2-1 文化祭準備
セルアたちがこの世界にやってきて、もうすぐ一ヶ月。
ゴールデンウィークが明けてすぐのある日の午後。チャイムが鳴り、号令を終えたカナタのクラスでは、担任の教師があいさつをしていた。
「皆さん、二ヶ月と少し後には文化祭がありますよね。なので今日は文化祭のクラスでの出し物を決めてもらいます。じゃあ、ここから先はクラス委員の二人にお願いします。あ、ちなみに
一組はSDGsの研究発表らしいですよ」
クラスのあちらこちらから「それは嫌だな」「つまらなさそう」などといった不満の声が聞こえる中、クラス委員の男女が前に出てきた。
「これから一〇分間、班で案を出し合ってください」
クラス委員の男子生徒がそういった直後、「ちょっといいですか?」と担任が手を上げる。
「今年から飲食模擬店の許可が保健所から降りたから、それでもOKですよ」
その発言にクラスの興奮は抑えきれないほど高まった。
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電子音と共にタイマーが始動し、それと同時に生徒たちもそれぞれ動き出した。中には席を立って遠く離れた班の所まで行く生徒もいた。
「班の中だけでやってくださいねー」
上記の事で先生が注意を促す。
「でさ! カナタは文化祭何がいいと思う?」
前の席から体を曲げて話しかけてきたのはカナタがいつもクラスで仲良くしている藤木エイタ。彼の隣にいるのは、同じくカナタと仲が良い神島ビスケ。
「えー、折角だから飲食店やりたいよなぁ」
「それな!じゃあ何やる何やる?」
「たこ焼きとかどーよ」
ビスケが提案した。
「お! いいじゃん!」
エイタが反応する。
「俺はアイス屋がいいと思うな。七月ともなると暑くなってるだろうし」
カナタも提案した。
「カナタにしちゃ意外だな。てっきりポップコーンとかホットドッグ出してくるのかと」
「流石に文化祭で映画館メシをするつもりは無いよ」
「でも体育館前で売れば文化部の発表とかクラス発表の前には結構売れるんじゃね?」
「あー! 確かに! ビスケもたまにはいいこと思いつくな!」
カナタが感心した。
「たまにはって……」
ちょっと微笑んだビスケだったが、「あっ」と何かを思い出した。
「よく考えれば体育館は飲食物持ち込み禁止だったわ」
「そういやそうだったな……やっぱりビスケはビスケだな」
「というか俺たちだけで決めていいのかな?」
「いいんじゃね、佐藤さんクラス委員で前いるし」
「一応聞いとこう。佐藤さーん! 出し物何がいいと思う?」
エイタが少し離れた所にいる佐藤さんに聞いた。
「なんでもいいよー!」
「だってさ」
「あのぅ……」
後ろの席から蚊の鳴くような、弱々しい声が聞こえてきた。
「僕も話に入れて貰えないでしょうか……」
声の主はメガネをかけた、いかにも真面目そうな男子生徒だった。
「あ、ごめん。班長のこと忘れてた。」
「忘れないでくださいよ……」
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一〇分が経つ頃、話し合い時間終了を知らせるタイマーの音が鳴った。
「それでは一班から発表をお願いします。」
発表は一班から二班、二班から三班、三班から四班・・・ と続いて行き、カナタ達六班の番になった。
「次は六班お願いします」
呼ばれると、代表としてカナタが起立した。
「僕たち六班からは『海底カフェ』を提案します」
「それはどんなお店ですか?」
「飲食店、所謂コンセプトカフェで、たこ焼きとかたい焼きとかカメパンとかの水生生物っぽい食べ物を売るんです」
「なるほど、分かりました」
こうして一クラス六班分の意見が出揃った。
お化け屋敷、クレープ屋、女子からの反対多数により大きくバツを付けられたメイドカフェ等々、メジャーなものがほとんどだ。
「よし。じゃあこの紙にいいと思ったやつ書いて前に提出してください。相談も立ち歩きも、自分のとこに投票するのもナシでお願いします」
そう言って配られた白紙の紙に各々が自分の意思を書く。五分後には前に全員分の紙が集まった。
「三四、三五、よし全員分。じゃあ結果は明日の朝黒板に貼り出しておきます。もし他クラスと被ったら変わるかもしれないから、そうなったら我慢してください」
話が終わると同時にチャイムが鳴り、三〇余人は礼をした。
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その日の放課後。
「こんにちはー」
終礼と掃除を終えたカナタとチハヤは、自分たちが所属する演劇部の部室に入った。中にはカーペットが敷かれており、部屋の色んなところで一五人ほどの生徒がくつろいでいる。
「おっ、来たか。みんなー発声やるよ」
一〇分ほどで発声練習と呼吸のトレーニングは終わった。
「これからミーティングを始めます」
全員、軽く礼をした。
「まず、これが今年の文化祭の台本。一人一部取ったら隣に回して」
全員に台本が行き渡った。休みもいるせいか少し余っている。
表紙には『FIVE・HEROs 作:宮崎要』と書かれている。
「それを各自読み込んで来て。来週の木曜にオーディションやるからそれまでしっかり」
「来週!?」
カナタは、あまりの準備期間の短さに驚いて、つい声を出してしまった。
ページを開くと「レッド ブルー イエロー グリーン ピンク 怪人 各一名 戦闘員四名」と役者の配役表がまずあり、その次のページから話は始まる。内容はというと、街を襲う怪人とヒーロー五人組が戦い、怪人の能力に翻弄されつつも最後には力を合わせて怪人を倒す……という戦隊モノの王道ストーリーだ。
全員がパラパラと読み進めていく。
「めっちゃ先輩の趣味全開……」
チハヤはカナメの通学カバンをチラと見る。ファスナーのところにヒーローのラバーマスコットが着けられていた。彼の持つボールペンにも同じキャラクターが描かれている。
「すみません、質問いいですか?」
二年生の男子生徒が手を挙げた。
「なに?」
「ヒーローや怪人のスーツを手作りするとなると、相当な時間と労力、技術が必要ですが、そこはどうお考えでしょうか」
「アキバとか池袋辺りのコスプレショップで売ってるものに、簡単な装飾を足してそのまま使おうと思う。最悪はネット使えばいいし。それなら時間も労力も技術も必要最小限で済むはず。あ、怪人の方は顔出しにしようか」
「そうですか。ありがとうございます」
男子生徒は礼を伝えた。
続いて、カナタが手を挙げる。
「先輩、この脚本だと単なるヒーローショーになりませんかね? 俺たち『演劇』部だし……なんかこう、ドラマ的な部分を入れた方がいいんじゃないですかね」
「やっぱそう言われるよな…… ん〜……今年はこれでいかせてもらえない?」
「分かりました」
この後、スケジュール共有やちょっとした練習をしてこの日は終わった。
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次の日。
カナタは、朝のホームルームが始まる三〇分ほど前に登校し、教室に入ると黒板の前に多くの人がいるのが見えた。何があったのだろう、と思ってそこに近づいてみると
『二年三組の出し物は 『海底カフェ』 に決定しました』
と、昨日の結果が張り出されていたのだ。
「よぉカナタ。やったな!」
エイタが肩に腕を乗せて挨拶をした。
「おう! でも一番うれしそうなのは、発案者の班長だな」
自分の席に座っている班長は満足そうな顔をしていた。
「そうだな」
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カナタのクラスの出店内容が決まった数日後の五・六時間目の学活の時間から正式に準備が始まった。絵が上手な佐藤さんの書いたコンセプトアートと飾りの設計図をもとに作業は進む。
「青のテープは窓の縦幅より少し長いくらいで」
「サメはこのくらいの大きさで良いの?」「うん。ちょうどいいサイズだよ」
「小魚もっと量産してー」「海藻とかサンゴもいるくね?」
各々、周りと連携を取り合って作業を進めているようだ。無論、カナタ達六班も作業に徹している。
「タコさんりんご飴…カメロンパン…たい焼き……あとなんかある?」
カナタはタブレットでメニュー表を作りながら他の班員に聞いた。
「チンアナゴチョコバナナとか?」
エイタがニヤつきながら提案した。
「チン……バナナ……却下」
「無難にブルーハワイソーダとかで良いんじゃない? カキ氷用シロップを炭酸で割れば簡単に作れるし」
今度は佐藤さんが提案した。
「よし採用」
「クラゲまんとかどうでしょうか。肉まんの上に丸い焼き印をクローバー型になるように押せばそれっぽくなると思います……」
次に提案したのは班長だ。
「お、良いねそれ。甘い物ばっかだったし、採用っと」
自分の案が採用されて、彼もどこかうれしそうだ。
「進行状況はどう?」
その時、先生が様子を見に来た
「それがまだ五種類しか決まってなくて…」
「そうか。でもそれくらいで良いんじゃない? いっぱいつくって売れなくてもダメだし、そもそもそこまで予算ないし。ま、決まったらこっちに送信して」
「確かにそうだよな……じゃあ、みんなこれで良い?」
「うん」「はい……」「おう」「アレがダメだったのがちょっと不服だけど、いいぜ」
「じゃあ、これで」
カナタはメニュー表のデータを先生へ向けて送信した。
この日の放課後。
カナタとチハヤは、今日も何気ない会話をしながら並んで帰っている。
「ねね、カナタのクラスは何やるの? 文化祭」
「『海底カフェ』って名前で海洋生物の形したりんご飴とかメロンパン売る」
「へぇ~そっちは面白そうでいいな~。あたしのクラスなんかクソ教師鬼怒川のせいでSDGsの研究発表になっちゃった」
「あー、この間うちの担任から聞いたよ。残念だったね。でも来年もあるから、その時はやりたい事をやればいいじゃん」
「うん! 絶対やる! やってやろうじゃん!」
そう話しながら交差点を超え、コンビニ前を通り過ぎ、電車の高架下を通る頃、また話しが始まった。
「そういえばさ、飯沼のおばあちゃんって今も元気にしてる?」
飯沼のおばあちゃんとは、カナタたちに優しくしてくれていた近所のおばあちゃんである。
「うん、こないだも道端で会ったけど九〇歳とは思えない程ピンピンしてた」
「あ〜良かった。小五の時に引っ越して以来、ずっと会ってないから気になってたんだ。今度会いに行かせてもらお」
「じゃあ俺も一緒に」
「そうしよっか。あ、私こっちだから。また来週ね!」
「おう」
チハヤと別れたカナタは、国道に沿って自転車を走らせる。ファミレスやガソリンスタンドの立ち並ぶエリアを過ぎ、川を越えると自宅がある不動台の入り口にあるキツイ坂の前に着いた。春の日差しに照らされながらも、カナタは止まることなく立ち漕ぎで坂を登る。
その途中、サユコの運転する車に会った。
「母さんこれから買い物?」
「いえ、ちょっと柳高に用事があるの」
柳高とは、学校法人柳葉学園が運営する私立の中高一貫校のことである。
「一体何の……」
詳しく聞こうとしたカナタの目に後部座席に座るマキナの姿が見えた。
「ごめんちょっと俺も行く」
カナタは歩道の端のちょっとした空きスペースに自転車を停めて車に乗り込んだ。
「あれじゃ自転車盗まれそうだけど大丈夫?」
「大丈夫でしょ。前一ヶ月ぐらい放置されてるの見たし、鍵かけてるし」
「ほんとに大丈夫かしら」
サユコは心配しながらも車を発進させた。




