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(更新6)

【ヴィーシャ】


「それでは時間も押し迫っておりますし、本日の研究会を終了します」


ガヤガヤと部屋を出ていく魔法使い達。


回復魔法の研究会はまだ続いていた。とはいっても最近は後進の育成だとかに話題がずれている。


「そろそろこの研究会もお開きにするべきかもしれないね」


座長である叔父様が言う。


「そうね叔父様、回復魔法の研究会としては終わりでいいと思いますわ」


「ん?と言うと?」


「他の魔法について、折角別系統の魔法使いがこれだけ集まっているのですから、交流の場を持つのは悪い考えではありませんわ」


叔父様が驚いた様に私を見る。


「ほぅ?ヴィーシャ、最近は角が取れて丸くなったものだね。まだ若いのだからもっと尖っていてもいいと思うけど?」


「…確かに新しい魔法を独りで発明する栄誉は魔法使いなら誰でも欲しいものですわ」


しかし自分だけで研究をした場合、新しい魔法の開発は遅々として進まない。


独り善がりで無理をするより、他者と交流を深める方が進捗は早いし、魔法使いという業界全体の益になる。


…と叔父様に話した。


「うん、いい視点だ。やはりあれだね、君は冒険者仲間との交わり、特にガンズ君から良い影響を受けているね」


「…そうでしょうか?」


「少し前まで君は『我、我が道を往く』って態度だったじゃないか?他の魔法使いと意見を交わしたいと考えた事があったかな?」


なるほど、言われてみればそうなのかもしれない。


「確かに。ガンズからの意見や疑問には驚かされます」


いい兆候だと叔父様は笑った。


「ではそのうち僕の研究室に遊びにおいで、ガンズ君と一緒に。彼とは合成生物の件でまた話がしたいからね」


「伝えますわ…でも叔父様の研究室ってダンジョン最下層でしょ?」


…どうやって行けと?


「あ~、それはグスタフ君に訊いてくれればいいよ」


……誰?


「叔父様、グスタフ様というのはどなたですか?」


「ん?毎日の様に顔を合わせているだろう?」


「いえ、存じません」


「ん?んん?……おかしいなぁ…あ?もしかして本名知らない?料理長だよ、サウルが熊、熊って呼んでるだろ」


厨房に居るあの体格のいいライカン?


「あの方がグスタフ…初めて聞きました。でもあの方が叔父様の研究室を何で知っているのです?」


「だって料理を出前してるもの」




────────


生あくびを一つ、しょぼつく目を擦りながら窓の外を見れば朝陽が射し込んでいた。


研究書を読み更けってまた徹夜になったらしい。


ヴァンパイアは元々夜型なものだから昼間よりはかどるのよね。


ノラを起こさない様に部屋を出て、朝陽を浴びながら背伸びをした。


首が凝っている。


ふと、目を向ければ、朝陽を背にザップが通りからやってきた。


「よぅヴィーシャ、早いな…何だまた徹夜か?色気無ぇなぁ」


ザップからうっすらと甘い香りが漂う。


「…おはようザップ。貴方は朝帰り?……この匂いはヒューマンね、いつもの幼馴染みさんかしら?」


「おぉ怖っ!匂いで相手を特定すんなよ、心臓に悪いや」


ザップが所謂『その手の女性』のところに行くのはいつもの事。毎回相手が違うのは匂いで判る。


ただ、今朝の女性は何度か嗅いだ事のある匂い。幼馴染みがいるという話はザップ本人が以前話していた。


ザップは匂いを誤魔化す様に煙草をくわえる。


「お、あんがと」


指先に小さい火を灯し煙草に点けてあげる。ザップが美味しそうに吸い込んだ。


「…なぁヴィーシャ、ドレスデンって知ってるか?ドレスデン…伯爵?」


「男爵よ。ドレスデン男爵、うちより格下だけど財産家。色々噂の絶えない家ね。それがどうかした?」


奴隷密売のドレスデン。密輸屋ドレスデン。


『人狩男爵』の名前なんて朝っぱらから聞きたいものじゃないわね。


「ふぅん…それって陛下の法に触れるだろ?」


「尻尾を出さないって言い方で合ってるかしら?チビも取り巻きも知ってるけど証拠が無いのよ」


「ヴィーシャの親父さんとの仲は?」


「いい訳無いじゃない!石頭と破落戸じゃあ仲良くなる要素が微塵も無いでしょ」


何でそんな事を訊くのかしら?


「…まぁはっきりした事がまだ判らねぇから何とも言えねぇが…ちょっと気を付けなヴィーシャ」


じゃあな、俺ぁ寝る。


そう言ってザップは自分の部屋に戻っていった。




────────


仮眠をとって目が覚めたのは昼前。


宿屋の裏、訓練場所に行ってみるとガンズと見慣れないミノタウロスが座って話をしていた。


「ヴィーシャ、どうした?」


ガンズの声でミノタウロスが私に気が付き会釈をする。


「もうそろそろお昼でしょ、誘いに来たのよ」


「あぁもうそんな時間か、じゃあまたなミルズ」


食堂に足を運びながらガンズに昨日叔父様との事を話した。


「そうか、熊さんはグスタフって名前だったのか」


「…いやそこじゃなくて」


「じゃあ飯を済ませたら熊さんに公爵様の事を訊いてみよう」


食後、厨房に入ると料理長がトレイに食事を載せているところだった。


「熊さん、いやグスタフさん」


「熊でいいよ、なんだいガンズさん?」


「公爵様に呼ばれてね、熊さんに訊けって」


料理長はそれを聞いて苦笑しながら手招きをする。


「あの旦那も人に口止めしといて自分から喋っちゃあ世話無いよな、ついてきな」


トレイに載せた食事を持ちながら厨房の奥、貯蔵室の扉を開ける。


「さ、入った入った、秘密なんだから」


私達を促し扉を閉める。


貯蔵室の床の片隅に魔法陣が描かれていた。


「だいたいいつも食事をここから運ぶのさ。後、公爵の旦那もここから出入りする」


…こんな近くに転移陣があるなんて。


利用の便利さ優先なのだろうけど…ちょっと防犯意識が低いんじゃないかしら?


「ここを知ってるのは公爵の旦那と俺達、あと陛下な。内緒にしてくれよ」


あのチビ、妃殿下目当てに来てたのかと思えば…なるほど、ちょくちょく来る訳だわ。


「今不遜な事を考えたろヴィーシャ」


「…うるさいわね」


「静かに。じゃあ魔法陣を発動するよ」


床から光が溢れると次の瞬間には小さな部屋にいた。


「やはり公爵様は凄いものだ。ダンジョンの階段で転移してる感覚が無かったが、今もその感覚が無かったな」


ガンズがしきりに感心しているのをよそに料理長が目の前の扉を開ける。


「旦那~、毎度!お昼お持ちしましたよ。あ~後、お客さん連れて来ました」


「ちょっと待って~」


部屋の奥から叔父様─今日はドワーフ姿だ─が埃まみれで出てくる。


「やぁヴィーシャ、ガンズ君お揃いだね」


「公爵様、お招きに与りました」


「んじゃあ旦那、食器は後で貰いに来ますね」


料理長が帰った後、叔父様の食事が終わるまでガンズと二人、叔父様の研究室を見学して廻る事にした。


「…なんだか判らないものが一杯ね」


「ヴィーシャに判らないならお手上げだな、価値があるのかガラクタなのかさっぱりだ」


「案外ザップ辺りなら判るかもね…ザップと言えば」


ガンズがガラス瓶の中身を眉をしかめながら覗き込む。


「ザップがどうした?」


「ううん、何でもない」


ザップがドレスデンの何を掴んだのか解らない以上、話をするのは控えた方がよさそうね。


ガンズには直接関係無さそうだし。


「こっちの部屋の…何だろうな、このでかい筒?」


ガンズの指差す物はガラス窓の付いた円筒。いくつも並べてある。


近寄ってガラス窓を覗き込むと、女性。


叔父様がたまに『着る』妖艶な美女が眠っていた。


他の筒の中にも見知った姿が眠っている…眠るというよりこれは。


「死んでるのか?死体なんだな」


「彼等は…いいえ、これ等は叔父様の『着替え』なのだわ。使っていない時に保存する為の…クローゼットって訳ね」


「衣装部屋か…しかしこの筒、魔法の仕掛けなのか?」


「え?」


ガンズは円筒のあちこちを見回す。


「こういうのは錬金術だろう?だが術式が見当たらないな」


「それは錬金術の進化形、機械魔術だよ!」


後ろから叔父様が嬉しそうに入って来た。


…この感じは長くなりそうね。


「いやぁガンズ君!やはり君は素晴らしい!目の付け所が違うね、魔法の素人がいや玄人だって気付かないだろうに看破するとは!この装置、敢えて『装置』と呼称するがこれは錬金術の大家にして僕の盟友である『ゴーレムマスター』に注文して造ってもらったのさ。この装置に入れた死体は時間経過が止まる、つまり腐らないんだよお陰で僕の仮の肉体を多数保存出来る様になって本当に彼には感謝してもしきれない程さ持つべきものは友達だと言う格言は」


「…叔父様長い!」


私の一言でピタリと止まる叔父様。


途中から言葉の切れ目が無くなるくらいこの装置は凄い。


要約すればそういう事らしい。


「盟友という事は公爵様と同じく不死の存在という訳ですか?その『ゴーレムマスター』様は?」


…ガンズがそんな合いの手を入れるものだから。


「よくぞ訊いてくれたねガンズ君!実は彼の場合不死と言っても…」


それから三時間以上叔父様の盟友自慢が続いたわ…




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