~外伝~オリーブの武者修行その1
「どうも、【無双】エイトと申します。」
御主人様が自己紹介をすると、インダッテの村人達から大歓声が上がり熱心に御主人様の背中に向けてお祈りを捧げられる。
オリーブがお立ち台の上でメイサの『魅了の魔眼』の効果に惚れ惚れとしていると村長から声をかけられる。
「オリーブ様この度はありがとうございました!」
「エイト様は多忙のため一言だけで、申し訳ありません。」
「十分です!こちらこそ何もない村で碌も歓待も出来ず申し訳ありません!」
「では、これから迷宮ダンジョンを探索に訪れる方が増えると思いますので宜しくお願いします。」
「貧乏な村で・・・施設が何もありませぬな・・・」
「では宜しければですが、ゼントラムのヨハン商会でエイト様の名を出せば、手助けをしてくれるかと愚考致します。」
「なんと・・・ではすぐに人を送りましょう!」
「では私もこれにて失礼致します。」
「はい!お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
熱心に手を合わせる村人達に見送られながらオリーブがラプター車を操って村から出発し、地図を確認しながら車を走らせて行く。
「やはり御主人様がいないと、粗末になってしまいますね・・・」
オリーブが保存食を調理して晩御飯を食べるが、思わず1人ごちってしまう。
「そこの隠れている方?御主人様達はウンテントラムですよ。」
「・・・」
「私は別行動ですので、しばらくは合流しませんよ?」
「・・・」
「それでいいのです、御主人様の下へ行きなさい。」
オリーブが暗闇に潜んでいた、ハオに向かって喋り、気配が遠のいた事を確認してテントで眠りにつく。
翌日夜明け前に出発して昼前にダンジョンの集落へと到着したオリーブは、車を集落に預けてダンジョンの入口の受付にギルドカードを提出する
「嬢ちゃんAランクダンジョンだぞ?」
「存じてます。」
「Cランクでしかも1人は入れられねぇな?」
「なぜでしょう?」
「死にに行くようなもんじゃねぇか、俺は許可出来ねぇな!」
「ではどうすれば入れるでしょうか?」
「Aランクになってからまた来な?」
「ランクなど気にしてませんでしたが、とんだ弊害がですね。」
「かわいい嬢ちゃんが死ぬのは嫌だからな・・・」
「では受付のないダンジョンに行きましょうか。」
「嬢ちゃんは自殺志願者か?」
「手っ取り早くレベルを上げたいだけです。」
「なら・・・ちょっと待ってろ!」
受付の男がそう言ってどこかへ行き、オリーブが待っていると冒険者を引き連れて戻ってくる。
「ひゅうっ!上玉じゃんか!?」
「レイザー?こりゃ是非ご一緒させてもらわないとな?」
「これはどういう事でしょうか?」
「Aランク冒険者のレイザーとマックスだ!こいつらと臨時パーティを組むなら入場を許可する!」
「レイザーだ!かわい子ちゃんよろしくな?」
「マックスだ!全力で君を守るぜ!」
「・・・背に腹は代えられませんね。よろしくお願いします。」
マックスとレイザーが手を差し出しオリーブが悔しそうに2人と握手をする
「そこまで行けないだろうが全20階層で、16階層より下で猿の鳴き声が聞こえたら逃げるんだぞ?」
「猿ですか?」
「ユニークモンスターでカイザーモンキーって魔物が猿の大群を引き連れてるから出合ったら死ぬから気をつけろよ?」
「それは楽しみですね。」
「嬢ちゃん・・・その猿達のせいでこのダンジョンはSランク認定されてもおかしくないんだぞ・・・」
「なぜSランク認定されてないのでしょうか?」
「それ以外の魔物は大半がCかBばかりだからな。」
「では明日中に踏破して帰って参りますね?」
「はっはっ!死なずに戻ってくればそれでいいぞ?」
「では行って参ります。」
「2人共気張れよ!?」
「「任せとけ!」」
オリーブと2人の冒険者がダンジョンへと入って行く。
「ほう?洞窟型のダンジョンですね。」
「16階層からはジャングル型になるがな?」
「ねぇ?オリーブちゃんはなんで冒険者してるの?」
「あなた方はもう大丈夫と言っても付いて来るのでしょうね?」
「当たり前だろ?危険なダンジョンで美人をほっとけるかって!」
「でかい斧だな・・・」
「では、レベルアップをしたいので手出しは無用です。」
オリーブがマジックバッグから愛用の斧を取り出して、走り出す。
「早っ!?そんな急いだら魔物に鉢合わせになって危ないぞ!」
「なんであんなでかい斧を持って走れるんだ?」
後ろから何か言われるがオリーブは気にせずすれ違う魔物を斬り、時には叩き潰しながら、ダンジョンを駆け抜けて行く。
「素材無視かよ・・・」
「それよりも走りっぱなしだ・・・もう10階層だぞ?」
「確かにただ走ってる俺達でもきついのに、あの子はでかい斧を振り回しながらだもんな?」
「可愛い顔して化物だな・・・」
「階段だ・・・やっと止まったな?」
「マジックバッグから何か取り出してるな?」
「あなた方もご飯を食べますね?」
「作ってくれるのか?ありがてぇ!」
「つっても、干し肉とパンだろ?」
「そんな粗末な物を食べていては私が御主人様に怒られてしまいます。」
オリーブがマジックバッグから保存食を取り出し、質素ではあるが普通の冒険者では考えられないほどに具沢山なスープとチーズを乗せた焼いたパンを差し出す。
「マジかよスープが美味すぎだろ・・・」
「普段の食事より豪華じゃねぇか・・・」
「あなた方は普段どういう食生活をしているのでしょうか?」
2人の言葉に驚き思わず聞いてしまうオリーブ。
「オリーブちゃんは何モンなんだ?」
「ただの可愛いメイドじゃない事は確かだな?」
「普通の御主人様からお時間を頂いた武者修行中のメイドです。」
「普通のメイドが武者修行するかよ・・・」
「オリバーそこじゃない・・・いやそこか?わからん。」
「ではここからは素材を拾いながら16階層手前まで行きましょう。」
「本当に踏破するつもりなんだな。」
「カイザーモンキーに出会わない事を願うばかりだな。」
「え?出会うまで探すに決まってますが?」
「オリーブちゃん・・・それは無理だよ・・・」
「出会った時は申し訳ないが脇目も振らずに逃げるからな?」
「ここで脇目も振らずに引き返して頂いても構いません。」
食事を終えた、オリーブが調理器具をマジックバッグに仕舞い階段を降り始める。
「ここで引き返しちゃ寝覚めが悪いよな?」
「オリーブちゃんみたいな美人が死んだら世界の損失だぜ!」
「ふむ・・・魔物は相変わらずクレイジーエイプですか。」
目の前に広場があり、その中にクレイジーエイプの群れがたむろっていた
「いや・・・エルダーモンキーがいるぞ?」
「1匹だけ大きい猿ですね?」
「帰ろう!あんな群れAランク討伐どころじゃない!」
「そうだ!ぱっと見30匹はいるぞ!」
「Cランクの魔物など物の数ではありません。」
オリーブが斧を構えて、平然と広場へ歩を進める。
「おい!エルダーモンキーはAランクだぞ!?」
「もう遅い!気付かれた!」
オリーブ達に気付いたエルダーモンキーに統率されたクレイジーエイプ達が一斉にオリーブに襲い掛かるが、オリーブがスチームエクスプロージョンを起こして蹴散らし、そのままの勢いで魔物達を光の粒子へと変えて行く。
「おい!オリーブちゃんが爆発したぞ!」
「どうなってんだよ!行くか?」
「・・・俺達が行っても死ぬだけだ・・・悔しいが・・・」
「なぁ?猿の鳴き声が消えてないか?」
スチームエクスプロージョンで舞い上がった土煙が晴れると、広場の中に素材を拾うオリーブの姿が現れる。
「マジか・・・」
「あの子本当にCランクか?」
素材を拾い終えたオリーブが驚愕するレイザーとマックスを一瞥して、走り出す。
「おい!驚くのは後だ行くぞ!」
「そ、そうだな。」
2人がオリーブを見失わないように必死に走る。
「予定通り進めましたね。」
「おかしい・・・俺達Aランクだぞ・・・」
「なんで着いて行くだけで精一杯なんだよ・・・」
涼しい顔をしたオリーブが15階層の下り階段の前で晩御飯を作り始め、汗びっしょりのレイザーとマックスが肩で息をしながら地面に座り込む。
「どうぞ。」
オリーブが2人にサンドイッチとスープの入った皿を渡す。
「美味すぎる・・・」
「こんな物食べた事ねぇ・・・」
「宜しければこちらもどうぞ。」
「なんでダンジョンで熱々の紅茶が出て来るんだ?」
「しかもミルクティーだぞ?牛乳傷んでないのか?」
「食事中です、静かに出来ませんか?」
「すまない、美味しすぎて・・・オリーブちゃんの御主人様は幸せ者だな?」
「料理は美味いし、強いしオリーブの御主人様が羨ましいぜ。」
「私など、御主人様の料理の腕も、戦闘も足元にも及びません。」
「何者だよ御主人様・・・」
「オリーブちゃんより強いって信じられねぇ・・・」
「今回も一緒に旅をする奥様が御懐妊なさったので、足を引っ張らないように武者修行を申し出ましたから。」
「オリーブちゃんで足を引っ張る?冗談だろ?」
「何者だよ御主人様・・・」
「では明日に備えて寝ましょう、失礼します。」
食事を終えたオリーブがテントの中に入り眠りにつく。
「おい?夜這いしてみるか?」
「冗談だろ?返り討ちにあうぞ。」
「そうだよな・・・」
「さっさと寝ないと、明日は更に全力疾走で逃げるかもしれないぞ?」
「そうか・・・オリーブちゃん本気でカイザーモンキーを探すのかな?」
「今日一日で冗談を言う子じゃないことはわかった。」
「そうだな・・・」
「おやすみ。」
レイザーとマックスも眠りにつく。
「6時ですか・・・」
オリーブが目を覚まし時計を確認して、寝ている2人の隣で料理を始める。
「「オリーブちゃんおはよう。」」
「おはようございます。」
「いい匂いだなぁ!」
「美人の作る美味しい匂いで目覚める・・・ダンジョン内じゃなけりゃ最高なのにな。」
「どうぞ。」
オリーブの作った朝食を3人で食べ終わり、オリーブが淡淡と片付けを終えて階段を降りる。
「ジャングルですね。」
「そうだ!死角が多いいから気をつけろよ?」
「おい?猿の声が聞こえないか?」
「ふむ、こちらから聞こえますね。」
「本当に探すのか・・・」
「オリーブちゃん?自殺行為だよ?」
「あなた方は手を出さないで下さい。」
「手を出せないよ!」
「そうだ!Sランク討伐だぞ!?」
「という事は一気にレベルアップですね。」
猿の大群を見つけたオリーブが斧を構えて群れの真ん中に突っ込んで、スチームエクスプロージョンを連発する。
「俺は何を見てるんだ?」
「エルダーモンキーの群れが吹っ飛んで行く・・・」
「今オリーブちゃんが真っ二つにしたのカイザーモンキーじゃなかったか?」
「あの白い毛にでかい2mの巨体、間違いないカイザーモンキーだった。」
「だよな?エルダーモンキー達の統率が乱れてるもんな?」
「おい!一匹こっちに来るぞ!」
「ちっ!迎え撃とう!」
「おうよ!」
2人に向かって来る、群れからはぐれたエルダーモンキーとの戦いが始まる。
「何をしているのですか?」
オリーブが素材を拾い終えて、2人の所に行くと地面に倒れこんで肩で息をしていた。
「エルダーモンキーと戦ってた・・・」
「一体だけで、大苦戦だ・・・」
「ではこの素材はあなた方の物ですね。」
「そういう意味じゃないんだけど・・・」
「オリーブちゃんは簡単に倒してるけど、エルダーモンキー速すぎ・・・」
「では最下層目指しましょう。」
数時間後、汚れ1つ付いて無いメイド服のオリーブと体中が土と傷にまみれたレイザーとマックスがダンジョンの入口の脇へと姿を現す。
「嬢ちゃん!本当に踏破して帰って来たのか!?」
「ええ、滞りなく。」
「マックスにレイザーも護衛ご苦労だったな?」
「護衛?俺達が守られてたよ・・・」
「この子Cランクっておかしいよ・・・」
「では御三方ありがとうございました。」
「何があったんだ?」
「15階層まで全力疾走で駆け抜けた。」
「その後カイザーモンキーを探しては討伐した。」
「何を言っとるんだ?」
オリーブがうやうやしくお辞儀をして、話している3人を無視して預けていた車を受け取りダンジョンの集落を出発する。
「予定を変更してダンジョン踏破報告をしてランクを上げましょう、ゼーシュタットへ行きますよ?」
オリーブとお揃いの外套に身を包んだラプターに言い、車を進めて行く。
「どうも、こちらの踏破コインをお願いしたいのですが?」
「かしこまりました!オリーブ・・・様ですね?こちらへどうぞ!」
ゼーシュタットに着いて冒険者ギルドに先日踏破したダンジョンの踏破コインを提出すると、受付嬢が何かに気付いてギルドマスターの部屋へと案内され、ソファに腰かけると向かいに座る中年の男性が話してくる。
「ようこそおいでくださいました、私ゼーシュタット支部ギルドマスターのガステンと申します!」
「どうも、ロキマ国冒険者オリーブと申します。」
「存じております!こちらがあなたのギルドカードで御座います!」
ガステンからギルドカードを受け取り、目を見開くオリーブ
「私がSランクですか?」
「はい!ガーム殿より連絡を頂いておりますでな?」
「二つ名はどうなってますか?」
「【斧姫】オリーブ殿となっております。」
「そうですか。」
「あわせてこちらが素材の買取代金となります。」
ガステンがギルドカードとお金の入った皮袋を机の上に置く。
「金貨6枚と銀貨50枚でございます。」
「ありがとうございます。」
「やはりカイザーモンキーなどの素材はお売り頂けませんか?」
「貴重な素材なようなので御主人様へのお土産にします。」
「残念ですな・・・」
「では私はこれにて失礼致します。」
「是非またお越し下さい!」
「はい。」
オリーブがギルドを後にして、前回訪れた時は閑散としていた市場に行き、干物などの保存食を中心に食料を買って宿に戻る。
「さて・・・明日は魔の森近くのSランクダンジョンへ行って見ますか。」
オリーブが宿の食堂で晩御飯を食べながら、机に地図を広げ思案する。
「オリーブじゃねぇか!なんでこんな所にいるんだ?」
「ベックさんお久しぶりです。」
「そういえば拠点でオリーブさんがいなくて不思議だったんですよねぇ?」
「皆様お久しぶりです。」
ドラゴンアイズのメンバーが食堂へ入って来て、自然な流れでオリーブの座る机にみんなが座る。
「で?オリーブは別行動して何してんだ?」
「少々力不足を感じたので、レベリングを兼ねた武者修行です。」
「ほほぅ?ならダンジョンに行くのか?」
「そう思って、今地図を見ながら思案していました。」
「ここら辺にAランクダンジョンがあるって聞いたっすよ?」
「そこは先日踏破致しました。」
リュートが先日踏破した、猿のダンジョンの場所を指差す。
「ならぁここら辺にSランクダンジョンがあるはずですよぅ?」
「おい!オリーブ1人でSランクダンジョンは危ないだろ!?」
「リーダー?私達も一緒に行けばSランクに近づくんじゃなぁい?」
「む?それはいい案だな・・・」
「なぜ私が同行を許すと?」
「Aランクがいないとダンジョンに入れないだろう?」
「改めて自己紹介を私【斧姫】オリーブと申します。」
ベックがニヤリと笑って言い、オリーブもニヤリと笑って二つ名を言う。
「オリーブまでSランクかよ・・・」
「あたし達がSランクになった方がエイトさんも都合がいいと思うんですよねぇ?」
「それは・・・確かにそうですね。」
「じゃあ決定ですよぉ!」
「では明日の朝一番に出発しますので、よろしくお願いします。」
「は、早すぎませんかぁ?」
「俺達今街に着いたんだが・・・」
「来なくても問題無いのでお任せします。」
オリーブが優雅にお辞儀をして、部屋へと戻り武具の手入れをしてベッドに入る。




