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昼休憩終了10分前。



わたしは桐生の肩に担がれたまま、研究室前に到着した。


「桐生、おろしてくれ」


「なぜだ? まだ10分あるだろ」


桐生は、ジャガイモ袋のように肩に担いだ私を、そのまま回転させる。


視界が円運動を開始する。


ぐるんぐるんと、三回転。


内耳の平衡感覚が乱れる。


「……警告する」


「お?」


「このまま回転を継続した場合、三十秒以内に嘔吐反応が発生する確率が高い」


桐生が固まる。


「君の頭部へ放出される可能性が最も高い」


「マジか。それは困るな」


桐生は即座に、わたしを床へ降ろした。


足が地面に接触する。

重力が安定する。


視界の揺れが収束するまで、2.4秒。


「……回復した」


「お前、本当にやりかねない顔してたぞ」


「やる、やらないではない。発生する」


桐生はしばらく私の顔を見てから、吹き出した。


「すまん貧弱ちゃん、悪かったよ。もう大丈夫そうか?」


「君の悪口語彙の蓄積量に驚いている」


桐生が少し真面目な顔で、私に話す。


「今日な、夜襲警報があるかもしれないから……」


「そうか。では、待機する」


「何時になるか分からないんだぞ?」


「構わない。ヒアラブルデバイスの通信を切断しないでほしい。

君の位置情報と生体ログが取得できれば、行動修正が可能になる」


わたしは桐生の顔を見つめる。


「……観測できる状態を維持してくれ」


桐生は、少し辛そうな顔をしている。


「……お前、嫌がってもいいんだぞ?」


「どうしてだ?」


桐生は言い淀んだ。


「お前、動物好きだろ?」


「好き嫌いと、人命救助の優先度は比較対象にならない。

それは合理的ではない」


彼は少しだけ視線を逸らした。


空中都市の下層。


+10〜9空域。

防衛ラインの外縁。


変異生物が都市へ接近してくる高度帯だ。


桐生はそこへ出る。


特殊スーツとドローン部隊と共に、迎撃任務に入る。


私は数秒考えた。


「わたしは研究員だ。

戦場への侵入は許可されていない。

直接戦闘には参加できない。」


「分かってる」


「だが戦闘行動の最適化は可能だ。

センサー情報を共有すれば、回避経路と行動指示を送れる。


SEALの情報は広域最適化を目的としているため、

個体の生存を最優先にしていない。


よって、私が介入した方が生存率は上昇する」


桐生は何も言わない。


私は続ける。


「過去任務の行動ログを参照した場合、

君の判断は接近傾向が強い。危険域へ踏み込みすぎる」


「……」


桐生は黒い髪を掻き分ける。

落ち着きがない。


「遠距離誘導を優先するべきだ。


わたしが監視すれば修正できる。


君はわたしが見てる前では、

馬鹿な行動を控える傾向がある」


桐生は鼻の頭を指で掻き、視線を逸らしたまま言う。


「ナズナ。お前……」


「……?」


私は自分の発言を再確認する。

内容は戦術提案だ。誤りはない。


桐生は、困ったように笑った。


「お前さ、他の隊員にも同じことするのか?」


「しない」


答えは即座に出た。


私は一拍置いてから続ける。


「必要がないからだ」


「他の隊員の行動パターンは標準偏差の範囲内に収まる。

だが君は外れる。


したがって個別監視が必要になる」


桐生はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「そっか」


彼は顔を上げる。


「よーし。おじさん、ちょっとやる気出た。今日は頑張るぞ」


「頑張る必要はない。君は頑張ると、結果が悪化する傾向がある」


「いいや、今日はかすり傷一つなく帰ると誓う」


私は数秒考える。


「……それは、君の家で見たアニメの“死亡フラグ”だ」


「よし!」


「喜ぶな」


私は言葉を選び直す。


「負傷は許容する。装備の損壊も許容する。

任務の失敗も許容する」


桐生がこちらを見る。


私は続ける。


「だが――100%帰還は必須だ」


沈黙。


私はなぜこの条件を付けたのか説明できない。


戦術上、完全帰還を前提にするのは合理的ではない。


それでも、修正する気は起きなかった。


「……傷だらけでも構わない。治療は私が行う。

だから死ぬ気で戻ってこい」


桐生の目が少しだけ見開かれる。


「お? それヒロインのセリフじゃん」


「参考にした。これで死亡フラグは完全に折れた」


桐生はしばらく黙ってから、笑った。


「ナズナ」


「何だ」


桐生はいつものように笑う。


「……絶対帰るわ」


「当たり前だ。わたしが戦闘指示を出すのだから、戻るに決まっている」



――数時間後。


研究室にいた私の元に、

汚染生物の襲撃による夜襲警報が作動した。


防衛ライン外縁にて複数反応を確認。


わたしは、髪を一つにまとめて、

モニターに映る戦闘ドローンユニットに指示を送る。



「おはよう。君たち、今日もよろしく頼む」



表示されたモニター



SG-02《ゴリラ》<<特別装備準備・待機>>


<<UNIT-03 : 待機>>


<<UNIT-05 : 待機>>


<<UNIT-07 : 待機>>


<<UNIT-12 : 待機>>


<<UNIT-18 : 待機>>



<<ドクターナズナ。おはようございます>>


<<戦術情報解析および、戦闘支援指示をお願いします>>


空域戦闘開始予測時間まで、およそ40分を切っていた。



~ふんわり観察メモ~


空中都市のさらに下層、

+10~9空域。


都市防衛ラインの外縁。

汚染環境で変異した生物群が、

都市へ接近する高度帯である。


彼らが、なぜ空中都市を目指して

攻撃してくるのかは――

現在も解明されていない。

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