魔王討伐4
目を覚ましたら、アランが私を抱きしめている。
黒光りする岩壁が目に映る。ああ、ここは魔の山だ。
魔法の光に照らされて、夜空のように岩壁が輝いている。
思い出した。魔王を倒した後なのだ。私は魔王の呪いを受けてしまった。もうすぐ死ぬんだろう。
「目を覚ましたのか!?」
彼は強い力で私を抱きしめている。その必死な顔を見ていると、どうして今更そんな顔をするのかと、私の中に悲しみがこみ上げる。
「な、なんで……」
「大丈夫か!?」
「なんでそんな顔をするの」
「……え?」
ずっと私を突き放していたのに、こんな時ばかり、私の心を惑わせるような顔をする。
「私のことなんて好きじゃないのに」
「何を……」
「アランは私のことなんて見てないのに!」
「…………」
「なんで……なんで」
「……『ライラ』?」
ぼろぼろと流れ落ちる涙を、彼の指がすくい上げていく。優しいその手つきは、まるで愛しい恋人に向けられているようだ。
「なんで優しくするの」
「『ライラ』」
「なんで……そんな声で私を呼ぶの」
切なさと愛しさが入り混じるような、優しい声が私の名前を響かせる。
「『俺』は『ライラ』が好きだよ」
「嘘……」
「傷付けてごめん。俺が悪かったんだ。分からなかったんだ。人を好きになることも、愛することも、分からないから、遠ざけようとしたんだよ」
「……嘘」
ぼろぼろ、涙が止まらない。
アランが私を強く抱きしめて、頭を撫でた。
「ごめん。ライラ」
「嘘よ……」
彼の胸に顔を押し当てて、彼の温かさを感じながら泣いてしまう。
「仲間たちみんなに言われた。無垢な子供をもてあそぶ気なのか、と。俺にだって良心はあった。ライラはあまりにまだ子供だった。俺が手を出せるような相手じゃない。だから、側に居させてはいけないと、最初は思った。離れれば終わりに出来ると思った。だけど違った。君が欲しいと思った。離れるほどその思いが強くなった。どうしてそう望むのかも分からないのに……分からないものが分かりたいと思うようになった」
仲間たちが私のことを心配してくれていたのを知ってる。
彼らは私にも助言をしてくれていた。アランに普通の人の情を求めてもダメなのだと。ライラには合わないと。彼らはアランにも助言していたのか。
「みんな心配してくれてたね」
「そうだ。彼らは間違っていない。間違ってたのは俺だ」
アランは私をまっすぐに見つめて言った。
「その時には分からなかった。だけど、今なら分かる。純粋な笑顔を俺に向け続けてくれたライラに、俺は最初から恋をしていた。そうして旅を重ねて気が付いた。俺は、ライラを、愛していると」
彼の腕を握り締めて、本当に?と聞くと、ああ、と返事をくれる。
「アランが好きだったの」
「……うん」
「初恋だったの」
「うん」
「なのに……悲しかった」
「分かってる。俺が傷付けたんだ。ごめん」
うわぁん、と声を上げて泣いてしまう。
彼にしがみついて、恥じらいもなく、思いきり泣く。彼はそんな私を許してくれる。
「好きだよ。ライラ」
何度も何度も彼は繰り返す。
涙が次から次へとあふれ出て止まらない。
「アランの馬鹿!馬鹿!」
「そうだよ。馬鹿だったんだよ」
好きだった気持ちも、苦しかった気持ちも、とても長い間抱え持っていた気がする。
全てを解き放つように私は泣いた。
泣いても泣いても、私の中から消えて行かない。
だけど、そんな私を彼は受け入れてくれている。
どれだけ時間が経ったんだろう。心が落ち着いて行く。体が眠くなっていく。
「寝ていいよ。俺が連れて帰る」
ふと、不思議に思う。
このセリフを言うのは本当にアランなのかしら。
無表情で冷たい瞳を私に向けていたあの……アラン?
「安心して眠っていろ。……アンジェリカ」
意識が薄れていく中で、そんな台詞を聞いた気がする。
アンジェリカ。
ああ、それは私の名前だ。




