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ベストフレンド  作者: ROSE


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3/9

2 身勝手な考え

 古城の朝食がどんなものかと少し期待してしまっていたが、なんてことはない。有名メーカーのコーンフレークとインスタントのスープ、それにベーコンと目玉焼きに申し訳程度の生野菜が添えられていた。

 てっきりダイニングルームにでも呼ばれるのかと思えばキッチンに折り畳みの椅子を持ち込んでそのまま食事をしているらしい。

「この家を建てた人は頭がおかしいよ。キッチンからダイニングルームまでどれだけ距離があると思う? スープが冷める距離だ」

 アンバーは冗談のように口にするが、本当にうんざりしているらしい。

「引っ越そうと思ったことは?」

「毎日思ってるよ」

 アンバーは笑う。

 それが冗談なのか本心なのかはダニエルにはわからなかった。

 アンバーはテーブル代わりの調理台に置かれた皿の上でプチトマトをフォークの先で転がしながら「それで?」と訊ねる。

「訳ありっぽかったけど、君って犯罪歴とかあるの?」

「えっと……未成年飲酒とクラブでの補導が数件……?」

 どうしてかアンバーの晴空の様な瞳に見つめられると隠し事ができないような気になってしまう。

「ふふっ、君、嘘とか苦手そうだね」

 アンバーは面白そうに笑って、手だけでベンを呼ぶ。

「これ、警戒する必要ある?」

「旦那様、大雑把にも程があります」

 ベンは呆れかえっている。けれどもそんな主には慣れているといった様子だ。

 アンバーは全く気にしない様子で、プチトマトを皿の端に移動させた。どうやらトマトは嫌いらしい。

「事情を聞くって言ってた気がするけれど、話したくないなら別にいいよ」

「え?」

 ダニエルは耳を疑う。

「居たいなら好きなだけうちにいてくれていいし、出て行きたいならすぐに出て行っても構わない」

 それはなんだかとても冷たいように思えた。

 アンバーは行き場がなくて困り果てていたダニエルに手を差し伸べてくれた恩人だが、こうやってお前の事情には全く興味がないという態度を取られるのは寂しく感じる。勿論、それはダニエルの身勝手な考えだ。

「仕事が見つかるまでの間居させてもらえるとありがたいけど……いいの?」

 ダニエルが訊ねれば、アンバーは笑う。

「仕事探すの? なら、うちで働く? 人手が足りていると言えば足りているけれど、足りていないと言えば足りていないから」

 そう言うアンバーはどこかいい加減だ。

「僕のために無理に仕事を作ろうとしてくれているなら考え直して欲しい」

 そもそも素性の知れない人間をほいほい自宅に泊めてしまうこと自体が問題だ。

 どうもアンバーには警戒心が足りない。

 詐欺に遭ったダニエルが言えることではないが心配になってしまう。

「いや、人手が欲しいと言えば欲しい。この屋敷を見てくれ。広すぎる。なのに使用人は二人。掃除や修理が間に合わない。どんどん老朽化が進んでいってしまうよ。デラに楽をさせてあげたいのだけど、メイドを雇ってもすぐ辞めてしまってね。あまり噂好きでないなら君を雇ってもいいな」

 人事はベンの管轄だけどね。と悪戯っぽい笑みを見せられる。

 アンバーは不思議な人だ。少年のようにも少女のようにも見えるが、実年齢はそれよりも上だという。子供のまま時間を止めてしまったかのようだ。

「よろしいのですか? 旦那様」

「一人くらい余分に雇っても問題ないだろう? 日給はこのくらいか?」

 アンバーはメモにペンを走らせベンに見せる。

「相場はこの辺りかと」

 ベンはアンバーのメモに書き加えた。

「君の賃金から考えるとこのくらいが妥当かと思うけど」

 アンバーが更に書き加える。

 どういうわけかダニエルの採用は既に確定しているらしい。

「我が家で働いてもらうならあまりに低賃金というわけにもいかないだろう? 天国の母上が嘆かれる」

 アンバーの言葉にベンはため息を吐く。

「仕事をこなせないのであれば私の権限で解雇致します」

「そうしてくれ。ダニー、職は見つかったぞ。宿もそのまま部屋を使って構わない。あとは食事だが……料理は得意?」

「あー……簡単なものなら。でもテイクアウトの方が多いかな?」

「そう? 料理してくれるなら食費は要らないと言おうとしたけど……」

 アンバーは新しい紙にペンを走らせた。

「日給がこれ、家賃と食費をここから差し引いて……こんな感じかな?」

 見せられた紙に驚く。

 単位を間違えていないだろうか?

「こんなに?」

 前の職場より賃金が言い上に、家賃と食費を遭わせたって一番安い宿よりもさらに安い。

「アンバー、君は相場というものを知っている? この条件はおかしい。待遇がよすぎる。僕を海外にでも売り飛ばすつもり? それとも寝ている間に臓器を売られるとか?」

 詐欺に遭ったばかりだ。警戒もしたくなる。

 しかしアンバーは笑い出す。

「ははっ、まさか! 僕ってそんな悪人顔?」

 アンバーは腹を抱えて笑い、とうとう涙まで浮かべている。

「金持ちの道楽だと思ってよ。これでも金はあるんだ。屋敷の修繕をめんどくさがっているだけで」

 面白そうに笑いながら、アンバーはベンに契約書の準備を命じる。

 読めない人間だ。

 悪人には見えないが、彼が誰かに利用されてダニエルを騙すかもしれないと考えてしまう。

 差し出された契約書を隅々まで確認しても好条件しか記されていないことを不審に思うが他に行き場もない。

 ダニエルはまだ警戒を解ききれないまま書類にサインするしかなかった。

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