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3-4 シャーク

 その報告とほぼ同時に、カナタも橋の下を覗き込んでおり、そこにあったそれに身を震わせた。

「嘘だろ……月海、今すぐに付近一帯を封鎖しろ。人が死んだ。しかも怪死だ」

『いや、怪死とまでは言って……あ、あとそっちの駐在局員の『雨宮』って人と合流してくださいね』

「了解。連絡サンキュー、ナツキ。よし行くぞ月海!」

『ちょっ、俺ナツメでッ・・・』

 マコトはインカムのボタンを押して通話を終了した。ああは説明したものの、名前は覚えられていないらしい。いや、マコトが人の名前を覚えるのが苦手なだけだ。


 **********


「あっ切られた! ……俺の名前、覚えられてなかったなぁ……」

 コンピューターが並ぶ観測室で、ナツメは悲しみに暮れるのだった。


 **********


 たちまち現場周辺には規制線が張られ、誰かが既に通報していたのであろう警察も、鑑識と共に到着した。


 しかし、カナタ達春晴家はその光景を見ることはなく、マコトたちよりも先に旅館に帰されていた。

「────ん~……」

 カナタはロビーのテーブルに突っ伏して、気だるげに唸っている。

「カナタ……その、大丈夫? ほら、死体、見たんでしょ? しかも本物。怖かったよね」

「いや、それに関しては大丈夫……ホラー映画とかパニック映画でそういう死体とか、グロシーンとかってのは見たことあるし……って言ってもその比にはならないかなぁぁ……まあ、暗くて見えにくかったってのはあるかも」

「そうか。何かあったら、ちゃんと僕たちに相談するんだよ」

「分かった。そういう時は絶対頼る。でさ、話変わるんだけど……何か食べない?」

「うん。食欲あんなら大丈夫だな。近くに和食の店あったし、そこ行こうや」

 タイチは一番に席を立ち、ロビーの外へ歩いていく。それを追って六人も歩き出した。


 **********


 規制線の内側にあるカフェの前で、マコトとレイカは雨宮という局員と合流した。

「東京本部の釘原です」

「同じく月海です」

「伊豆・小田原・富士広域分局の雨宮です」

「早速ですが被害者の身元は?」

 自己紹介を済ませたマコトが聞く。

「下流で発見された遺留品とみられるスマートフォンから、被害者は寺前朗馬という観光客の男である、ということがわかっています」

「その『テルマエ・ロマエ』みたいな名前をした彼の、死因と死亡推定時刻は?」

 今度はレイカが聞く。

「おそらく失血死。死亡推定時刻は今日の午後一八時四五分頃。また、その少し前に血塗れの男が橋から転落したとの目撃情報も入っています。近くにいたなら、何か情報が入っているはずかと思いますが」

「あー……すみません。監視調査の一貫で、その時刻は温泉に入っていたもので」

「そうでしたか。釘原さん程勤務歴の長い方なら釈迦に説法かと思いますが、監視対象に肩入れ、同情することは調査員として御法度です」

「分かってる。そこは安心してほしい。私たちとて公私の線引きはできている、だから・・・」

 その時、マコト、レイカ、雨宮のインカムに一斉に通信が入った。

「どうしました?」

 雨宮が応答する。

『箱根関所跡付近の路上にて、早川の遺体と同様の傷跡をもつ男性の遺体を発見! 捜査員は至急急行せよ!』

「JNIA釘原了解。月海麗夏調査官と共に急行する。雨宮さん、ここは任せます」

「了解しました」


 **********


 春晴家の七人は、仙石原のゴルフ場にほど近い、料亭に来て、順番を待っていた。

「二名でお待ちの桐島様」

 店の女性従業員が呼び、それにに応えるかのように立ち上がったカップルは、店の奥に向かって進む。座敷へ通されたのだろう。

 ────お腹すいた……早く呼ばれないかな。

 カナタはぼーっと、無心で天井を見つめていた。

 しかし、五秒後にはそれも終わる。店の外からパトカーと救急車のサイレンの音が重なり、連なり、聞こえてきた。

「こっちでも何かあったのでしょうか」

「かもしれないな。万が一が起きた時のためにも警戒を怠るな」

「また縁起でもないことを……」

 タイチがそう言った途端、急に建物が大きく揺れ、店内の電気が一斉に消えた。

「今度は何だ?」

「うわ、停電……なんか夕方からツイてないなぁ」

 カナタはスマホのライトで辺りを照らす。

 店内を見回してみると、全員が何が起こったのか飲み込めていない様子で、多くの人々が混乱の声を上げていた。中にはカナタと同じように、スマホのライトで辺りを照らす人もいた。

「一旦、店の外に出よう」

 セルアが六人の先頭に立って、店を出ようと一歩を踏み出したその時、店は再び、今度は小刻みに揺れだした。

「やっぱ地震!?」

 小刻みな横揺れは続く中、どこからとも無く波の音が聞こえてくる。

「ねぇみんな……ホントに何が起こってるの?」

────何か、こちらへ向かって来ている……?

 セルアが感づいた。

「タイチさんとサユコさん、念のために建物の中と周辺にいる人を避難させておいてください」

「お、おう。分かった」

「任せて頂戴」

 そう応えた二人は協力して、言われた通りに避難誘導を始める。

 それを見届けたセルアは目を瞑り、

「detectio magica/魔力探知………………そこだ!」

 振り返って五歩程前進し、持てる限りのフルパワーで剣を上に向けて振った。

 すると、床の中から「何か」が飛び出した。不思議と床は壊れていない。

「うグぁッ」

「やっぱりいたか。魔力が漏れていたお陰で容易に見つける事ができたよ。それで、お前は一体どこの誰だ」

 五人の目線の先に、人に近しい異形の「何か」の影が二足で立ち、蠢いているのがわかる。

 いつ攻撃されるか分からない。その不安が全員の身体に緊張を走らせ、身構えさせた。

「ボクノッ…… ワタクシノッ…… オレノ ナマエハッ……『シャーク・デーモン』デ アリマス」

 「何か」がそう言った途端、先ほどの揺れの影響で天井の一部が崩落し、差し込んだ月明かりでその姿が明らかになった。


 見た目は殆ど人間だが、サメの尻尾、頬にはエラ、腹ビレのような腕、昭和の不良のような青髪リーゼント、背中から大きく生えた背びれ、極めつけは奴自身が名乗った「シャーク・デーモン」という名。

 奴が魔王軍から送り込まれたサメの怪人である事は、容易に断定することができた。


「そう来たか……一つ質問をさせてもらおう。お前は一体何をしに来た? 答えろ!!」

 セルアが声を張って聞く。

「オレノ…… モクテキハ…… オマエラヲコロスコト デアリマス。 キタレ デーモントルーパー」

 シャークがそう唱えると、床から次々と、文化祭で戦ったプロトデーモンを縮めたようなデーモン怪人、デーモントルーパーが多数出現した。

「量産型怪人までいるのかよ」

 カナタはチェンジガンのトリガーを三回引いて、首飾りのオーブにかざす。

『あっ、オーブリンクですね! ニンショウしました!』

「ニコーラー! 存在ごとすっかり忘れてた」

『ワスれないでください! さぁ、イきますよー コエをソロえて!!』

「えっ、声?」

『変「変身!』身!」

 かけ声は微妙にズレてしまったが、これまで通りトリガーを引いて変身完了!

 先に戦闘を開始していたマキナたちの所へ加勢し、トルーパーをなぎ倒してゆく。

「そこまで強いというわけでもないな」

 セルアが剣をトルーパーの体から抜いて呟く。

「だが、普段手駒にしてやがる雑魚モンスターよりは幾分か強ぇぞ」

「ですね。束になって来られたら、十分厄介です! …あ、いいことを思いつきました! マキナちゃん! 凍らせちゃってください!」

「了解! Bombardatio Glacialis/氷撃!!」

 マキナは自身の前方、扇状の範囲にいたトルーパーを一気に氷漬けにすることに成功、戦うべき相手をシャークと残り僅かなトルーパーのみに絞ることができた。

「よしっ! このまま一気にたたみかけるわよ!」

「オッケー! 先陣切りまーす!!」

 その言葉と共に、コスモが飛び出していった。

「はぁ〜っ!」

 シャークの少し手前で飛び上がり、上から力の籠ったパンチを準備する。

 しかし、これに対してシャークは何も構えない。ただパンチの先に片腕を伸ばすだけ。

────これを棒立ち片手で受け止めるつもりなの? 流石に舐めプにも程があるでしょ。

 コスモは勢いよく、全力で拳を前に突き出す。だが、その攻撃を奴が受けることは無かった。

 パンチが、文字通りシャークの腕に沈み込み、貫通したのだ。

 ────は!? 一体何が…

 その光景を見ていた四人も、目を丸くする。

 そのまま床まで落ちていくかと思ったその時だ。シャークの左腕がコスモの腹に全速力で向かってきた。

『アブない! ボウギョしすてむ、サドウ!』

 ニコーラーのかけ声と同時に、パンチの着弾点を中心にハニカム状のバリアが形成された。ダメージゼロ、というわけにはならなそうだが、コスモにとっては十二分な助けになったろう。

「ニコーラーマジでありがと〜!」

『いえいえ、これがワタシのホンギョウですから』

 コスモは立ち上がると、後ろから「カナタ」と、セルアに声をかけられた。

「見ていたよ、さっきの。どうだった?」

「なんというか、物や生物を殴ったって感覚より、水面……いや、沼だ。泥沼に手を入れた時みたいな感覚のほうが近かったかな。沈み具合がモロにそれだったし」

「なるほど……もしそれが奴の固有魔術だとしたら、かなり苦戦を強いられ・・・」

「ソロソロ ツカッテシマオウ ベキ デアリマス」

 マキナの言葉を遮るようにして、シャークはそう言い放ち、自らの周りに店内の備品でる椅子を八つ浮かべた。

「何をするつもりなんだ…?」


「ハツドウ『liquefactio/液状化』」

 その言葉とともにシャークは固有魔術を発動。椅子が一瞬にして液体の球に変化した。

「マキナの予想は大体当たってたってことだね!」

 その直後、元イスの液体の球は全速力でコスモたちの方へ向かってくる。

────直撃したとて所詮液体、案ずることはない。

────負傷する可能性は……まあないわよね。

────技名からして「固体を液体に変化させる」それだけっぽいし……

 そう考えたが甘かった。シャークの算段にはもう一段階あったのだ。

「Transformare/変形」

 その一言で水の球の表面に鋭利な棘が複数出現。まるでチェーンアレイの鉄球の部分のようになり、そこからさらに

「coagulatio/凝固」

 と唱えると、液体は一瞬にして固体に戻ったのだ。しかも変形させた姿を保ったまま。

 この一連のシャークの操作に、カナタは目を丸くする。

「嘘でしょこんなのありなのぉ!?」

 暗くてもわかる。当たったらタダじゃ済まない凶悪な物体が、こちらへ向けて猛進してくる。

 だが、なにもせずに突っ立っているわけでは、無論ない。

 ゴルダンとセルアはそれを迎撃するためのそれぞれの術を、ラーシャは全員を護る巨大なバリアを、準備したがそれらよりも早く

「Sequens Fulmen Radiorum/追随する雷光線!」

 マキナが魔術を発動させ、八つ全ての球を一斉に破壊した。

「よくやったマキナ!」

 ゴルダンが声を大にして称賛する。

「フム ヒトスジナワデハ イカナイ トウゼンナガラ デアリマス」


 **********


 視点はマコトとレイカの乗る車の中へ移る。

 二人はちょうど、通報のあった場所へ急行している最中で、現在は宮ノ下駅の辺りを走っている。

 信号が変わり、アクセルを踏んだその時、またもやマコトのインカムにナツメから連絡が入った。

「どうしたナツメ」

「あっ、覚えられてた」と、つぶやく声がインカムの向こうから聞こえたが、それもすぐに咳払いでごまかされた。

『それが、たった今、仙石原のゴルフ場付近にて高濃度の魔力エネルギーが観測されました。ほかの現場に向かっている最中かと思いますが、一応向かっていただけますか?』

「……! 了解!」

 その言葉と同時に、マコトはハンドルを大きく切り、交差点内で大きくドリフトを決める。

「釘原!? 危ないじゃないか!」

「こちらJNIA釘原。緊急事態発生に伴い、月海麗夏調査官とともに離脱する!」

 マコトはアクセルをより一層強く踏み、国道一三八号線を走り出す。その様子をレイカは「やれやれ」という目で見送ると、グローブボックスからパトランプを取り出し、車の上につけた。JNIAでは、こうすると緊急時の警察車両と同等の扱いになるようだ。


 その後もナツメから逐一連絡が入り、現在ではとある和食料理店でとどまっている上、中規模の魔力反応がいくつか出ているらしい。それが誰が、どうしたために発生したものかは、考えなくても分かる。

 法定速度は当然のように超過、実際二度事故を起こしかけたが、マコトの運転技術で何とか回避しながら、向かっていった。


和食料理店には、ものの五分ほどで到着した。

「見えた。和食の仙洞田、あそこだ!」

 レイカが右前方を指さして叫ぶ。

「オーケー」

 スピードを緩めぬまま、車は大きく曲がる。

「月海、今のうちに装備を」

「何言ってる。既に準備済みだ」

 レイカは着用したボディアーマーを下へ引っ張って整え、拳銃に弾倉を装填しながら言った。

「抜かりがねぇな!」

 そう言った次の瞬間、大きな破裂音とともに車のバランスが大きく崩れた。

「わっ、なんだ!? パンクか!?」

「釘原……釘原! 前、前見ろぉぉぉ!!!!!」

 レイカがマコトの体をゆすりながら叫ぶ。彼が前方を改めてよく見てみると、こちらへ向かって何か巨大な物体がいくつか飛んできているではないか。

「────! マジかよ……!!!」

 唐突に起こったパンク、前方から飛んでくる謎の物体。この二つが同時に起こったことに少々パニくってしまったが、それでもマコトは咄嗟にハンドルを切って全ての物体を回避する。

 ふと安堵したときには、既に車は制御不能状態に陥っていた。二人の目の前には、一面の漆喰の壁。


 **********


「ロレンチーーーーニッッッ」

 コスモがそう叫ぶ一方、ゴルダンはただ力の入った声を上げ、二人同時にシャークのリーゼントの先っちょめがけてパンチをお見舞いした。

 それを受けたシャークはよろめき、動きが止まる。

「っしゃ! サメならやっぱりそこが弱点だよね! 二人とも、後やっちゃって!」

「ああ」

 少し距離を置いた場所で待機していたセルアは、再び剣を構えてシャークのところへ向かい、切りかかる。

「liquefactio/液状化……」

 シャークは両手でセルアの剣を触り、液状化させようと試みたが。

「させない! Solidificatio petrae/岩固め!」

 マキナの魔術でセルアの剣は保護、というより魔術で創り出した岩が身代わりになって液状化を無効化した。

 そのまま剣で切りかかるが、シャークは自身の腹びれのような腕にあるサメ肌を一層強化させ、まるで硬い刃物のような性質にすると、そのままセルアの攻撃を防ぎ、弾き返す。

「ふん!」

 絶えず攻撃をし続けようと、彼はまた剣を振る。今度は奴の首。

 だがその時、彼らの右真横の壁から轟音。

 ────車だ。

 ヘッドライトは瓦礫の舞う店内を照らす。

「psychokinesis inducta/誘導念力!」

 ラーシャの声が聞こえたかと思えば、セルアはもの凄い速さでコスモたちの方へ引っ張られた。

 そのまま、それなりの速さを保った車はシャークを撥ね飛ばす。

「何が起こったの……?」

 マキナはカナタの方を向き直って聞く。

「いやぁ……俺に聞かないで?」

 停車した事故車両の中からは、拳銃を装備したレイカとマコトが出てきた。

「無事か!?」

 マコトがシャークのいるであろう方向に銃を向けながら聞く。

「はい。負傷者はいませんし、一般の人達もタイチさんたちが逃がしました」

 セルアが答える。

「それなら良かった……」

 二人は銃を構えたまま少しずつ前進する。

「気をつけてください! マジで強いっすからね!」

 ゴルダンの忠告を「それはどうも」と聞き流しながら、さらに前進。

 まだ不安を払拭しきれなかった五人は、再び戦闘態勢をとる。

「おい! 大人しく投降しろ!」

「そう叫ぶな釘原。相手は人ならざる怪物、言葉は通じないかもしれない」

 次の一歩を踏み出した途端、瓦礫の下にいたシャークは目を覚まし、二人に飛び掛かった。


 だが、二人の前にはラーシャが立ちはだかり、盾となった。自らの左腕を犠牲にして。

「うっ……゛あ゛あっ……」

 シャークが喰い千切ったのだ。

 彼女の腕からは血がとめどなく噴き出していたが、冷静に回復魔法をかけて止血させる。肝心の腕そのものはというと、シャークが丸吞みにしてしまった。

 奴はそのまま地面に潜って逃走を図る。

「うっそでしょ……!」

 まさかの光景に、カナタも言葉を失う。 

 だがそれ以上に、セルアの顔からは血の気がみるみる引いていった。


 **********


 彼の脳裏に、まだ若い……というより幼かったころのビジョンが映る。

 今とは違うメンバーで、旅をしていた頃のことだ。

 雪の降るある街で、そのメンバーの体は血だまりに浮いていた。

 見上げるとそこには、五線譜を翼のようにして飛ぶ不気味な男がいた。

────やめろ。やめろ。やめろ。嫌だ。来るな。こっちに来るな! 死にたくない。

『お前だけは生かしてやる。その代わり、あーしのことをちゃんと世に広めるんだゾ』

 不気味なメイクで悪趣味な笑みを浮かべ、男声の残るわざとらしい女声で話す、彼の顔。セルアの目に映っていたのは、死神。

 ────嘘だろ。やめろ、やめてくれ。みんなを、みんなを連れていくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 **********


「……!!! ラーシャ……! 何考えてんだ! お前の役割は後方支援だろ! 弱い女は前に出てくんなってあれほど! だから仲間なんて」

 つい口走ってしまったその言葉に気づいたセルアは、慌てて手で口をふさぐ。

「ごめん……今のは全然そんなつもりじゃ……」

 それに対し、ラーシャが吐息交じりに口を開く。

「私も……気にしては……いませんよ。むしろ、懐かしさすら感じます……それより今は奴を……傷の悪化は止めました。腕さえ取り戻せば……くっつきます!」

 全員の顔に、一瞬希望の光が灯った。

「そうと決まれば……ニコーラー! バイクとかって出せる?」

『ムリですよ! そんなキノウ、モちアわせてません! それに、ヒーローのバイクはお面バイカーのコユウメイシでしょう?』

「確かにそうではあるけど…………戦隊ヒーローでも車とかバイクにも乗るの結構あるらしいよ? (by宮崎部長)」

 心の中で情報を付け足しつつ、ボソリと呟いたその時、外からクラクションの音が聞こえた。


 **********


 変身を一旦解除して外に出てみると、そこにはタイチが車に乗って停まっていた。

「父さん!? 車に乗ってどこ行ってたの?」

「足腰弱い婆さんを近くのコンビニまで、今はサユコが付き添ってる。それより、乗れ。さっき逃げていく怪物の姿が見えた。追っかけなくていいのか?」

「ありがとうございます! お願いします!」

 セルアがそう言うと同時に後部座席のドアがスライドして開く。

「すみません、俺もいいですか?」

「釘原さんもですか! 乗ってください!」

 マコトが乗り込もうとすると、レイカに「待って」と声をかけられた。彼女の腕にはゴルフバッグ程のガンケースが抱えられていた。

「これ、持って行ったほうがいいんじゃないか?」

「ホントお前は気が利くな。有難く頂戴しよう」


 **********


 車に乗りこみ、シャークを追いかけることになったのは、セルア、マコト、そしてカナタの三人と、運転手のタイチだ。

 だが、すでにシャークを見失ってしまっていたことに、一行は出発してから気づいた。

 だがだが、奇跡は起こるものだ。

『釘原さん! 釘原さん!』

 再び、インカムにナツメから連絡が入る。それをカーナビの電話モードに繋ぎ、全員で聞く。

『現在、結構な速さで中規模の魔力エネルギーが南へ向かって動いてます! 現在の座標、北緯三五度一四分四七秒、東経一三八度五九分四七秒!』

「春晴さん!」

「おうよ!!!」

 車はまたスピードを上げる。目標に向かって。


 シャークチェイスは、まだ始まったばかり。

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