Episode 1 ナンバーワン
ダンダン…叩かれたマイクに振動音。
ガヤガヤとしていた雰囲気が静まる、一学年200人の構成、合計600、違う601人の高校だ、しかし誰も気にもとめない、違和感を感じても言う程ではないからだった。
生徒は黒い制服パンツに青いシャツ、そしてネイビーのネクタイ、上に黒い襟に金色のラインが入り、ポケットには赤いラインが入ったブレザーを着ていた。
校長「えー…テステス…ゴホン、去年…200人の生徒が卒業しました…皆無事にやっているかは…ニュースを見れば分かるでしょう、数人顔見知りの生徒が活躍していて、インタビューを受けていました…私としては…嬉しい限りです」
白髪で白い髭を生やした校長は目がメガネのレンズで見えない…そして姿勢を正したまま無表情で続ける。
校長「そして新たに…200人の仲間がこの学校に来てくれました、あなた達は桜の中─…」
体育館の前から後ろまで学年ごとに分けられている、学年の二年生達の座る椅子は201席、しかし一つの席は誰も座っておらず空いている。
そんな中校長はつまらなそうな話を続けていて一年生は校長から目を逸らさず話を聞いていた。
華「…(ぅー…ここみんな同い年の能力者なのかな…全国から来てるし…会ったことないから緊張する…私が弱かったらいじめとかあるのかな…)」
華、比較的小柄でサラサラのボブヘアをした濃い青色の瞳を持つ。
その時…。
校長「長い話はここまでにします…さて、皆さんに大事な事を言わせてもらいます。」
初めて校長の眼鏡の反射が消えて目が見えた気がする、鋭い目だった。
そしてそれが見えたのは生徒の中の数人、能力の中の一つ、鋭い視力能力を持つ生徒のみだった。
校長「大事なのは…数字です」
華「…(す…数字…?)」
校長「この学校の活動はくだらない教育的な授業はしません、あなた達の中学時代の学んだ事と…個人的に勉強した知識のみで戦ってもらいます」
校長の強い言葉に場の雰囲気が一気に冷える、先程と同じはずの声量はさらにはっきり聴こえる。
校長「それでダメなら底辺になる、つまり…必要な知識を必要なだけ学んで、それを生かして成功する生き方をしてもらいます、ここで必要なのは数字を得る為の脳みそです。」
華「…(な…なんか凄いこと言ってる…。)」
校長は少し不気味な笑顔をして横に歩いて舞台中央からずれ、スイッチを押す、校長の立っている舞台は徐々に日が当たり始める、舞台の上の天井が開いたのだ。
校長「さて、私はここで…あなた達へ希望を見せたいと思います…この学校去年の最優秀生徒…人を助けた数…約528人!アカデミアン!!」
ヒュー!体育館の上から風を切る音、これも聴力が高いような能力を持つ生徒にしか聴こえなかったが、それは関係ない、すぐにそこに何が来たか分かるからだ。
ドン!!と体育館の舞台に埃を巻き上げ着地する。
やがて埃が舞い消えるとそこにいるのはパッツリとした制服の青いシャツを第二ボタンまで開けて腕まくりし着た細い筋肉質な男、黒い制服パンツも脚の筋肉が良く分かった。
青い目にクルーカットの茶髪。
歴戦のヒーローのように見えた。
そして姿が見えた瞬間、二年生と三年生は歓声をあげる。
「「アカデミアンー!!」」
一年生は戸惑いながらも拍手をする。
校長も控えめに拍手しながらマイクを男に差し出す。
アカデミアン「どうも!やあどうも!はは!新入生の諸君!俺はアカデミアン!よろしく頼むよ!」
アカデミアンは100点、いや120点の笑顔、白い歯を見せながら腕を広げアピールする。
華「…(すっごい…)」
華は見惚れていた、美しい完璧な筋肉、素敵な笑顔、そして見るからに強いことが分かる自信。
アカデミアン「さて…静粛に…俺の話を聞いて欲しい、さっき校長が言った通り…ヒーローは数字が命だ…」
一年生は少しざわめきだす。
中には…「結局かよ…」「俺はそういうのじゃ…」
と呟く声が聞こえる。
アカデミアン「理解してる、理解してる、」
アカデミアンは優しい声で語りかけるように続ける。
アカデミアン「何故数字が命か…それはだな、我々人を救うことが出来るヒーローはもう珍しくない…だからこそ…あのヒーローよりも救う、あいつには負けない…その心こそが!自然と救う人数を増やして…平和な世界を作るんだ!」
正論であった、競争のない世界が数字を増やすか、その問いかけに答えるならこれは正しい返答だった。
そしてまさに誠実な答えだった。
一年生は納得したのか黙ってアカデミアンの話を聞くようになった。
アカデミアン「君達はここに来てくれた、人を救うチャンスがあると知ってここに来てくれた、君達は選ばれし者だ…ここにいる中で18歳以下のヒーローを…この高校以外の人間で見たことはあるか?」
アカデミアンは左右に見渡しながら手を挙げ問いかける。
誰一人として手を挙げなかった、どこからかの謎な緊張からか、紛れもない事実だからかそれは分からなかった。
アカデミアン「既に珍しくない人間でも…選ばれし者だ…だから君達はやるべき事をやる必要がある…以上…」
アカデミアンはマイクを正確に校長に投げ渡し舞台中央に立つ。
アカデミアン「君達の活躍を応援してるよ!」
アカデミアンは再び最初のような笑顔を見せて片膝を曲げて上を見る。
次の瞬間ジャンプするように目に見えない速さで空に飛んでいくのだった。
2、3年生はその瞬間大きな歓声をあげるのだった。
…
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴る、教室は白く、机も白く普通の高校の机と違い綺麗で一回り大きい、椅子も最高の座り心地と感じるくらいフカフカだった。
華「あー…この高校最高かもぉ…」
華は大きく伸びをし後ろに身体を反らせる。
そして近くの男子が椅子や机に座り何か話してるのが耳に入る。
男1「なぁ…あれ!凄かったよな!飛行能力俺も欲しかったなぁ…」
男2「なー!ってかバリ速かったし!俺の視力でも捉えれなかったもん…」
男3「え何?お前視力能力あんの?良いなぁー」
華はそんな話をしている男子を横目に見ながら。
華「…(へぇ…やっぱり凄いんだ…あれ)」
授業は中学時代と違い一応決まった時間に授業があるもののチェスで競ったり、100mを競って走ったりするものだった。
とにかく授業では競うことが多い学校だった…その為か上下関係が一日目から出来てくる、しかし先生はクラスの生徒の誰よりも強く喧嘩に即座に反応し冷静に止めてくるのだった。
昼前11時。
チク、タク、チク、タク
3階の音楽室。
防音の部屋、ピアノで演奏する音。
華麗な指捌きで演奏が続く。
茶髪のサラサラなロングヘア、前髪はシースルー、サーモンピンク色の瞳をしていて清楚雰囲気、クリーム色のカーディガンを制服の上に着ている。
その時、演奏している女は背後にかすかに風を感じ、指を止める、ピアノの方を向いたまま微笑み話し出す。
女「…校長室で…校長と話してたんじゃないの?わざわざ一階から誰が演奏してるか分からないのに来るなんて…」
そう呟いて微笑みながら後ろに振り返る。
壁に腕を組んで寄りかかっている男。
アカデミアン「この時間帯にメトロノームをつけながらカンパネラを弾くのは君だけだ…理沙」
アカデミアンも微笑みを浮かべていた。
理沙は優しい微笑みを浮かべながらゆっくりと色気を出しながら近付く、上目使いでアカデミアンの厚い胸板を少し撫でて人差し指をアカデミアンの口に当てる。
理沙「ラ…カンパネラ…」
アカデミアン「…今日の僕の…どうだったかな…しっかり…みんな聞いてくれてた?」
理沙はゆっくりと手をアカデミアンの手にかけて撫でながら。
理沙「完璧、みんなあなたが最高のヒーローだって分かってくれてる。」
アカデミアン「それは良かった」
理沙が瞬きをする、その瞬間風を再び感じる、目の前からアカデミアンは消えていた。
理沙はふふっ…と笑うと再び椅子に座りピアノを弾き始めるのだった。
…
ー食堂ー
ガヤガヤ…皆イマドキって感じの話をしていた、SNSとか、そういう話。
華はカレーを乗せたトレーを持って席に着く。
華「ふぅ…いただきまーす!!」
華は目を輝かせながら手を合わせるのだった。
学校見学の時、カレーの良い匂いが一番目立っていて初日にはこれを食べると決めていたのだった。
???「隣良い?」
華がカレーを食べている時声をかけられる。
そこには黒髪くるくるパーマで青い瞳のイケメンが立っていた。
華「え…い…良いよ…ですよ…」
華は緊張しながらそう呟く、カレーの食べ方がおしとやかになる…。
サイト「僕はサイト、よろしく」
サイトは手を伸ばしてくる、その時制服の肘の部分が彼の持ってきたカレーについている。
華「サ、サイト…くん…肘…」
サイト「え?あっ…やべっ…」
サイトはハンカチをポケットから取り出して強く越すって取ろうとしていたが上手く取れていなかった。
華「あ、えっと…手伝う手伝う…」
華は手をかざすと宙に浮いた水のような物を出してサイトの制服の肘に染み込ませる。
サイト「ちょ…冷たっ…」
そしてゆっくりと再びサイトの肘から出てきたと思ったら薄く茶色に染まっていた、制服に吸着していた汚れを綺麗に水分ごと取ったのだ。
サイト「な…なんだぁ?便利な能力だな…」
サイトは驚いたように目を見開いていたがやがて視線を下にして華のカレーに気付く。
サイト「あ、君もカレーなんだ、偶然…」
華「え…私が同じカレーだから来たとか…そういうのじゃなかったの?」
サイト「え?違う違う!」
サイトは笑いながら。
サイト「ここ給水近いから楽かなって思って。」
華「あ、あー!なるほど!あはは…」
華は心の底から少し笑う、先程の緊張がなくなってきた。
華「えーっと、私は華!よろしくね!」
サイト「うん!よろしく!」
その時だった、ピンポンパンポーン!と放送が鳴る。
華は上を見上げるようにして音に集中する。
「職員全員集まってください、緊急会議を始めます、緊急会議を始めます。」
放送を聴いた職員達は食堂の端に立っていた者も含め足早に階段の方へ向かっていく。
ピンポンパンポーン…
サイトは耳を塞いでいた。
華は苦笑いしながら。
華「どうしたの?」
と聞く。
サイト「僕…この音嫌いなんだよね…なんか大きく聴こえる…」
華「えー…もしかして聴力良いんだ?」
サイト「まぁね…」
その時だった。
バーン!!!
ロッカーに誰かが叩きつけられる。
大男「おらぁ!どうしたぁ!?」
大きな男の生徒が比較的細い生徒を投げていたのだった。
華「うわ…なんだろ…喧嘩?」
サイト「う…うわぁ…」
大男が細い倒れた男をお腹から蹴りまくっていた。
周りの生徒達はビビりながらなにも出来ずにいた。
基本的に能力のある場所では細くても力が強い人間が多いが、大きい男は通常通りさらに強い。
細い男「っ…や…やめてくださいっ…」
華「っ…」
周りを見渡す華…教員は今いない…。
しかし蹴られ続ける細い男。
華はそれを見ながらテーブルを強く叩いて立ち上がっては大男の方へ近付いていく。
サイト「っ!は…華!」
サイトは止めようとするが既に手を伸ばしても届かなかった。
華「ちょっと!」
大男「あぁん?」
金髪モヒカンの男は片眉毛を上げて振り返ってくる。
華はその瞬間水の塊を宙に浮かせて出して大男の頭にまとわりつかせる。
大男「ぐっ…ぐばばっ?」
大男は水を払おうとするも水は元に戻る、息が出来ない状態で倒れてもがきパニックになる大男。
大男「ぐっ…ぐっ?」
華はそんな苦しんでいる大男をずっと睨んでいる華…。
急にいつかの情景が蘇る、彼はもっと大きくて、華を殴るのを止めなかった。
華(8歳)「やめっ…やめてっ!」
バキィッ!バキィッ!
華(8歳)「やべてっ!!くだはいっ!」
心臓の鼓動が大きくなる、息も荒れる、そんな男に似た男が苦しんでるのを見るのは辛くなかった。
しかし…。
華「…(死んじゃう…この人死んじゃう…でも止めらんない…っ!)止まって…止まって!」
華は自分の意志が二つあるように感じた、手をかざして消そうとしても消えない、いつもなら簡単に消せるのに…過去が邪魔をしていた。
女「きゃぁー!!!!誰か!」
それを見ていた女性生徒は悲鳴を上げる。
暴力を受けていた細い男は尻をついたまま驚いた表情でそれを見ていた。
その時、ファサッ!!と華のボブヘアが風でなびく。
目の前にいるのは青いシャツの男が大男の傍で膝をついていた。
アカデミアンだ。
アカデミアンは軽くデコピンするように水を弾くと破裂するように水を吹き飛ばした。
大男「ぷっはぁ!!?はぁ!はぁ!」
と…大男は一気に空気を吸う。
アカデミアン「ゆっくり…ゆっくりだ…」
アカデミアンはそんな大男を見ながらゆっくりたち上がり後ろ手を組む、そして華の方へ振り返る。
アカデミアン「君がこれを?」
華「っ…」
華は心臓がドキッとした、朝の集会の時と違った表情、声のトーンだった。
華「それはっ…そのっ…違くて…えっと…」
アカデミアン「リラックスして…118bpmは落ち着いてると言えない」
その時初めてアカデミアンはあの時と同じ微笑みを向ける。
アカデミアン「君が彼を助けたのは知ってる…」
アカデミアンは手を華の肩に乗せて華に合わせて姿勢を低くする。
そして少し小さな声で。
アカデミアン「細い骨が折れる音が遠くから聞こえた…駆けつけたよ、状況はすぐに理解した…君が助けたんだよね?」
アカデミアンは大きく目を開いて続ける。
アカデミアン「君は…一年生…初日で人を救った、良い行いさ…後は…任せて…」
そう言うと大男の方に向き直り軽々しく男を丁寧に持ち上げてはゆっくりと歩いて去っていった。
「す…すげぇ…アカデミアンって近くで見るとあんなんなのか」
と呟く生徒もいた。
トントン…と背後から肩を優しく叩くサイト。
サイト「すげぇよ…お前…」
と呟いて顔を紫に腫らした男に近付いて手をかざす。
細い男の傷が少しずつ治っていく、裂けた唇もゆっくりとくっついていく。
細い男「っ…う…うお…何これ…」
サイト「心配すんな…治してんだよ…ってか…お前自己再生とかねぇの?」
そう呟きながら1分かけて全治させるのだった。
…
ー夕方ー
学校外、オレンジの缶を持って川近くの芝生の坂で座っている三人。
サイト「初日からすっげー日だったなぁ…」
細い男は缶に入ったオレンジジュースを飲みながら少し気弱に言う…。
空「…今日は…ありがと…あ…俺…空って言うんだ…よろしく…」
サイト「空かぁ…よろしく…」
サイトはゆっくりと背中を芝生に近付け横たわる。
サイト「ふぅ…な、華…華?」
華は無言で夕日を眺めていて、遅れて反応する。
華「ん…な…何?」
サイト「いや…何かボーッとしてるからさ…あ…華って名前らしいよ」
サイトは空を見て華の代わりに紹介する。
空「そっか…よろくね!華ちゃん!」
空は微笑みを浮かべる。
華はぎこちない笑顔を返して「うん…」とだけ呟く。
…
一方…学校の生徒会室、豪華な部屋だった、普通の高校と違って生徒会の人間は能力が高いため生徒会室もかなり豪華なのだ。
部屋の四つ角に本棚、そして茶色い革のソファー、部屋中央の端、窓の前には茶色い木の机、茶色木と赤いフカフカのクッションの椅子、そこに座っている理沙、その横後ろにアカデミアンは手を後ろに組み立っていた。
理沙「君…一年生だね…学校初日で暴れちゃったんだ?」
理沙は微笑みながら目の前の椅子に座った大男に目をあわせている。
大男「っ…うるせぇよ…クソ女…」
アカデミアン「…。」
アカデミアンが少し足を動かそうとする瞬間。
理沙は手を上げて止まれと無言で指示をする、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がっては目の前にいる大男の前に立つ、そして後ろに手を組んでサーモンピンク色の目を光らせる、反射でもなんでもない…むしろ光りは彼女の背中を照らしている、そんな中彼女の瞳が淡いピンク色に光っていく。
理沙「ねぇ…聞いて?」
続く。




