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元傭兵のおっさん。追放された悪役令嬢に転生したので、もっと悪逆非道に生きてみた~物語は語られない所でも動いている~  作者: ななよん
一章 成長編

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第三十八話 金策 ※第一章完

※第一章完・次回第二章39話の更新は25日AM4:00を予定しております。

挿絵(By みてみん)

 翌日から、俺はギルドの依頼票と睨めっこしていた。


 必要なのは金貨800枚。あの魔導書を買うための額だ。取り置きはしてもらったから、今すぐ誰かに買われる心配はない。……ないのだが、800枚。改めて数えてみると、とんでもない額だった。


「ミラ。もっと高いのない?」


「さっきから高い順に出してますよぉ……」


 受付の向こうで、ミラが困った顔をする。


「今ある中だと、これですね。高山地帯での薬草採取、その護衛。報酬は金貨10枚です」


「10枚」


 悪くない。そう思って依頼票に手を伸ばすと、ミラがさっとそれを引っ込めた。


「ただし、パーティ推奨です」


「……何人?」


「五人ですね」


「一人2枚じゃない」


「そうなりますね」


 思わず天井を見上げた。金貨2枚は、前世の感覚なら二万円くらいか。数日走り回って二万円。冒険者の日銭と考えれば、そう悪い額でもない。だが俺が欲しいのは800枚だ。これを四百回。……冗談じゃない。


「あの、ヴィヴィさん」


「ん?」


 ミラが、じっと俺を見ていた。


「そんなにお金を集めて、何をするつもりなんです?」


「魔法を買うのよ」


「魔法?」


「ちょっと高いの」


「おいくらです?」


「800枚よ」


「…………」


 ミラの顔が固まった。


「金貨で?」


「他に何があるのよ」


「ちょっとじゃないですよぉ!」


 身を乗り出してくる。


「まさか、そのために危ない依頼を一人で受けようとか、考えてませんよね?」


 昔は子猫みたいで可愛かった、と酒場の連中から聞いたことがある。嘘だろう。今のこいつは、どう見てもサーベルタイガーだ。


「考えてないって」


「今、目を逸らしましたよね?」


「逸らしてない」


「逸らしました!」


 面倒になって、受付から逃げた。



             ◆



 受付で埒が明かないなら、その上を当たるまでだ。ギルドマスターの部屋を覗くと、ダンが今日も書類の山に埋もれていて、その横ではクリスが眼鏡を光らせていた。


「ダン、ちょっといい?」


「あん?」


「一発で金貨800枚くらい稼げる仕事、知らない?」


 ダンが顔を上げ、数秒黙って――それから笑った。


「はっ! あったら俺がやってらぁ!」


「無いの?」


「あるわけねぇだろ!」


 即答だった。


「前の要人護衛は金貨80枚だったじゃない」


「あれを基準にすんな。七日拘束だぞ? 日当10枚で七十、そこに危険手当が10枚乗って80だ。あんな依頼、そうそう転がってくると思うか」


「十回やれば800枚ね」


「だから無ぇっつってんだろ!」


 横で、クリスが口を挟んだ。


「通常の依頼で一人頭2枚と仮定すると、四百回ですね」


「ミラにも言われたわ」


「一日一件として、四百日。休息日や移動日、依頼の有無まで考慮すれば――」


「やめて。聞きたくない」


「まだ計算の途中ですが」


「余計に聞きたくない」


 こいつは相変わらず、人が嫌がる数字だけは正確に出してくる。


 ダンが、椅子の背にもたれた。


「諦めて地道に貯めろ。何年かかるか知らんが、そのうち貯まる」


 何年、か。その言葉だけで嫌になった。取り置きしてある以上、魔導書は逃げない。逃げないが、俺の方が待てなかった。目の前に強くなる手段がぶら下がっているのに、何年も肉も食えず指をくわえて眺めていろというのか。……無理な相談だ。



             ◆



 とはいえ、金が空から降ってくるわけでもない。それから二週間、俺はひたすら働いた。朝いちばんにギルドへ顔を出して割のいい依頼を取り、終わればすぐ次を受ける。薬草を採り、隊商に付き添い、下水道の魔物を駆除して回った。日が暮れれば宿に戻って泥のように眠り、翌朝にはまたギルドへ足を向ける。


 途中、腕を見込まれてか、上級パーティから声もかかった。上級の依頼だし、これは稼げるかと思ったが――終わってみれば、俺の取り分は金貨5枚。危険だけは、立派に増えていた。


「……割に合わないわね」


 そして二週間後。宿の机に財布をひっくり返して、中身を全部数えた。金貨31枚と、銀貨8枚。もう一度数え直しても、増えはしなかった。


 前世でいえば、三十一万八千円ほど。二週間でこれだけ稼いだと思えば大したものだが、こっちは命を張っている。しかも、この間にポーションを買い足したし、刃の欠けた剣は研ぎに出した。宿代も飯代も、その日その日で出ていく。それを全部引いた後に残ったのが、この金額だ。傭兵をやっていた頃から、金は稼いだ額じゃなく、最後にいくら残ったかで勘定した方がいい。冒険者という商売は、思っていた以上に薄利だった。


 財布の中身を睨みながら、頭の中で先を計算する。このペースなら、八百万まで二十週以上。しかも今週の稼ぎは、割のいい依頼を俺が片っ端から取った結果だ。来週も同じだけ受けられる保証は、どこにもない。


「このままじゃ、無理ね」


 財布を閉じた。まともに働いて800枚。やってられん。


 となれば――。


「ダンジョンか」


 考えは、自然とそこへ行き着いた。深い階層まで潜れば、珍しい魔導具や素材が出る。一つで金貨数百枚、運が良ければそれ以上に化ける事もある。もちろん、何も持たずに帰る奴もいるし、そもそも帰ってこない奴もいる。危ない橋だ。だが、何年もちまちまと稼ぐより、よほど現実的に思えた。

 前世で賭け事に手を出す奴らも、こんな気持ちだったのか?と思った。



             ◆



 依頼ボードの前で、どのダンジョンに潜るかを考えていた時だった。


「なんだい、辛気くさい顔して」


 聞き慣れた声がした。振り返ると、グランティアが立っている。トラペジアの代表で、俺の元雇い主だ。


「何をそんなに悩んでるんだい?」


「金よ、お金」


「身も蓋もないねぇ。いくらだい?」


「800枚」


「銀貨?」


「金貨」


 グランティアの眉が、ぴくりと上がった。


「……何を買う気だい」


「欲しい魔法があるのよ」


「ああ」


 それだけで納得された。


「クリスが言ってたやつかい。思考加速だったか」


「知ってるの?」


「あたしを誰だと思ってるんだい」


 そう言って笑う。まったく、この女には隠し事ができる気がしない。


「で、金貨800枚欲しいのかい」


「そういうこと」


「なるほどねぇ」


 グランティアが腕を組んだ。しばらく俺の顔を眺めていたが、ふと、その笑い方が悪い方へ変わった。


「なら、いい仕事があるよ」


「いい仕事?」


「ああ」


 一歩、こちらへ寄る。


「先に言っとくけど、楽じゃないよ」


「楽したい訳じゃないわ」


「危ないよ」


「今さらね」


「それに――」


 そこで一度、言葉を切った。


「礼を言われるような仕事でもない」


 俺はグランティアを見た。金になって、危険で、その上、感謝もされない。ろくでもない匂いしかしない仕事だ。


「で?」


 続きを促す。グランティアが笑った。


「金貨800枚」


「――」


「それだけじゃないよ。今のあんたなら、たぶん、いい修行にもなる」


 金と、強さ。欲しいものを二つ並べられて、断る理由が見つからない。


「聞かせて」


 俺がそう言うと、グランティアは満足そうに口の端を吊り上げた。


「そうこなくっちゃね」



             ◆



 金貨800枚。


 ようやく、そこへ続く道が見えた。


 少々ろくでもない道らしいが――まあいい。


 まともに稼いで四百回クエストをやるよりは、よっぽどマシだ。


 私はグランティアの後を追った。


38話・了

第一章・完

※第一章完・次回第二章第一話(39話)の更新は8月25日AM4:00を予定しております


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