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王を呑んだ

 凡庸で窮屈な毎日なんて、いったい誰が望むってんだ?


 農奴という身分が、俺を土地に縛りつけていた。これじゃあ荘園に棲みついたニンフも同然だ。俺たちは、ほかの家族と一緒に畑を耕して暮らしている。自由な時間など一切ない過酷な四日間を乗り越えて、ようやくこの素晴らしい三日間の恵みにありつけるのだ。


 なのに、この週末も、俺はまた鎌を振るっていた。


 まったく、うちの仕事中毒どもときたら! 六日も働きたがるやつがいるなんて信じられない! 自由を愛する心ってもんがないのか!? 趣味のひとつでも持てよ!


「ったく! よく働き、よく遊べ……のはずが、なぜか遊びが仕事に混ざっちまった!」


 このタコだらけの手は、愛しの剣を振るう時を待っている。とっとと、しかもきっちり片づけなきゃな!


 俺たちは向こうの農園の収穫を代わりにやり、そこの働き手たちは自由時間を満喫していた。連中はテラスで、男爵の娘であるお嬢様と軽口を叩き合っている。お嬢様は長い出張から戻ったばかりだ。


「お前らのおかげで仕事が楽で助かるよ!」と連中が声をかけてくる。


 おかげで筋肉はしっかりついたから、大した文句はない……わけあるか! 鍛えられようがどうだろうが、俺は楽しい時にこそ本領を発揮するんだよ!


 俺たち農奴の多くにとって、理想は農民の身分から抜け出し、領主の屋敷に仕える使用人になるか、さもなくば新王国の騎士になることだった。職を変えれば、自由が与えられる。この土の枷も水で薄められ、跳ね回って遊べる楽しい泥んこになるってわけだ。


 もちろん、抜け道もあった。領主の娘の口から、小鳥のさえずりのようなくすくす笑いがこぼれる。その首飾りには、巨大なエメラルドが下がっていた。


「一束取り残してるぞ!」日陰から、この農園の頭が怒鳴った。


 友達、ねえ? 俺は隣で大麦の畝を刈っている相棒の様子を見てやった。


「おい、腰帯がほつれてるぞ」

「うわっ! 気づかなかった!」

「任せとけ!」


 俺は帯を繕って、あいつの姿勢を正してやった。非の打ちどころのない手入れがものを言うのは、鎌だけじゃない。


「おお、ありがとな、コリン! お前、こういうのも得意なのか?」

「お嬢様に教わったんだ」


 いい歯車でいるのは気持ちがいい。歯車は進歩を生む。その進歩のおかげで、俺は惚れ惚れするほど見事に鍛えられたこの刃を振り回しても、自分を傷つけずに済む。


 だが、いい歯車が革新を生んだためしはない。


 革新が欲しいなら、危険を冒さなければならない。自分の持ち場からはみ出さなければならない。それは歯車が新しい機械となり、新しいからくりを生み出すための旅なのだ。


 俺は役に立ちたかった。いい歯車よりも、もっと役に立つ存在に。もっと胸を躍らせたくて、この子供みたいな好奇心を持ち続けたくて、俺が見据えていたのは、自由だった。俺は俺のやり方でやる。それは正しい(・・・)やり方じゃない。でも、それでいい。


 ほかのやつらは、間違いなく間違った(・・・・)やり方をしていた。


 いわゆる友達連中は、下心丸出しでお嬢様に言い寄っていた。隙あらば隣に陣取り、お呼びがかかればいつでも駆けつけられるよう控えている。だが誰も知らなかった。お嬢様と俺もまた、下心たっぷりに戯れていたことを。遠くから、勤勉さを見せつけ合いながら。


 本来なら政敵に向けられるべきお嬢様の目は、代わりに俺へと向けられていた。夜、二人きりの部屋で扉に鍵がかかるまでは、その熱を鎮めてやることもできない俺に。


 距離は、好奇心を生む。


 好奇心は、子作りを生む。


 月が昇ったあと、俺には選択肢があった。外から見れば、何でもないような選択が。


 宿舎にとどまって休む。朝までいい歯車でいる。


 あるいは、今の状況を百も承知のうえで、お嬢様の部屋まで歩いていく。男爵が娘のベッドに農奴を見つけようものなら、終身刑は免れないとわかっていながら。


 俺は行った。


 二人だけの小さな秘密のはずだった。だが、お嬢様は狂おしいほど恋に落ちていた。うちの農園の仕事仲間たちが、残業に恋しているのと同じくらいに。


 人目を忍ぶ関係は順調だった。だから、まさか惨劇ひとつで、俺の自由への道が大きく狂うことになるとは思いもしなかった。


 俺とお嬢様の関係を嗅ぎつけた友達連中は、ひどく妬み、欲に駆られた。おまけに、獣じみた保身の本能まで働いた。娘と農奴の密やかな逢瀬が男爵の耳に入ったところで、それで男爵の価値観に新しい風が吹く、なんてことはまずありえない。追い詰められた彼らは家宝を盗んで逃げ出した。お嬢様の宝、吸血鬼王のエメラルドまで持ち出して。


 連中が屋敷の外周を越えるより早く、その悪意に反応して宝石の呪いが発動した。


 眠る時間をずらさなければならなかった俺は、夜遅くに厩舎のそばで道具を磨いていた。悲鳴が上がったのは、その時だった。


 声帯が引き裂かれていくような声を聞きながら、俺は屋敷の中庭へと駆けた。農作業用の鎌を、両手でしっかりと握りしめて。


 星明かりの下で目にしたものに、俺の血は凍りついた。


 古の悪が、かつての友人たちを恐怖に陥れていた。肉体がへし折れていく臭いが、鼻腔を蝕む。骨が砕けては伸び、屋敷の働き手たちは苦痛に吠えながら、巨大でおぞましい悪鬼へと変わっていく。その下顎は半メートルも外れて垂れ下がり、毒の涎を滴らせていた。


 ときには化け物みたいなやつらだったかもしれない。だが、誰ひとりこんな目に遭う謂れはなかった。


 耳をつんざく咆哮とともに、農園の頭だったものが巨大な鉤爪を振り下ろし、俺の鎌を木っ端微塵に砕いた。痛みを感じたその瞬間に、追撃が来た。蹴りが入り、長い爪が臓腑にねじ込まれる。咳と一緒に肺から汁がごぼりと噴き出し、俺の身体は石畳の上を跳ね転がった。


 信じられなかった。俺はここで死ぬ。その事実が、身体の隅々にまで叩き込まれ、釘のように打ちつけられていく。『激痛』という名の巨大な杭が、あらゆる角度から俺を貫いていた。


 迫りくる未来に抗ったが、無駄だった。まったく、クソの役にも立たなかった!


 化け物どもは強すぎた。


 こんな終わり方はごめんだ! 死は自由なんかじゃない!

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