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キャラバン

「ハルカ、何かいいものはあったか?」


「うーん、この食べ物の絵が描いてある缶? ならいっぱいあるけど、食べれるの?」


ハルカは地面から突き出た岩、ではなく地下シェルターの底にいた。


食料がそろそろ底を尽きるらしく、困り果てていたいたとこに、都合よく旧時代の地下シェルターが顔を出していた。

今はこれ幸いと、残っている非常食をあさっているところだった。


「それは缶詰といってな、旧時代の非常食として、よく食べられていたものだ。中に料理が入っていてな、成形食とは全然違うぞ?」


「ふーん、この中に料理が・・・。全然想像つかないや」


「そろそろ吹雪が来る。持てるだけ持って上がりな」


「はーい」


左腕から伸びるハッキングアンカーをゆっくり巻き上げると、缶詰を防護服スーツのポケットいっぱいに詰め、満足そうな顔のハルカが上がってきた。






ふうー収穫収穫!

大量の戦利品を太ももに広げ、一息ついた。


旧時代は戦争が絶えず、シェルターが大量に建設されたこともあり、しばしば地面から地下シェルターが生えていることがある。

中に入ることができ、しかも食料が見つかった今回はかなり運が良かった方で、地表に出ているシェルターは基本的に土砂が詰まっていて、どうしようもないことがほとんどだ。


それにしてこの缶詰とやら、みれば見るほど不思議だ。

金属で覆われているから手じゃ絶対に開けられないし、かといって強化外装オーバーフレームで開けようにも中身をぶちまけてしまうだろう。


中に料理が入っていると聞いたが、一体どうやって金属の中に封じたのだろうか。

開け方らしき文字が書かれているが、違う国の言葉らしくさっぱり読めない。

何か大失敗を起こす前に、おじさんに聞いた方がよさそうだ。


「おじさん、これどうやって開けるの?」


「缶詰のことか。平べったい面に輪っかがついていないか?」


「輪っか? うーん、あ、これ?缶にへばりついているやつ?」


「そう、それだ。それを起こしてやって、持ち上げれば開くぞ」


「ありがとう、やってみる!」






吹雪の中、ハルカの喚き声が風に乗り、機体の外まで響いていた。


「おじさ~~ん、これ食べたいよ~~」


どうやらハルカの膂力では、蓋を開けることすら叶わなかったようだ。

金属の棒でも突っ込めば簡単に開いたものを、そんの持ってない!と、しばらく缶詰との格闘戦に励んでいた。


吹雪が弱まった内に移動したかったため無理やり連れてきたが、ここまで盛大に騒がれるのは予想外だった。

よほど缶詰に期待を寄せていたのか、はたまた食い意地が張っていたのか、ただ単にお腹がすいていたのか、いずれにせよこの1時間ずっとあんな調子だ。

おかげでハルカの機体がふらつき放題であり、牽引するこっちの気がもたない。


「ハルカ、次吹雪が止んだら開けてやるから、今は姿勢制御をおろそかにしないでくれ・・・」


「そんなこと言ったって~~」


うーんこりゃしばらくはダメだな。

スピードを落として進むか。



大型熱源 確認

コード ブルー

味方機です



?!

こんなところで友軍信号?

しかもなんだこのバカでかい熱源は。

速度も尋常じゃない、何者だ?


突然の友軍信号に困惑する。

自律型はこの信号を発さないため、誰かが軍用の信号を発していることになるが、こんな吹雪の中を誰が、何のためにやっているのか。

友軍信号を掲げる巨大な熱源は、あっという間に二人の前に姿を現した。






うわ~~おっきい~


吹雪の向こうからやってきた巨大な箱は、私たちの目の前を通り過ぎるかと思いきや、金属同士が擦れあう嫌な音を立て、側面を見せびらかすように停止した。


仰々しい棘がついた車輪が並んでいることから、おそらく列車の類だと思うが、ここまで大きなものは見たことがない。

ジャンク屋の人かな。

コロニーの外に出て旧時代の廃材をあさるジャンク屋なるものは私のコロニーにもいたが、車両は防衛軍で使われていたトラックぐらいしかなかった。


錆びついたコンテナには、大きく“Caravan Blossom”と描かれている。

キャラ・・・バン? もしや各地のコロニーを渡り歩いているのだろうか。

缶詰のことも放り出し、あっけにとられていると、コックピット内でもうるさいぐらいの大音量で列車からアナウンスがあった。


『おお~いあんたたち~』


『乗ってくか~い?』


ノイズ混じりに聞こえてきたのは、一見すると男性と聞き間違てしまいそうなくらいに野太い、老齢の女性の声だった。

私のおばあちゃんも歳の割には元気な方だが、ここまでの活気ある声は出せない。

乗るって、この列車に乗せてくれるの?

このまま進んでも良かったのだが、吹雪の中、変わり映えしない景色を見ながら缶詰のことを引きずるのに疲れていたところだった。

もしかしたら、缶詰を開けてくれるかもしれない!


『乗るなら早くしな~。後ろ開けてるからよ~』


どうしようかとおじさんの方をちらりと見る。

戦闘モードに入ってはいないものの、まだ警戒は解いていないようだった。

しかしこんな吹雪の中で、わざわざ乗せてくれると言うんだ。

きっと親切な人に違いない。


「は~い! 乗ります、乗りま~す!!」






まったく、ハルカのやつ・・・

俺たちは謎の装甲列車に乗り込んでいた。

ハルカは突然「乗ります!」と言ったと思ったら、そそくさとコンテナに乗り込んでしまった。

なんて破天荒な娘だ。警戒という言葉を知らないんじゃないだろうか。


ハルカを追いかけて乗り込んだはいいものの、この列車の中は何だ?

コンテナの中は暖かく、広い空間が広がっており、目の前にはフォース・ターボ製の強化外装オーバーフレームが3機、壁面は整備に使うであろう工具や設備がびっしりと埋め尽くされていた。

ジャンク屋にしてはやけに武装しているな、と関心していると、奥の扉が勢いよく開き、中から2人の男が出てきた。


「おいおいおい! なーに見てんだ! コラァ!」


「落ち着けサム、相手は軍用の強化外装だぞ。死にたいのか?」


「止めるなマココ。初対面の相手に舐められるのはレジスタンスとして許せねえ。おい! そこのお前!」


「ああーもう、おれは知らんぞ。ボス、早く来てくれ! サムが特攻しそうだ」


「ようようよう! 早くその湿気たツラァ見せやがれってんだ!」


旧リーカから来た2人組のようで、こちらを威嚇している金髪の若い男はサム、扉の前で呆れている黒い熟年の男はマココとお互い呼びあっている。


サムはどうやら元レジスタンスらしいが、この威勢でよく生き残っていたな。

ハルカ、俺の後ろに隠れて・・・って、ハルカ!


「こ、こんにちは~」


「おうおう、やっと降りたか・・・って、ええええぇ~!?」


「お、女の子?」


ハルカはいつの間にか機体を降り、俺の足元まで来ていた。

2人組は予想外の強化外装の主に驚いていた。


「ななな、なんで? お嬢ちゃん、今強化外装から降りてきた?」


「う、うん。私の機体・・・だから」


「へ、へ~そうなんだ・・・。お、おい! お前!なんでこんな子供が、強化外装に乗ってんだよ! お前も早く顔を見せやがれ!」


サムと呼ばれた男は狼狽しながらこちらに問いかけてきた。

先ほどの威勢はどこへ行ったんだ?


「なんだいなんだい、騒がしいねえ」

反論の隙は、扉の奥から現れたヌシのよってかき消された。







「おやまあ、可愛らしい子じゃないか。初めまして。あたしはこのキャラバンの頭、ボスとお呼び」


「は、初めまして! あ、わ、私、ハルカっていい゛っ」


怖気と緊張で舌を噛んでしまった。


列車の中は外の吹雪が嘘のように暖かく、思わず機体から降りてしまったが、ちょっと後悔している。


人間か疑ってしまうほどの巨体。多分私の機体と同じくらいある。

背だけでなく、腕も足も大きい。私の胴体と同じぐらいの大きさだ。

髪を後ろできつく縛っており、一見すると老婆には見えない。

筋骨隆々な肉体から発せられたは思えない、しわがれた声。

ただ声量が大きく、ちょっと耳が痛い。

外のアナウンスの人だろうか。


さっきまで元気だった金髪のおじさんが慄いてしまっている。

この列車の一番偉い人のようだ。

そんな偉い人のまで舌を噛んでしまった。

怖い以前に恥ずかしい。


「あっはっは、大丈夫かい? そんな緊張しなくても、とって食いやしないよ」


「しゅ、しゅみまへん・・・」


「あんたがこの列車のリーダーか」


おじさんが私のトラブルに気付いてくれてのか、話し出してくれた。

ありがたい。舌の痛みが引くまで、しばらく代わってもらおう。







「ああそうともさ。お前さんも、ボスって呼びな」


・・・

強化外装と見間違うほどの巨体の持ち主“ボス”

本当に人間か疑いたくなるが、手も足もよく見れば皺が寄っている。

旧時代の中央研で一時計画されていた強化人間がこんなサイズ感だったか。


いろいろと聞きたいことがあるが・・・


「ボス、あんたの厚意に感謝する。吹雪の中を進むのは簡単じゃないからな」


「なーに気にしなさんな。旅は道連れ世は情けってやつさ。しかしまあ、こんな吹雪の日に親子でお散歩かい? 随分とスパルタな教育だねえ」


「いや、俺たちは親子ではない。訳あって、ともに太陽の街を目指している」


「ほう・・・? あそこをねえ・・・・」


「あんたら、あの街はやめときな」


「おいサム!」


「いいってマココ。オレたちもあの街を目指してたんだが、門番がそれを許しちゃくれないのさ」


割り込んできたサムが忠告する。

まるで交戦したことがあるかのような言い草だ。


「門番? 番犬のことか」


「ん? なんだ知ってたのか。だったら話は早い。さっさとお家に帰った方がいいぜ。貴重な商品をぶっ飛ばされちまったからな」


「交戦したのか?」


「いや、向こうからの一方的な長距離攻撃さ。こっちは柄にもなく、しっぽ巻いて逃げちまった」


「ふっふっふ、あんときはぁ、肝が冷えたねえ。マココの操縦があと一歩遅かったら、あたしたちも今頃は雪の下だったねえ」


「あれはボスが指示してくれたからだ。おれはただそれに応じただけさ」


「まあ、そういうことさね。どうだい? お前さんたちのコロニーまで送ってやろうかえ。有料だがね」


都市防衛用自律型強化外装

名をケルベロスといい、大型機体をゆうに超える体躯に両腕の大型ガトリング砲、背部から伸びる大型の高出力レールガン、大容量のエネルギー障壁発生装置を搭載している、まさに番犬としてふさわしい機体だ。


生半可な攻撃では傷すらつけられず、弾数も機動力にも隙はない。

しかし番犬側から長距離攻撃を仕掛けてきたとなると、やつの警戒範囲は相当広いらしい。番犬なら番犬らしく、入り口だけ守っていればいいものを。





やっと舌の痛みが引いてきた。

太陽の街へ行くのは私の夢だ。

あと一歩のところまで来たんだ、ここで引き返すわけにはいかない。

番犬?も、きっとおじさんが何とかしてくれる。


「ええっと、ご、ごめんなさい! 私、街に行くのが夢なんです。あったかいご飯お腹いっぱいを食べて・・・。そのためにコロニーを飛び出して、ここまで来たんです! だから、お誘いはうれしいんですけど、ごめんなさい!」


「・・・・・・そうかい。いい夢を持ってるねえ、ハルカちゃん」


ボスは私の無謀で滑稽な夢を、笑うことなく、優しく肯定してくれた。


「対抗策はある。その提案は、ジャンク屋の遭難者にとっておいてくれ」


「おじさん・・・!」



「・・・なあ、お前さんら」


「?」


「街の近くまで・・・送ってやろうか?」


「「「ええ?!」」」


あまりにも衝撃的な提案に、私と列車の2人の声が重なった。


「しょ、正気かボス?! 頭いかれてんのか? オレたちあいつに殺されそうになったんだぞ?」

「ボス、相手はそこら辺にいる警備の強化外装じゃない。軍用の、しかも太陽の街の門番だ。いくらなんでも無茶だ」


「あ~ごちゃごちゃうるさいねえ、あんたたちは・・・」


「で、でもよお」


「方向転換をした後、追撃はされたかい? マココ」


「え? いや、あの後は何も・・・」


「そういうことさね。あいつも所詮は自律型。警戒範囲の外、そうだねえマリヤナ山脈を越えるぐらいまでなら、送ってやろうかねえ」


「ええ?! ほんと! いいの!」


「で、でもボス・・・」


「サム・メランダー、あたしたちの最終目的はなんだい?」


「え? ・・・ちっ。交易を通して、世界中に希望の火を紡ぐこと、だろ」


「そう。こんな年端もいかない子が、せっかくの安寧を飛び出して、夢を追っかけているんだ。あたしたちと同じだろ?」


「そ、それは・・・」


「こんな世界で、夢のために命を懸ける仲間を、助けないわけにはいかないだろう? マココ・ジョーバン」


「・・・はいっ!」


「このキャラバンへの加入条件はなんだい?」


「・・・命知らずの馬鹿野郎であること」


「そういうことさね。ハルカちゃん」


「ふえっ?! は、はいっ!」


「街を堪能したあと、あたしたちのところに来てくれるかい?」


「え? えーーと・・・」


ハルカ・・・






「すげーこの缶詰、旧ジパン限定のレアものじゃねーか! ハルカちゃん、これほんとに使っていいのかい?」


「うん! せっかくのパーティーなんだから、みんなで食べよ!」


「おーいサム、湯が沸いたぞー」


扉の奥の、厨房と思わしき場所から、賑やかな声が聞こえる。

ハルカはボスからの提案を承諾し、俺たちはマリヤナ山脈の向こう側まで装甲列車に乗せてもらうことになった。


これからハルカの加入祝い?をするらしく、ハルカ、マココ、サムの3人はその準備に勤しんでいた。


俺はというと、この機体からだではどうすることもできず、ただハルカの楽しむ声を静かに聞いていた。


あんなに元気な声を聞いたのは、出会った時以来か・・・?

そう考えると、ハルカと友好な関係にいたれていないことを痛感した。

いやいや、あの子はただあの日見たのヨシノに似てるだけで、別に大切な人でも何でもない。なにを焦っているんだ、だいたい俺は・・・


「お前さん、あの子が心配かい?」


?!

いつの間にかボスが俺の真横に立っていた。

ハルの機体と同じくらいの図体の人間の接近に気付かないとは、どれだけショックを受けているんだ・・・


「・・・どういうことだ?」


「そのままの意味さね。あたしからすると、お前さんはわがままな娘に振り回されている、心配性な父親にしか見えないねえ」


「父親?俺とあの子は2日前に会ったばかりの、赤の他人だ」


「そうはいってもねえ。じゃあなんでお前さん、あの子の保護者を演じているんだい?」


「・・・・・・」


「放ってはおけなかったんだろう? 親として」


「・・・血は繋がっていな」


「それでも親は親さね。あの子が頼りにできるのは、今はお前さんだけ。親は、子が巣立つまで、頼りになる存在を言うもんさ。血の繋がりは、あくまで生まれたときの距離のことさね」


「・・・・・・・」


「あの子が大きくなるまで、ちゃんと見守るんだよ?」


「・・・言われなくても」



自身が知らぬうちに、ハルカの存在は俺の中でどんどん大きくなってしまった。

それが過去の自分への、守れなかった未来への、せめてもの慰めなのだろうか。

「ああそうそう、お前さんに1つ、頼みごとがあるんだが・・・。聞いてはくれんかね?」







「「いったっだっきま~す!!!」」

「いただきます」


「ん? んんん~!!? ほへ、ふほいほいひ~!」


口に入れた瞬間、たくさんの幸せが舌の上で踊り出す。

コロニーでは味わったことのない刺激が全身に走る。

さっき噛んだ傷もたちまち治ってしまいそうだ。

温かい食事ができるだけでも幸せなのに、しかも今まで食べた中で一番美味しいだなんて・・・


「あーあーハルカちゃん、そんな一気に食べなくても、料理は逃げたりしないって」


「うんうん、今日の飯はまた格別に美味いな。あの缶詰のおかげか?」


「おうよ! あの缶詰は旧ジパンでしか作られていないやつでな、魚はどこでも獲れるやつなんだが、味付けにこれまた旧ジパンでしか作られていない調味料が使われててな、俺もあんまり使ったことないんだがーあれを使うのと使わないのとじゃあ味の深みが全然違ってだな、それから--」


「マココさんマココさん、サムって、たしか料理人って言ってましたっけ?」


「いや、親が宇宙開発時代にレストランをやってたってだけだ。でもまあ、確かに料理の腕はピカイチだ。この麺も、1号成形食を引き延ばして茹でたものだ」


「ええ?! これって1号成形食なんですか!? あのただモチモチしてるだけのやつが、熱い水につけるだけでこんな風に・・・。料理って、すごいですね!」


「--てなわけで家の、って、おう! たりめーよ! これでもレジスタンスの腹を満たしてきた一流のシェフだからな! ハルカちゃんも、オレの部隊に来ればって、あいたっ?!」


「悪い癖だぞサム。もう足は洗っただろう」


「しょうがねえだろ、子供んときから仕込まれてりゃあ、自然に出ちまうのさ」


サムはレジスタンスがたくさんいるコロニーで生まれ育ったそうで、世界中に散らばった仲間を集めるべく外に飛び出し、遭難していたところをボスに拾われたそうだ。

対してマココさんは元々防衛軍にいて、大軍縮で除隊。路頭に迷っていたところをボスに声を掛けられ、このキャラバンに加入したそうだ。

サムはマココさんよりも20は年下なのに、出会った時からこんな感じだったらしい。


いがみ合っている2人を横目に、おじさんがいる方を向く。

なにやらボスと話し合っているらしい。

おじさんはともかく、ボスは食べなくていいのかな。






「これはデータが破損している。抽出してもノイズしか残らないが、どうする?」


「いやいや、必要ないよ。依頼人には、そう伝えておくさね」


ボスからの頼み事は、道中のコロニーで手に入れた外部メモリーの解読だった。

なんでも、依頼人のコロニーには外部メモリーの出力デバイスが無いらしく、訪ねてきたキャラバンにデータの抽出を依頼してきたという。


全部で3つある外部メモリーの内、1つ目はメモリーのハードウェアそのものが破損していて読取不可、2本目はハードウェア自体は無事だったがデータが破損しており、残る外部メモリーは1つだけだった。


依頼主は子供だったらしく、中に何が入っているかはさっぱり知らないまま、とりあえず見てほしい、という奇妙な依頼だったそうだ。


「ウイルスの可能性はないかね?」


「そこは心配ない。防衛軍最高レベルのセキュリティシステムを搭載しているんだ、2世紀先のウイルスでもない限り大丈夫だ」


「そうかい。じゃ、差し込むよ」


首の付け根のポートに3つ目の外部メモリーが接続される。

さてさて、これも壊れてないといいんだが・・・


容量はかなり小さい。

残されていたのは短い音声データのようだ。


『・・・・・・・・・・・・』


ウイルスはなし

ノイズはひどいが、何とか再生できるな

なんて言っているんだ?


白と黒が入り混じる空間に声が響いた。

なんだ、空間は・・・?

まさか本当に未来のウイルス?


『あ・・・たはみ・・・を・・・って』


女性の声だ


『・・・こも・・・てるか・・・』

これは・・・。まさかヨシ



「なあ、お前さん」

!?

ボスの声により現実に引き戻される。


「お前さん、大丈夫かい? うんともすんとも返事しないからさ、壊れちまったのかと思ったよ」


「・・・あ、ああ。問題ない」


なんだった、今のは・・・

自前の外部メモリーと混ざったのか?



「あんた、第二世代サイボーグなんだって?初めて見たよ。第二世代は欠陥が多いそうじゃないか。今おかしくなっちゃ、この子が悲しむよ」


「おじさん、大丈夫・・・?」


ハルカとマココがこちらまできており、不安げに顔を伺っていた。

サムは厨房に戻っているらしく、パーティーの席に姿は無かった。


「いや、頑張って復元しようとしていただけさ。ボス、これもダメみたいだ」


「なんだい、残念だったねえ」


外部メモリーを外される前にもう一度再生しようとしたが、さっきまであった音声データのファイルが消えている。この外部メモリーのデータは1つだけのため、どこか別のフォルダを見ている可能性はない。

さっきの空間は?しかもあの声・・・。

思い出そうにも、霞がかかっているかのように何も分からない。



「ありがとうよ、お前さん。これで依頼は完了さね」


「い、いや、力になれず、申し訳ない」


「さあて、あたしも飯にありつこうとするかね。サム!」


「ちゃーんと用意してるぜ、ボス!」


扉の奥からサムが顔を出し、ボスはパーティーの席へ歩いていった。


「じゃあおじさん、また後でね!」


「ああ・・・」


3人はパーティーの席へと戻り、また楽しく談話を始めた。

ときおりハルカの怒りが聞こえたが、周りの笑い声にかき消されていった。


なんとも形容しがたい体験だった。

第二世代特有の症状なのだろうか。

真っ先にシステムの異常を心配するべき状況だったが、心なしか、どこか落ち着いている自分がいた。


「「い〜ざや〜〜た〜のし〜きま~~~ど~いっ! せっ! ん~~~~!!」」

「「あっはっはっはっはっはっは!!」」


まったく、サムと意気投合して・・・

ボス、マココ。上手いとこで止めてくれよ


真っ暗な吹雪の中、列車の中からは幸せな熱と声が、辺り一面に響いていた。







「それじゃあみんな、ありがとう!また会おうね!」


「ハルカちゃん、ズビッ・・・。風邪引くんじゃねえぞ・・・ズズッ・・・」


「サムッ、お前っ、なに泣いて・・・っ・・・」


「うっせー、お前も泣いてんじゃねーか・・・うぅ」


「なんだい2人とも、辛気臭いねえ。今生の別れでもないんだからさあ」


「「だってよ~・・・」」


「もう~2人とも~・・・」


楽しかったパーティーは終わりを迎え、いつの間にかマリヤナ山脈の向こう側に来てしまった。


列車のみんなが泣きながら私の門出を祝ってくれている。

コロニーを離れたときには無かった、先へ進むことを祝う声


私もつられて泣きそうになる。

でもここは、笑って旅立つんだ。

ちょっとお別れするだけだ。

あの塔に行った後、この3人と一緒に世界中を旅するんだ。


「ハルカ、準備できたぞ」


おじさんは1人で出発の準備をしてくれていた。


私の機体には整備されたパイルバンカーとマシンガン、おまけに予備弾倉が取り付けられていた。錆止め塗装もしてもらい、ブースターも新しいものに換わっていて、元の見すぼらしい機体はどこにもなかった。

私が寝ている最中に、ボスとマココさんが改修してくれていたそうだ。


もう感謝しきれないほどに、たくさんのものを貰ってしまった。



「じゃあ、みんな、バイバ・・・っうわあ!?」


突然体が宙を舞ったかと思えば、ボスに抱きしめられていた。


「ボ、ボス~、く、苦し」


「あたしの名前」


「?」


ボスが耳元で囁く。

それは私が小さいころに聞いたおばあちゃんの子守歌のように、優しい声だった。


「ハル・ブロッサム」


「ハル・・・?」


「ハル・ブロッサム。あんたと同じ名前さね」


「ボス・・・!」


「怪我すんじゃないよ」


「・・・うん!」


「ああー、ボスずりー」


「おだまり、サム。マココ、サムを運転席に連れていきな。行先は、ハルカちゃんの生まれ故郷だよ!」


「・・・はいっ! ボス」




「みんなーーー!!! バイバーーーイ!!! 元気でねーーーー!!!」


機体の腕を大きく振り、ハルカのコロニーに向けて出発した列車へと別れを告げる。

防護服無しで手を振るボスと、運転席から乗り出して手を振る2人の影が遠ざかっていく。


太陽の樹の光は、いつにもまして明るく大地を照らしてくれていた。


まるで私たちを祝福してくれているかのように。




「ハルカ、番犬を倒す作戦なんだが--」


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