・・・・・・
・・・!
おじさん!
おじさんは昨日と変わず、静かに私の目覚めを待ってくれていた。
私は必死に駆け寄った。
足の裏は凍り付き、私の後ろには血の足跡が残されていた。
でも痛みは私を止める理由にはならなかった。
「・・・おじさん!」
おじさんはコックピットを開けたまま、ぐっすりと眠ってしまっていた。
「もう、おじさんったら。コックピットの開けっ放しはダメだって、教えてくれたじゃん・・・」
初めて出会った時のように跪いている。
コックピットにも簡単に入ることができた。
「えへへ、おじさんのコックピット、結構広いね。寝れちゃうくらい・・・うんしょ」
唐突な眠気に襲われ、彼の内側に寄り添い、目を閉じる。
ああ、私はもう・・・・・・
おじさん、私、夢叶ったよ
でも、おじさんが居ないと、寂しいよ
「ハルカちゃん。お前さん、何やら悩み事がありそうだねえ」
「?!」
「おやおや、図星かい」
「な、何で分かったの?」
「ふっふっふ、《《乙女の勘》》ってやつかねえ」
「へっへっへその見た目で乙女って、ブフォオッ!?」
「サ、サム?!」
「あー、いつものことだ。気にするなハルカちゃん。まったく、お前も少しは--」
「で、ハルカちゃん。相談なら乗るよ? 女の子同士の密会さね」
「う、うん。じゃあ、わ、笑わないでね!」
「もちろんさね」
「えっ・・・とね。おじさんは、ちょっと怖いところあるけど、私のことをずっと守ってくれてるの。あと私のくだらない話にも、ずっと付き合ってくれたし、知らないこと、たくさん教えてくれたの。おかげで、出会ってから全然退屈しなかった。
だから、本当は・・・その・・・。~~~~~~!!!」
「なんだい?」
「ええっと、ありがとうって・・・言いたいんだけど・・・。恥ずかしくって・・・」
小声で、おじさんに聞こえないように、私の気持ちを伝えた。
私の素直な気持ちだった。
「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」
「わ、笑わないでよ!」
「ふふっ、ふふふっ。いやなあに、いい娘さんじゃあないか」
「おじさんは、私のパパじゃないよ・・・」
「あら、そうなのかい?」
「そうだけど・・・。で、でも・・・私の、ママとパパと、おばあちゃんと・・・。同じくらい、大切な人・・・・・・」
「ふっふっふ、ハルカちゃん」
「?」
「いつか、ちゃんと伝えるんだよ?」
「・・・うん!」
・・・・・・
ボス、サム、マココさん
みんな・・・
約束、守れなくなっちゃった・・・
ごめんなさい
ハルカは悪い子です・・・・・・
視界に氷の結晶が見える。
体はもう何も感じなくなっていた。
おじさん・・・私ね・・・
会えて・・・嬉しかったよ・・・
楽しかったよ・・・
だからね・・・
いっぱい・・・・・・
ありが・・・と・・・う・・・・・・
熱い涙は頬の霜を溶かし
愛する人に零れ落ちた。
『さあさあ、お天気ニュースの時間がやってまいりました! 今日から3月に入ります!いや~あっという間でしたね~。でも今日から季節は春! 対流による強い春風、春一番には、皆様どうかお気をつけください! それでは、週間天気予報のお時間です! まず1週間を--』
「ハルカちゃん、遅いわね~。どこまで行っちゃったのかしら。ご飯冷めちゃうのに・・・。ってまた警備隊? 最近忙しいわね~」
『そうそう、あなたの名前の由来って、教えたことあるかしら』
『ハルカの? 知らなーい! おしえておばあちゃん!』
『そうだったねえ。じゃあ話そうかい。実はお前さんの名前はねえ、お母さんが付けたわけじゃあないんだよ?』
『ママじゃないの? じゃあおばあちゃんが付けてくれたの?』
『ふっふっふっふっふ。おばあちゃんでもないんだよ?』
『ええ? じゃあ誰がハルカって付けてくれたの?』
『ふっふっふ。それはね、ものすごく勉強ができて、誰よりもきれいだった、私の大切な人よ』
『?』
『あら、私にお姉さんがいたのは、話したことあったかしら』
『あの中央研に行ったすごい人のこと?』
『そうそう。あの人、自分に子供になんて付けたと思う?』
『うーんと・・・。ん~~、もしかして、ハルカ?』
『正解! ちなみに男の子だったら、ハルキって名前だったそうよ』
『ハルキって、パパの名前?』
『あら、大正解よ!』
『やったー! じゃー、私も、ハルカちゃんに会えるかな?』
『・・・。そうね、いい子にしてたら、きっと会えるわよ・・・』
『分かった! 私、いい子にしてる!』
『じゃあいい子は、早く寝ましょうね。おやすみ、ハルカ』
『おやすみ、おばあちゃん・・・』




