王子編 ①
「見よ、ラピス! この眩いばかりの輝きを!これが我が王国の血肉であり、絶対の真理だ!」
シャンデリアが眩しく照らす王城の絢爛な宝物庫で、第一王子マクシミリアンは両腕を大きく広げて高笑いした。
彼の背後には、天井まで届きそうな金貨の山と宝石箱が積み上げられている。そしてその半分は、僕が彼に雇われてからの三ヶ月間で稼ぎ出したものだった。『感情数値化』で感情の機微を読み取れる僕には、造作もないことだった。
「素晴らしいですね、マクシミリアン殿下。殿下の絶大なる財力と英断があってこその結果です」
「うむ、うむ! お前は余の最高の宝だ! 噂では落ちぶれたと聞く勇者も、賢者も、金さえあればああは成らなかったものを」
「全く、その通りよ…私のマクシー…」
豚のように肥え太った王子は、熱い吐息を吐く女性を傍らに侍らせ、満足げに金貨をジャラジャラと鳴らす。
【マクシミリアン:金欲 100、選民意識 100、アルスへの信頼 80】
彼の言う通りだ。この世界において、「富」というものは恐ろしい麻薬として人間に機能する。名誉や正義や命すらも、この丸い金属の前ではいとも簡単に裏返る。
「だが、ラピスよ」
王子は最高級のワインが入ったグラスを傾けながら、ふと不思議そうに僕を見た。
「お前はこれほどに優秀な頭脳を持ちながら、その瞳には何の欲もない。莫大な報酬をやっても、美しい女をあてがっても、ただ死んだ魚のように無感動だ。…お前は一体、何が欲しいのだ?」
「…」
僕は答えず、手元にあったワイングラスの水面に視線を落とした。赤い液体の表面に、無表情な僕の顔が映っている。そこに、密かに『感情数値化』を走らせた。
【アルス:金銭欲 0、自己肯定感 0、…】
僕の視界が、一瞬だけひどく不快な「ノイズ」に塗れた。
ワインの赤色が、あの日の色に重なって想起させる。
――『……不気味だ…怖い……』
――『……まるで、悪魔じゃないか…』
――『……やだ、近寄らないで……!』
まばたきを一つすると、不快なノイズは、チカチカと明滅して消え去った。
「…ラピス?」
「いえ、なんでもありません」
僕はワイングラスをテーブルに置き、作り物の愛想笑いを浮かべた。
「僕はただ、人間の心が『富』によってどう揺れ動くのか、それを観察するのが好きなのですよ。殿下のような強大で美しい人間が、金の力で世界を動かす姿を一番近くで見られることこそが、僕の無上の喜びです」
「はははっ! なるほど、お前は本当に変わった男だ!だからこそ信用できる!」
大笑いしながら僕の肩を叩くマクシミリアン。僕はその油ぎった顔を静かに見つめ返した。
「…殿下。実は今日、素晴らしい『投資先』を見つけました。世界を変えるほどの、革命的な資産です」
「なんだと!? エリナ、下がれ。…………さあ、申してみよ」
僕の提案に、肥え太った豚が嬉々として食いついた。
君のそのはち切れそうな強欲の腹を、極限まで膨らませて御覧に入れよう。弾け飛んだ中身が『何色』なのか…確かめてみよう。
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