1-3 共同生活、スタート
「男二人はこの部屋を、女二人は向こうにある部屋を使ってくれ」
家族会議の後、春晴家の二階。この家に三つほどある空き部屋の一つの扉を開け、タイチは案内する。
「寝具は昨日使った布団を持ってくるから、後は自由に過ごしてくれや。くれぐれも部屋を破壊するなよ」
「分かってます」
「荷解く荷物は無いみたいだし、俺はこれで。要るものがあったら早いうちに言えよ」
「お世話ンなります!」
続いてタイチが向かったのは、吹き抜けを隔てて反対側、サユコの寝室兼洗濯物ルーム、の隣の部屋。ここはマキナとラーシャの二人の部屋となった。
「ちとごちゃついてるが、ゆっくりしてくれ。後で片付けておくからな」
「ありがとうございます。こんな、二人にしては広いお部屋で」
「……で」と、マキナが口を開いた。
「ハルバレさんの家って、家の中、しかも天井に風車を持ってるんですね」
シーリングファンのことだろうか。よくもまあ、そんな贅沢な部屋を倉庫にしたものだ。
「これは部屋の中に風を作り出して、涼しくする奴だ。お前ら風に言えば、魔法みたいなもんだ。最新鋭のな」
「へぇ~。この世界のみなさんも、魔法を使うんですね!」
「まあな~」
なぜか自慢げなタイチを、カナタは部屋の外から冷めた目で見ていた。
────何教えこんでんだろ、父さんは。『科学』と『魔術』は天と地ぐらい違うのに。
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「ねぇみんな。家事の当番を決めない?」
入居から二〇分も経たぬうちに一階に降りてきた四人は、サユコに集められていた。
「これから一緒に暮らすわけだから、やることの量も増えるし、みんなでやったら早く済むわよね。ほら、何かやりたい担当はない? ちなみに今はカナタがお風呂掃除、パパ……タイチさんがゴミ出し、私がその他全部だから、手伝ってくれるとありがたいわ」
「お安い御用です。私たちも『ウェンズデー』……セルアの実家の喫茶店で暮らしている時は、そうしていましたから」
「じゃあいつもと一緒でよくねぇか? 被ってるところは変えるとして」
「だね。買い出しはラーシャ、洗濯はゴルダン、料理が僕で・・・」
セルアが続きを言いかけたその時、サユコは口を挟んだ。
「あ、料理は私もやるわよ」
「それは失敬。で、マキナが家全体の掃除だ」
「うん、分かったわ。それにしてもあっさりと決まったわね~。じゃあ、それでお願い。早速のお仕事だけど、ラーシャちゃん、お買い物お願いしてもいい? メモと代金は渡すから」
「承知しました」
早速、ラーシャはおつかいに駆り出された。この家から一番近いスーパーは、長い長い住宅街に繋がる下り坂を降りて、七王子市随一の川に掛かる橋を渡ったその先という、結構遠い場所にあるというのに。だが、サユコもそのことを思い出したため、車で出ることになった。
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「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
吹き抜けに、マキナの声がこだまする。
その声を聞き付けたカナタは部屋から飛び出す。シャーペンを握っているので勉強していたところなのだろう。
「どしたー?」
尋ねるその声は、マキナの声にやや掻き消されてしまっている。と同時に、掃除機の吸引音も吹き抜けに響いていた。
────何があったの? 本当に。
そう思いつつ手すりから下を覗き込む。すると、暴走する掃除機に捕まって廊下を行ったり来たりするマキナの姿があった。
「なにやってるのマキナーっ」
「掃除機に自動で動く魔術かけたら止まらなくなっちゃった!!」
「えぇ!? 今行くから待ってて!」
カナタは階段をかけ降り、暴走する掃除機の前に立ちはだかる。受け止められるか、それともそのまま轢き飛ばされるかと思ったが、掃除機は巧みにカナタの体を避けて暴走を続ける。
「なんでぇ!?」
思わず叫びたくなる、「まさか」で「ありえへん」な挙動。
「魔術で動かしたんなら魔術で止められないの!?」
「なぜかできないのよ!」
「マジかよ。あっ、そうだ。マキナ! 掃除機から手を離して、飛び降りて!」
「え!? そうしたらコントロールが……」
「確かに……じゃあもう壊すかバッテリー切れを待つ……か……」
カナタが目線を前に戻すと、時すでに遅し、マキナは掃除機から降りた後だった。
「ごめん。降りちゃった」
掃除機は今までよりも勢いよく暴走を始める。玄関ホール中をあっちへ行ったりこっちへ行ったり。今のところ幸いなのはなにも壊れていないこと。
二人が止められないまま暴走し続け、遂に掃除機はリビングに突入する。
「まずい! あのままだと……」
そう。掃除機の向かう先にはガラスがあった。このままのスピードで突進すれば、間違いなく割れてしまい、最悪の場合は暴走掃除機が世に解き放たれてしまう。
────もう、壊すしか……!
「ictus electri・・・/電気ショッ・・・」
その時、掃除機は上に持ち上げられ、流れるように卍固め…? にされた。
「ゴルダン!? 寝たままなにやってるのよ……じゃない。助かったわ」
鼻提灯が割れ、ゴルダンは目を覚ました。
「ん? うわっなんだこれ。一体どんな状況だ?」
寝起きの思いがけない状況に、彼は思わず掃除機から手を離してしまう。
「掃除機に魔術かけたら暴走して……って、離しちゃダメ!」
しかし、掃除機は立ち上がろうと動くもののうまく立ち上がれない様子だ。
「この様子じゃ大丈夫じゃない? スイッチオフっと」
カナタによって掃除機の電源は切られ、春晴家に平和がもたらされた。
「ふぅ。これで一段落ね」
「ところでなんだけどさ、セルアとラーシャと母さんのお三方は何処へ?」
「それなら、みんな揃って夕飯の買い出しに行ったぜ」
「そっか。父さんは……車あるし昼寝中かな?」
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既に日は暮れ、夜の一九時。
ダイニングテーブルで食事をしようと思ったが、来客用に常備しているダイニングチェアを総動員しても七人分には至らなかったので、今日の夕食はリビングに置かれた長テーブルでとることになった。
「お待たせしました。牛肉団子のでみぐらすそぉす(?)がけです」
そう言って彼らの前に出されたのは、いたって普通のデミグラスハンバーグだった。同じ皿には、付け合わせでサラダとナポリタンも入っている。
「えっ、マジで? セルアの焼き牛肉団子、食べれるの? ……ヤバい、めっちゃ嬉しい」
「良かったですね。セルアの料理は、どれも美味しいですから」
「ではでは……いただきます」
共同生活一日目、これにて終了である。




