4...WIZARDWARE
暗闇にジジジという機械音が響いている。数人の男たちが周囲に群がっていた。
「おっ、サーバーのプログラムが制止点で止まってますねぇ」
「……神野さん、本当ですか?」
「宮沢さん、信用してくださいよ~。プレイテスト中の『WIZARDWARE』がクリアされたんです。アキムとティータが影の王を倒したんですよ! 先ほど一瞬処理が重くなったようですが、今度は確かです」
「そりゃすごい! 倉プロデューサーの話では、まだ魔法合成を禁止したままだから、ゲームクリアできないはずだったんだがな……。おい、竜田君! ログのバックアップをとってくれ」
「……宮沢さん、何か用っスか?」
「サーバーの状況を常に確認するように言っておいただろう。ゲームクリアだ。自分の仕事に対してもっと責任を持ってくれよ」
「え、本当っスか? あ……すみません。すぐにバックアップとります」
「……やれやれ、神野さん。もう少し厳しく教育しないとだめだな」
「面目ないです。竜田……リューゾーにはきつく言っておくんで勘弁してやってください」
「頼むよ、ホントに。……それにしても新作ゲーム初のクリアは感慨深いな」
「今までベータテストで5回挑戦して、5回ともゲーム世界は影の王に蹂躙されて滅亡していますからねぇ。人工知能を搭載したゲームキャラクターが、独自の思考で行動して敵に挑む画期的なゲームですから素直に感心します。今回は宮沢さんの作ったキャラクターで挑戦したんでしたっけ?」
「そうなんだよ神野さん、プレイヤーが唯一介入できるのは主人公キャラクターを作成してゲーム世界に放り込むだけだから、思い切って一風変わったパラメーターを設定したんだよ」
「どんな割り振りですか?」
「男主人公は知力と好奇心だけを極限まで高くした。他の能力は最低のままだな。女主人公は弱点を失くしたうえで、容姿と魔法力が高くなるよう配分したんだ」
「へぇ、それじゃあ、アキムの方は完全な研究者タイプですねぇ。コミュニケーション能力やカリスマ性も全く割り振りなしとは人生破滅型だなぁ」
「ははは……。じゃ、私は各サーバーの定期チェックをしてくるんで後よろしく」
「宮沢さん、了解です」
「……神野さん、ちょっといいっスか? 僕をモデルにしたNPCキャラクターは活躍したんスか?」
「……ん? え~と、終了データを見る限り、生き残ったのは主要キャラクターでアキムとティータだけ。他はデスティンもレッドベースも戦死。リューゾーも残念ながら戦死だなぁ」
「今回からすごく高い能力にしたんスよね?」
「……うん、そりゃ~もう、魔法研究所で期待の新星と呼ばれる能力にしてある。プレイヤーが投入したキャラクターの活躍ぶりをログデータで保存し、携帯端末のアプリからゆっくり鑑賞できるようにしたのが『WIZARDWARE』というゲームの醍醐味だからなぁ。美麗な演出で楽しめるよ」
「前回までひどい脇役だっただけに残念っス。同じ能力で次回に期待ですね……」
「そういうことになるねぇ……あははははは」
「……まずいな」
「宮沢さん、どうしました?」
「オフィス内の代理サーバーなんだが、ホームページの履歴がたくさんたまっていて、要求送信元を確認すると『WIZARDWARE』のゲームサーバーなんだよ。無人の機械がホームページにアクセスしたことになるな」
「えーと、ウイルスの仕業ですかねぇ?」
「それはないだろう。閲覧先ホームページの内容は『C言語のデータ構造』に関するものと『ネット百科事典』だけだからな。感染者に勉強させようとするウイルスなんて聞いたことがない」
「倉プロデューサーには連絡しておきますか?」
「やめておこう。リリース前に取り乱すとたいへんだ。発売前のクリアリプレイを文章媒体にしてネットで公開するとか、書籍で売り出すとか意気込んでいるくらいだからな。プログラマーの誰かが閲覧した痕跡と判断する」
「……ログを小説みたいにするんですか? アプリだけじゃないんですねぇ。プロデューサーも商魂たくましいなぁ」
「けれどゲームの製作日程がシビアなんだよ。倉さんからは世界観をできるだけリアルに作るよう指示されている。次から世界設定で犯罪の発生もオンになる。太陽と星の運動についてはベータテストにも関わらず製作中だ」
「倉プロデューサーは、天体の年周運動まで再現するように言ってましたねぇ」
「気づくユーザーはいないと思うんだけどな。作業自体は難しくないんだが、新たにプログラムを追加した時に目を覚ますかもしれない水面下のバグが怖い」
「あはは……わかりますよ」
「――ヨシっと……。神野さん、バックアップ終了OKっス」
「リューゾー、ご苦労さーん。じゃあ、制止点を外してプログラムを再び動かしまーす」
ジジジジ……。機械音のひとつに止まっていた新しい音色が加わった。




