第二十二話 ビスマルク杯の観客たち
【フランク王国の国民視点】
食堂で心が温かくなるご飯をいただき、宿に戻ろうした時だ。
「お前さんたち、そのまま宿に戻るのか?今から新たに作られた地下8階にて面白い催しが開催されるんだが、良かったらどうだ?いや、別に休みたいなら止めはしない」
ほとんど金も持っていない俺たちに温かい食事を無償で提供してくれたこの店の店長と名乗るオッサンに言われ、お祭りで沈んだ気持ちが少しでも前向きになったら良いなと思い、俺たちはぞろぞろとエレベーターと言う動く箱に乗って、地下8階に降り立った。
「何だかオークション会場みたいだな」
「あぁ、こんなところ俺たち一般市民には縁のないところだと思うんだが」
「取り敢えず、空いてる席に座るか」
このようなやり取りを交わした後、椅子に腰をかける。
このダンジョンのオーナーを名乗る兎のような着ぐるみを着た怪しげな人の進行で、馬を競り落とすオークションが始まった。
何だ金持ちの道楽でも見て俺たちに楽しめって?
この時点で席を立とうとする者もいた。
俺もそうだった…次の言葉を聞くまで。
「では、小銅貨1枚からスタートしましょう」
はっ?
馬に良く似た魔獣が小銅貨1枚?
このダンジョン内限定の馬主?
この後にレースがあって、入賞できれば賞金まで貰える!?
俺と同じように席を立った人が我先にと席に座り直し、オークションに参加していく。
「金貨一枚なのです!」
はっ?
いきなり吊り上げすぎだろ!
とそちらの方を見ると俺の住む国の友好国の王女様が手を挙げていた。
そうか…そうだよな。
小銅貨1枚で競り落とせるなんて甘い考えだよなとこの時は思い直した。
だが、小銅貨5枚の馬も居たら銀貨5枚の馬もいて、王族の皆さんは俺たちが競り合える金額じゃない値を言って俺たちの負担を減らしてくれている事が分かった。
まぁ、俺が唯一持ち出せたなけなしの小銅貨1枚だけじゃ競り落とさなかったのだが、夢を見させてもらえただけ有難いと思おう。
友人を無くし、落ち込んでいた気持ちもいつの間にか忘れていて、すっかりオークションに熱中していた。
今だけはこの鬱屈な気持ちを忘れて思いっきり楽しみたい。
「馬の名前は馬主が決めるのか…」
「あぁ、それにしても魔獣でこのダンジョン内限定と言ったって小銅貨1枚からスタートなんて、普通のオークションじゃ考えられないよな」
「だいたい貴族の遊びだから最低でも小金貨スタートだからな」
「それよりも馬レースって事は賭け事もあるんだよな?」
「それはこのダンジョンのオーナー様の発表を待つしか無いんじゃ無いか」
「確か兎の着ぐるみを着た」
「そもそも、アレは着ぐるみなのか?」
「そうか、ここってダンジョンだったな」
俺たちは馬主さんたちがオーナーとやらに呼ばれて、馬の名前を決める間、集まってくだらない話をしていた。
「お集まりの皆様、もうしばらくお待ちください。先程、坊ちゃ…ゴホン。失礼しましたオーナー様より、惜しくも馬を落札できなかった皆様にもこの後、素敵なチャンスがありますとのことです。そのチャンスとは、馬券の購入です!どの馬が一位になるのかを予想する単勝馬券と一位から三位までに入る馬を当てる複勝馬券です。どちらも小銅貨1枚から買うことができますので、ご参加をお待ちしております」
いかにも貴族に仕えているであろうメイド姿のねぇちゃんに言われるまま、俺たちは待ち、やがてオーナーが姿を現すと馬紹介が始まった。
このタイミングで馬券の購入もスタートし、受付のリザードマンの元に人が殺到。
リザードマンと言う魔物に人が群がって馬券を買う異様な姿に俺を含めた誰もが笑っていた。
俺は16番人気のプロイセンウオッカに小銅貨1枚を賭けた。
初めて見た時からめちゃくちゃ走りたそうにしているこの馬に一目惚れだった。
俺の直感は良い方だと思う。
仲間たちは高額で落とされた馬の方が強いのだろうとそちらに賭けていた。
「間も無く第一回ビスマルク杯の発走です!」
オーナーの言葉に会場の皆んなも息を呑む。
俺たちの夢を乗せた馬たちが走るのだ。
その前に馬の手綱を握る鼠型の魔物たちが紹介された。
俺の推し馬プロイセンウオッカの鞍上はタケチュウと言うネズミジョッキーだ。
あんな鼠型の魔物が手綱を握ったくらいで馬の能力に差異はないように思う。
「スタートしました!」
俺の推し馬プロイセンウオッカは、最後尾だ。
最初から飛ばす馬なんて…いるわけ。
いやいやいや、とんでもねぇ速さで飛び出した馬がいるんだが!?
いやオーナーさんも大方の予想通りって、誰も予想してないんだわ!
ていうか、これはもはや一方的な展開というやつなのでは?
もうすぐ、レースの半分を終わってしまう。
俺の直感なんて当てに…。
「おーっと!ここで、先頭に動きが!」
嘘だろあんなに元気だった馬がどんどん失速して…キタキタキタ!
「いけープロイセンウオッカ!」
俺は推し馬がグングンと速度を上げてることに興奮して名前を叫んでいた。
「おい!プロイセンチュリー!とっとと前に出ろ!」
「おいおいおい、ここで沈むなんて嘘だろ嘘だと言ってくれよママパパサミシイヨ!」
俺が声を上げたあたりから周りの奴らも声を上げるようになった。
「さぁ、勝負は最後の直線だ!」
俺の推し馬プロイセンウオッカはまだ一位を追っている。
その少し前にオーネスト、前には粘るアンナダイスキー。
「いけ!いけ!差せ!差せーーーー!!!!」
今のはすごく際どかったのでは?
全員が写真判定で映し出されたモニターを固唾を飲んで見守る。
「一位は、プロイセンウオッカ!2位にアンナダイスキー!3位にオーネスト!」
お、俺の小銅貨が214枚に増えるのか?
えーっと大銅貨1枚と中銅貨10枚と小銅貨4枚、1年間遊んで暮らせる金額を1夜にして手にしてしまうなんて…馬レース最高かよ!
ここまで、お読みくださりありがとうございます。
少しでも続きが気になると思っていただけましたら評価・良いねしてくださいますと執筆活動の励みとなりますので、宜しくお願いします。
それでは、次回もお楽しみに〜




