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ベストフレンド  作者: ROSE


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1 ジェットコースター級の一日

 ダニエルはゲイだ。

 幼少期から人と違うことに悩んでいたし、そのせいで両親とも拗れてしまった。

 何度も補導歴がある。

 同類の集まるクラブに年齢を詐称して侵入していたせいだ。

 成人前に家を抜け出し、クラブに入り浸るような生活をしていたらそこのオーナーに誘われ自分の店を任されるまで成功した。

 オーナーは去年病気で亡くなってしまったが素晴らしい人だった。

 ダニエルの店はそれなりに繁盛していたし、二号店もまあまあ軌道に乗ってきていた。

 そんな中だ。

 運命の人に出会った。

 ジョージ。

 彼は店の客だった。

 お互い過去は知られたくないことがたくさんあると現在しか見ない関係だ。

 彼はダニエルをとても大切にしてくれた。

 つまり、キスまでの関係で、それでもプロポーズしてくれた。

 結婚して一緒に住もうと。

 店も売って新居の購入費用に充てた。

 自宅も売った。

 金をすべて彼に渡してしまった。

 そして、仕事も辞めてしまっていたのだ。

 彼の家に泊まって数日過ごしていたが、彼が戻らなかった。

 そして、大家らしき人に追い出された。

 どうなっているのか。

 ジョージに電話をかけても使われていない番号とアナウンスが流れる。

 他の連絡先も住所も知らない。

 そこでようやく気がついた。

 詐欺に遭ったのだと。


 ダニエルはすべてを失ったのだ。




 雨の中出会った優しい少年は泣きじゃくるダニエルの扱いに困ったのだろう。

 タクシーを呼んでダニエルを押し込むと自分も隣に乗り込んだ。

「君、名前は?」

「……ダニー」

「そう、ダニー、僕はアンバー。君をどうしたらいいかわからないからとりあえず僕の家につれていくけどいい? 君にはまずお風呂と睡眠が必要だ。文句は明日の朝にでも聞くよ」

 アンバーと名乗った少年はそう言って、運転手に町外れの住所を告げる。

 見ず知らずの人間を自宅に連れ帰って親に怒られないのだろうかと心配になってしまうが、何も持たないダニエルは感謝しかない。

「君の家族は……僕を連れ帰って怒らない?」

「心配ないよ。家族はいない」

 その言葉に驚く。

 見知らぬ他人を拾って連れ帰るなんて。

「僕が……危険だとは思わないの?」

「そのときはそのときさ」

 アンバーは笑う。

 可愛らしい少年はとても心優しいと思うと同時にどこか危う気に感じられ、不安になった。




 アンバーの家は豪邸を通り越した古城だった。

「……本当に、君の家?」

 映画のセットと言われた方が信じられるような立派な門。建物も凝った装飾が施されてはいるが老朽化がかなり進んでいるように見える。

「ああ、古くて部屋数が多いだけの不便な家だよ。ネットが繋がりにくいんだ。ほんと、不便」

 アンバーは今どきの若者らしい悩みを口にして玄関を開ける。

 中はリフォーム済みなのだろう。外観ほどの老朽化は感じられないが、それでもレトロな雰囲気のエントランスが広がり、間引きされた薄暗いシャンデリアがぼんやりと照らしている。

 アンバーは慣れた様子で右に曲がり、扉開けた。

 応接室なのか談話室なのかはわからないが高価そうな家具が並んでいる。

「戻ったよ。客人がいるんだ。お風呂と着替え、それと部屋をひとつ用意して」

 家族はいないと言ったのに、入るなり指示をする。

「旦那様、客人がいらっしゃるなら事前に連絡をください」

 困り果てた表情の男性はアンバーの父親くらいの年齢に見えるが態度からして使用人なのだろう。

「ごめん。忘れてた」

 アンバーは少年らしい笑みを見せる。

「えっと……お世話になります。ダニエルです」

 使用人らしき男性に挨拶する。

「使用人頭のベンと申します。と、言っても他に家政婦が一人と庭師しかおりませんが」

「……アンバーはいいところのお坊ちゃんだったのですね……」

 そんな子に拾われてしまったのかと驚く。

「アンバー様はよく子供と間違えられますが25歳です。当家の主人でございます」

「なっ……すみません。てっきり声変わり前の少年かと……」

 3つしか変わらないではないか。

「いいよ、慣れてる。ほら、ダニーに早くお風呂用意して。風邪を引いてしまう」

「はい、直ちに」

 アンバーは人を使うことに慣れている様子だ。

 ジャケットを椅子の背に放り投げ、それから長椅子に寝転ぶ。

「広いだけで不便な家だけど寛いで」

「あ、いや……本当に世話になっていいのですか?」

「うん、事情は明日でもゆっくり聞こうかな。遅めの朝食で」

 アンバーはあくびをする。

「ごめん、あとはベンに任せてもいいかな? こんな時間まで起きてるの滅多になくて」

 彼の言葉に時計を確認すればすっかり深夜だった。



 案内された部屋は高級ホテルの一室のようだった。

 客室なだけあってリフォーム済みらしい。

 年代物のバスルームもよく手入れされており、修繕の形跡がいくつもある。

 家具も年代物のばかりだが上品さを感じさせ、陰鬱さはない。

 ダニエルは真っ先にシャワーを浴び、それから湯船で少し温まった。

 着替えに真新しい絹の下着とパジャマを用意されていたことには驚いたが、他になにも持っていないのでありがたく借りる。

「他に必要なものがございましたらそちらのベルでお呼びください」

「いえ、ありがとうございます」

 ベンに礼を言い、逆に申し訳なくなってしまう。

「こちらに滞在する間、ひとつだけ約束して頂きたいことがございます」

「はい」

 思わず姿勢を正す。

「決して、旦那様の私室には立ち入らないようにしてください」

 ベンは真剣な表情だ。きっとダニエルを警戒しているのだろう。

 アンバーとは親子ほど離れているように見える。たとえアンバーが実年齢よりかなり若く見えるとしても、ベンは彼が幼い頃から仕えているに違いない。

「約束します」

 世話になっている身なのだから勝手に出歩いたりもしない。

 ただ、もしもアンバーの許しをもらえるなら日雇いの仕事だろうと最初の賃金、つまりどこか他の場所に宿泊できるだけの収入を得るまでここに滞在させてもらいたい。

 なにせキャッシュカードすらジョージに渡してしまっていたのだ。

 盲目過ぎた自身を恨みながら、方角すらわからないアンバーの部屋を拝みたくなる。

「アンパー様は僕の恩人です」

「ふふっ、昔からよく動物を拾うお方ではありましたがまさか人間を拾ってくる日が来ようとは」

 ベンは朗らかに笑う。

 どうやらあまり気難しい人ではないらしい。

「今夜はゆっくりとお休みください」

「ありがとうございます」

 退室するベンを見送り、ダニエルはダブルサイズよりもやや大きそうなベッドに横たわった。

 人生何が起きるかわからな過ぎる。

 今日という日はジェットコースター級だったなと思い、これ以上の不運はないように祈った。

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