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Log:63 宣告

Log:63 宣告


「あなた、死になさいよ」


わたくしは人差し指を突きつけたまま、目の前にいるナズナを見下ろしていた。

何も持たない、最下層の人間。


隠し持っていた紫色の小さなガラス瓶を握る手に、思わず力がこもる。


(まだ負けてはいない。わたくしは、まだ……)


そもそも、誰にもわたくしの敗北を決める権利などないのだ。


わたくしは西園寺なのよ。


誰よりも優れた血統を受け継ぎ、誰よりも恵まれた環境で育ってきた。

それなのに、今は何も残っていない。

あまりにも滑稽な現実に、思わず笑いがこみ上げてきた。


「……ふふっ。わたくしを嘲笑いたいのなら、そうしなさい。わたくしの世界を崩壊させておきながら、それでも何も感じていないというのなら、お前はやはり欠陥人間でしかないわ」



ナズナはほんの少し首を傾げた。


「他責が酷いな……。貴方の世界が崩壊した原因は、私ではない。貴方自身が下してきた判断と、その結果として積み重なった行動にある」


「私が貴方の立場なら、もっと時間をかけて桐生を籠絡する。十分な資本と権力を持ちながら、短絡的な行動を繰り返したのは、抑えきれない激情に支配されていたからだろう」


「そして、私は貴方にほんの少しだけ同情しているよ。私たちは幼少期に、それぞれ孤独と理不尽に耐えてきたのだから」


ナズナの言葉を聞いた瞬間、抑えきれないほどの怒りがこみ上げてきた。

(このわたくしに、同情?)



よりによって、最下層の人間であるお前が、このわたくしを憐れんでいるというの?


「ナズナ。お前は、自分が誰よりも賢いと思っているのでしょう?」


「その認識は正確ではない。私は自分の能力を評価しているが、他者より常に優れているとは考えていない」


「……そう」


わたくしはひどく歪んだ笑みを浮かべると、小瓶の蓋を開け、その中身を一気に飲み干した。


「この部屋には、あと数分で致死性の毒ガスが充満するの。わたくしが今飲んだのは、その毒ガスを無効化する薬よ。だから、わたくしだけは助かるの」


わたくしは堪えきれず、高笑いした。

「お前が苦しみに悶え、床を這いずり回りながら死んでいく。その惨めな最期を、わたくしがじっくり眺めてあげるわ」


カチッ、カチッ――。


遠隔操作用のスイッチを押す乾いた音が、静まり返った室内に響いた。

しかし、ナズナは表情一つ変えず、ただわたくしを見つめている。



そして、何の感情も宿していないような声で告げた。


「すまない、西園寺……。毒ガスの噴射装置は、すでに回収済みだ。貴方が私との対面場所を指定した時点で、何かを仕掛けている可能性が高いと予測していたからね」


「貴方の行動原理には、常に私への強い憎悪があった。だから、今回の行動も予測するのは難しくなかったよ」


「そして私が貴方と対話したいと言ったのは、実は嘘なんだ」


ナズナは淡々と言葉を続けた。


「我々にとって最も厄介なのは、貴方に逃亡されることだった。残された資金があれば、世界のどこかへ逃げ延びることも可能だっただろう。だから、私はあえて貴方を挑発したんだよ。貴方なら、必ず私の前に姿を現すと考えていたからね」


「それに……私も少し、怒っていたからね」


ナズナは相変わらず、何の感情も読み取れない表情をしていた。


「もっとも、貴方が逃亡を選んでいたなら、私(・)は(・)追わなかった。それくらいには同情しているんだよ」

「だが、貴方はここに来てしまった。そして、私を殺そうとした」


ほんの短い沈黙が落ちた。


「自業自得だね」




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