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3-16 晴れ渡る夜空で、花は咲いた

 マキナが射的で一発当ててから一時間弱。各々、食べたり飲んだり遊んだりで楽しい時間を過ごした。

 さて、もうすぐ花火大会が、商店街から約一・五キロ離れた川で行われる。祭り会場にいた人たちも、それに向けて大移動を始めていた。

 しかし、カナタは商店街の一角にある三角公園のベンチでうずくまっていた。隣ではタイチが背中をさすっている。

「うぅ……食いすぎた……」

「ったく。何だ? 焼きそば、唐揚げ棒、肉巻きおにぎり、かき氷、たこ焼き、トルネードポテトにケバブサンド。お前のそのほっそい体のどこにそんなキャパがあんだよ」

 タイチがネチっこく説教をする中、ゴルダンが水を買って戻ってきた。

「カナタ、大丈夫か?」

「なんとか」

 カナタは受け取った水を、とりあえず喉に流し込む。

「────はあ。花火、時間大丈夫かな」

「セルアとサユコさんたちは、そろそろ到着する頃か」

「えーと今七時半だから……走ったら間に合う」

「無理。歩くのはできても走れない……」

「しゃーねぇ。タクるか。移動すんぞ」

「うん……」

「立てるか?」

「ありがとゴルダン」

 なんとか立ち上がったカナタと、それに付き添うタイチとゴルダン。三人も花火大会の会場に向けて移動を始めた。


 **********


「あ゛ー。報告書がまとまらん……」

 夏祭りを楽しんでいる人がいる傍ら、仕事に励む人もいた。それが、月海レイカという女だった。

 春晴家の向かいに借りている一軒家で、必死にパソコンと向き合う。

「お疲れ様」

 マコトは、彼女の机にコーヒーの入ったマグカップを優しく置いた。

「助かる」

「なぁ、花火行かないか?」

「馬鹿言え。私はまだ仕事がある。しかも納期が近い」

「お前にしては珍しいな、仕事がたまってるなんて。嵐が吹いて中止になるんじゃないか? 花火大会」

「なわけ……」

 その時、二人のスマホが同時に震えた。何事かと思い開くと、バナー通知で『七王子市で局地的なゲリラ豪雨が発生』とあった。

「ほら、お前がそんなことを言うから」

「これは俺のせいじゃないだろ」


 **********


 時を同じくして、花火大会の会場。

 突然の豪雨に驚いた人々は、近くにあった大きな橋の下で身を寄せあっていた。

「せまい~……」

 いや、この場合だとすし詰めと言う方が正しい。

「奥に詰めてくださーい」

「もう下がれねぇって!」

 スタッフの呼び掛けに、そう返事が返ってくる始末。橋の下は既に満員。周りには他の雨避けスポットもない。雨具も持っていない人は、もうどうしようもないのか。

 そこでだ。

「僕たち出ます! 代わりに誰か入れてあげてください!」

 比較的前の方にいたセルアが、人をかき分けて進みながら叫んだ。彼の後ろには、マキナとラーシャも着いてきていた。

 三人と入れ替わるようにして入ったのは、小さな子供を二人連れた家族だった。

 ────これでいい。

 その時だ。通行止めエリアギリギリのところに、タクシーが停車した。

 降りてきたのはカナタたちだった。

 すぐにセルアたちを見つけたカナタは、折りたたみ傘を開いて駆け寄った。

「雨すごいね」

「ああ。これは中止かもな……花火」

 五人の間にも諦めの空気が漂う中、マキナが「あっ」と何か思いついたように口を開いた。

「いや、私に一つ策がある」

「なになに?」

「魔法で、天気を変える」

「マジか。『天気の子』作戦ってわけね?」

「でもその天気を変える、気象を操る魔法って、魔力の使用量がかなり高い技ですよね。大丈夫なんですか?」

「スポーツドリンクを適宜補給してくれたら、何とか……かな」

「よし、じゃあやろう」

「っつーことは、どこか人目につかないところに行かねぇとな。また釘原さんに怒られちまう」

「あ、高い場所じゃないとダメだからね」

 マキナが付け足した。

「近くにあって人目につかなくて、尚且つ高い場所と言えば……あそこかな」

 カナタが指差した先にあったのは、パチンコ屋の立体駐車場だった。

「行こう」

「「うん」」

「おう」

「はい」


 **********


「うわ~。こりゃ出られそうにないね」

 花火大会の会場に程近いカフェに、チハヤとカエデはいた。

「どうする? ツレ呼んで、バイクで家まで送ってもらおうか?」

「そうしよっかなー。どうせ中止だろうし」

「────ねえ。あれフユちゃんの幼馴染みの子じゃない?」

「えっ?」

 カエデが指差し、チハヤが振り向いた方には、堤防の上を走るカナタたち五人の姿があった。

「ほんとだ。雨なのによく走るね。後ろにいる人たちは誰だろ」

「見た感じ中高生じゃないっぽいけど」

 その時、店内の電気が一斉に消えた。

「うわっ、停電~!?」

「……帰ろう、フユちゃん」

「ん~、もうちょい居よ! もうちょい」


 **********


「不法侵入なんて、初めてだわ」

「その『初めて』も、無いのが一番なんだけどね」

「そりゃそうだ」

「もうすぐ屋上だ。みんな、準備はいいか?」

「スポーツドリンクは準備オッケーです」

「傘持ちはオレだな」

「じゃあ、行こう」

 五人は雨が激しく打ち付ける屋上に足を踏み入れた。

 横殴りの雨に立ち向かうように歩み、やっとこさ最上部に到達した。

「始めよう」

 ゴルダンが傘でマキナの体を雨から守り、残りの三人がスポーツドリンクのキャップを開けて待機。完璧な陣形。

 そして、マキナは大きく息を吸い、杖を天に向けて構える。

「Caelum serenum/晴れろ」

 その声から二秒後、空には満点の星空が輝いた。

「よっしゃ成功!」

 と同時に、マキナは気を失い、体は後ろに崩れるようにして倒れた。それをゴルダンが受け止め、残りの三人で口にスポーツドリンクを注ぎ込む。

 むせた彼女は、目をゆっくりと開けた。

「できた?」

「大っ成功! ありがとう!」

「良かった……」

「折角ですし、ここで見ていきましょうか」

「そうしようか」

 意図せず不法侵入は継続となり、打ち上げられるであろう花火を待つ。

 「花火玉が濡れてダメになった」ということは、ここでは考えないこととしたい。

 三分も経てば、花火大会再開のアナウンスが入った。そこからさらに二分後には、ドン、ヒュ~、と言う音が近くの空に響き、バン、と、夜空を彩った。

 それを、壁にもたれかかって見る。

 しきりに花火は打ち上げられる。

 赤、青、黄、緑、オレンジ、ピンク。スタンダードな形から、ハート、スマイルといったユニークな形まで。

「綺麗……」

「ノスタルジー感じるなぁ」

「俺たちの国にも持ち込むか」

 美しい光と炎の花に目を輝かせる一同。それぞれ思うことはある。

 しかし、心の底から思っていた事は、皆同じだった。


 また、みんなでこの景色が見たい。


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