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Log:60 反撃開始

Log:60 反撃開始


大通りから聞こえていた銃声は、完全に止んでいた。

代わりに響いているのは、スラムの住民たちの歓声だった。

武装集団は撤退し、負傷者の救護が始まっている。


「スラムキング万歳!!」


「酒持ってこい! 今日は宴会だぁぁ!!」


「お前さっき逃げてただろうが!」


「うるせー うるせー! 戦略的撤退だ!!」


どうやら、彼らはすでに祝勝会を始めるつもりらしい。


私はエレファントから送られてくる戦闘記録を確認した。

負傷者はいる。


戦闘の痕跡は至るところに残されていた。

砕けた壁、焼け焦げた路面、放置された武器。


つい先ほどまで命の奪い合いが行われていたとは思えないほど、住民たちの表情は明るい。

勝利を喜んでいる者もいれば、負傷した仲間を担いで運ぶ者もいる。


私は、その光景をしばらく眺めていた。


今回の襲撃は終わった。

だが、西園寺が諦めたわけではない。


むしろ逆だ。

資産を失い、自由に使える資金を消費し、

それでもなお私を排除するために武装集団と殺し屋まで用意した。


合理的な損切りができていない。

このまま防御を続けても、同じことが繰り返されるだけだ。


ならば――こちらから終わらせる必要がある。


私は端末を開いた。

今回のチャリティ活動には、膨大な記録が残されている。


正式な許可を受けた活動への度重なる監査。

桐生と私を分断するように発生したシステムアクセス障害。


直後に流された、私を危険人物とする放送。

そして、『テロリスト捕縛命令』を所持した武装集団。


私を殺害する依頼を受けたエイトもいる。

これだけの事象が同じ方向を向いている以上、偶然として処理することは難しい。


「ナズナ」


顔を上げる。桐生がエイトを拘束して、立っていた。


「何してんの?」


「反撃の準備だよ」


桐生の眉が僅かに上がった。

私は再び端末へ視線を戻す。

西園寺は、私をテロリストにした。


ならば最初に訂正すべきことは、一つしかない。

私は、テロリストではない。



◇


私は、スラムに設置されているSEAL公式放送のカメラの前に立っていた。

今回の事件について、説明するためだ。


「これは、チャリティ活動開始から武力衝突が発生するまでの記録だ」


モニターに大量のログが表示される。追加監査。

システムアクセス障害。危険人物としての注意喚起。

そして、捕縛命令。


それぞれが発生した時刻も、記録として残されている。


「すべてを説明すると時間がかかる。重要な部分だけ話そう」


私は時系列の一部を拡大した。


チャリティ活動中、桐生だけを対象とした追加監査が行われ、私たちは分断された。

その直後から、状況は急速に悪化している。


「そして、私はテロリストではない。この場を借りて、

私に対する捕縛命令に正式に異議を申し立てたい」


カメラを正面から見つめる。


「今回の一連の事象について、残された記録を照合した。

その結果――すべての条件に該当する人物が、一人いる」


名前を公表することもできる。

しかし、今はその必要はない。


「現時点で、その人物の名前を公表するつもりはない。

私はまず、その人物との対話を望んでいる」


そのための機会も用意する。

相手が応じるのであれば、そこで話せばいい。


「ただし、一定期間内に応答が得られなかった場合、

これ以上の対話による解決は困難であると判断する」


私は手元の端末を閉じた。


「その場合、私が保有する犯罪行為に関する証拠は、然るべき機関へ提出する」

「私は冗談が好きだが、今回はその類ではないと付け加えておこう」

「――仮に、その人物が強い権力を有する者であったとしてもだ」


それで話が終わるわけではなかった。

SEAL公式放送のアナウンサーからは、その後も今回の事件についていくつもの質問が続いた。

私は答えられる範囲で、一つずつ事実を説明していく。


「ナズナ博士。一点、確認してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」


「先ほど『すべての条件に該当する人物が一人いる』とおっしゃいました。

その人物が誰なのか、本当に公表するおつもりはないのでしょうか?」


「現時点では、その必要はないと判断している」

「では、その人物が対話に応じた場合は?」


「話をする。それだけだ」

「……犯罪行為に関する証拠をお持ちなのですよね?」


「それを公表すれば、少なくともその人物にとって、非常に都合が悪いことは確かだ」


「それでも、まず対話を? 公的機関に任せてしまったほうがいいのでは?」


「証拠を提出すれば、あとは然るべき機関が判断する。

そうなれば、その人物と自由に話せる時間は限られるだろう?」

「だから、その前に一度だけ話がしたい」



私は、自ら剣を抜いた。

これ以上、自分の身を守るだけでは終わらせない。

私の居場所と、大切な仲間を守るために。


――今度は、こちらの番だ。


「お互いに非力な者同士だ。これまでのように駒を前に出す必要もない。

今度は直接、有意義な対話ができることを望むよ」

「私は論理を交わすことには自信があるんだ。ぜひ、君自身の言葉を聞かせてほしい」



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