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(更新27)

【ヴィーシャ】


「あの転移用の護符をかい?あんまりばら蒔きたくないんだけどなぁ…」


叔父様は渋い顔で思案する。


「公爵様が懸念する理由は判ります。十階層より先は公爵様の実験、もしくは観察記録用に造られた階層なのでしょう?」


「そうだよガンズ君。よく解ったね?」


「十一階層以降、仮に深層と呼ばせてもらいますが、十二階層の『サイフォン』十三階層の擬態生物と、メインになる魔物に合わせた、魔物の能力を十全に発揮出来る環境に思われました」


吸盤のある『サイフォン』には入り組んで薄暗い閉鎖空間、『擬態生物』には石組の遺跡に植物を配して輪郭をぼかし視界が遮蔽される空間。


「環境を調えているという事は、俺達冒険者との戦闘記録を取りたいからでしょう」


「うん、その通り」


「ですが俺達もただ餌食になるつもりはありません。地の利を得ている相手に対して、俺達が取れるのは人数。数の利、人の和というものです」


「それで?」


「現在護符を持っているのは二組のパーティー、お互いの予定が噛み合わないと深層へは行けません。またパーティーに新規に加入者を募る事も出来ません」


護符を持っていない人の為に、一階層から歩いて移動…深層に着いた時には皆気持ちが磨り減ってしまうわ。


護符持ちのパーティーが増えるなら新規に加入者を募る必要も減るし。


「…ですが、十階層に到達出来無い者に護符が渡っても、公爵様の御意向には沿えないでしょう。俺達が護符を頂けたのも実力を認められたからだと」


つまり叔父様は、深層には実力者に来て欲しい。


そして私達は、深層には人数が欲しい。


「俺が公爵様にお願いしたいのは…十階層の宝箱に護符を一つ入れて欲しいのです」


「一つ?一つだけかい?パーティー単位で増やしたいんじゃなかったのかな?」


「理由があります。現在、十階層に到達出来るパーティーは、実は何組もいます。ですが時間的、予算的にそれ以降探索する余裕がありません。深層へ進まず引き返すのが実情です」


探索に使う消耗品とか、街での予定があるものね。


「なので実力のあるパーティーには、探索の際に十階層まで少し足を伸ばして貰い、到達した証として毎回護符を授ける。パーティー全員分の護符が集まるまで繰り返し…公爵様、何度も到達出来るなら、深層に挑戦出来る実力だとお認め頂けませんか?」


…何度も十階層へ。


つまり何時でも深層には行ける。都合がつかないから行かないだけ。


それを証明させるから護符を与えて欲しいと…


ガンズの話を聞いていた叔父様が膝を叩いて言った。


「なるほど!うん、僕にとっても君達にとっても益のある事だね。それなら深層へ向かうパーティーが急増しないだろうし、安定したデータが取れる。例えば君達が何年か後に引退したとしてもデータ集めは継続出来る訳だ!」


叔父様がガンズの要望を認めて握手している時、扉から侍女が現れた…侍女?


「お茶を、お持ち、しました」


「はいありがと~」


叔父様が侍女からお茶を受け取る。私達にもお茶が渡された。


「丁度話にも切りがついたし、一服しようか?」


侍女がそのまま部屋を出ようとする。


「はい、そこで一礼。それから扉を閉める。記憶して」


「記憶しました」


言われた通り一礼して出ていく侍女…


「…叔父様?侍女なんて雇っていましたの?」


お茶をいただきながら叔父様はニッコリと笑う。


「うん、貰ったんだ」


…………は?


「…貰った…侍女を?」


…言ってる意味が解らないわね?


「そう、ラインハルト君のところで。君達も居ただろ?」


「ラインハルト氏から?」


帰り際に棺みたいな物を貰っていたわね?


「…棺に入っていたのですか叔父様?」


「そう。さすがラインハルト君。でもまだ教育中だけどね」


棺に入った侍女を貰って教育中?


…余計に意味が解らないわね?


侍女が出ていった扉をじっと見詰めていたガンズが、叔父様へ向き直る。


「公爵様?…まさかあれはゴーレムなのですか?」


「そうだよ?…なんで二人ともそんなに驚いているんだい?ラインハルト君の処にも居ただろ?部屋の案内とかしてくれたじゃないか」


あの時の侍女がゴーレム!?


「…嘘?あんなに自然な…」


「ラインハルト君の新しい身体も同じだろ?あれは扱い慣れてなくてギクシャク動いていたけど」


「見分けがつかないな…」


「いやぁまだまだ。頭の中身が真っ白な状態から教育を始めているんだけど、受け答えとか不自然だね。ラインハルト君の侍女くらい教育しないと」


叔父様…なんだか楽しそうね?


「あれだけ精巧なゴーレムと本物のヒューマンを、どこで見分けられるんだ?」


「結構簡単だよ?ゴーレムは無駄な行動をしない。頭を掻くとか舌打ちするとか。…教えればやるだろうけど」


見分けつかないじゃない!




【ザップ】


ガンズが壁に一枚の紙を貼り付ける。


ガンズから話を聞いてから二日後。貼っているのは告知文だ。


告知文の内容はダンジョン十階層の宝箱に護符が一枚入る様になる事。


護符は一階層~十階層を転移で往復する事を可能にする事。


ただし、護符は所持者のみ使用可能の為、パーティーで活用する場合、全員分の護符が必要である事。


護符は宝箱に補充されるので、十階層まで探索を何度か行えばやがて全員分の護符が集まる事。


ダンジョン深層探索の為に用意された物である為、転売・貸与は厳禁である事云々…


…とまぁ、そんな事が書かれてある。


ガンズの旦那が頭を悩ませながら文章を考えていたっけ。


貼られた告知文に、食堂にいた冒険者達が群がる。


ざわざわとお互いに疑問を訊き合ったり、今後の予定を立てる冒険者達。


「よし、大丈夫そうだな…ちょっと東門まで行ってくる」


「旦那、ヴィーシャが研究会に行ってるから、帰りに拾ってやんな?」


「あぁ、分かった」


同じ内容の告知文を持ってガンズは出ていった。東門の宿屋にも貼ってくるらしい。


ドレスデンの残党や毒夫人が王都に残っているとは思えないが、一応ヴィーシャの迎えを頼んだ。


「ザップさん」


呼ばれてみればミルズ達だった。


ミルズは同期の新人達とパーティーを組んだらしい。


「あの…告知ですが、俺達も大丈夫ですか?」


「あぁ、誰でもだ。だけどミルズ、相当覚悟しろよ?まず十階層まで何度も往復出来る実力が無いといけねぇ。深層はキツいからな」


「解りました、頑張ってみます」


「まぁ、無理はするなよ?」


新人達がやる気を出すのはいい事だ。


つられてベテラン勢も十階層を目指すだろうからな。


さてと、街でもぶらつくとするか。




────────


表に出ると、治療院が混雑している。


チャーリーもステラも大変だな、午前中に来る患者は皆年寄りの爺さん婆さんだ。


腰が痛い足が重いと理由を付けてやって来ては、お喋りに興じている。


寄合所状態だ。


まぁ商売繁盛なんだから、文句は言えねぇ。二人とも可愛がられているらしいしな。


「ごめんよ」


隣のクラウスの店に入る。


「あ、いらっしゃいませザップさん」


ミーシャの挨拶に促され、カウンターの前に背中をもたれかける。


店にはこれからダンジョンに潜るパーティーが、松明だの矢の補充を買いに来ていた。


「お?ずいぶん出来てきたんじゃねぇか?」


ミーシャの前には作りかけの人形があった。


布地に綿を詰めて作っている。女の子の縫いぐるみだな、まだ服が出来てなくて手足がバラバラだが。


「これが動く様になるのかい?」


完成したら錬金術でゴーレムにするんだとか。


動く縫いぐるみか…


真夜中に部屋の隅で動いてたら恐ぇな。


「まぁゴーレムって言っても簡単な事しか出来ませんけどね」


「ミーシャちゃん、これ貰うよ」


「はい!毎度ありがとうございます」


「準備はいいな?忘れ物は…」


買い物に来ていたパーティーが、ダンジョンへ向けて店を出ていった。


「皆張り切ってんなぁ」


転移護符の話をかいつまんでミーシャに教える。


「大丈夫でしょうか?無理しないといいですけれど」


「ま、そこは自己責任ってヤツさ」


そんな事を喋っているうちに、また他の冒険者達が買い物に来た。


「いらっしゃいませ!」


告知文のお陰で忙しいな。


ミーシャに手を振って店を出る事にした、長居すると邪魔くさいからな。




────────


市場の果物売りから林檎を買う。


「おばちゃん、仕入れの方はどうなったんだ?」


品物の補充は出来ているみたいだ、遅れて着いたのか。


「…聞いとくれよ、可哀想に仕入先の旦那が王都に来る途中、魔物に食われてねぇ」


「そりゃひでぇな」


「果物積んだ荷馬車なんか護衛をつける訳にもいかないしねぇ…」


「儲けが無くなっちまうもんな」


「うちとこは仕入先を変えれば済むけどね?遺された家族には悪いけど…」


そこは商売だからなぁ。


おばちゃんと別れて市場を巡ると、猫改めテレシアと出くわした。


「お疲れさんで、ザップの旦那」


テレシアは侍女のお仕着せ姿だ、スキン姐さんの処には行って無いのか。


「珍しいな?市場にいるなんざ。お使いかい?」


「へい、宿屋の熊の旦那に頼まれやして」


へぇ…


「可愛がられているじゃねぇか、でも何だな?宿屋ならチャルさんや他の侍女も居るだろうに」


「女官長の姐さんやマイラ姐さんは忙しかったんで」


「リリアは?」


「…テレシア?何処にいるの?あぁ居た!」


声の主はリリアだった。両手に荷物を抱えている。


「リリア姐さん、こっちでやすよ」


「はぁ、人混みは苦手よ…」


心底くたびれた顔をしてリリアがやって来る、途中人にぶつかりよたつきながら。


「よぉ、リリア。大変だな?」


「…あぁ…ザップ…さん…どうも」


「ヴァンパイアの癖に体力無ぇな?うちのヴィーシャなんざガンズと一緒に荷物運びするぜ?」


リリアは息を調えると、いつもの様に睨んできた。


「人混みは苦手なんです、変に力を入れると周りの人に怪我させるでしょ!荷物も潰れちゃうし」


「だからオイラが持つって言ったでやしょう?ここらはオイラの縄張りでやすよ?」


「小さい子に荷物持たせて自分は手ぶらなんて出来無いわよ!…それにテレシア?いい加減その言葉使い直しなさい」


思わず笑っちまった。


「…何よ、ザップさん?」


「いやぁ…なんだかんだ云って、優しいところあるじゃねぇか」


「なんだかんだ云って?余計よそれ!」


俺とテレシアはついニヤニヤと見交わした。


「どれ、一つ寄越しな。持ってやるよ」


俺が差し出した手をまじまじと見詰めるとリリアの顔が赤くなった。


「……………ぁりがと」


三人で馬鹿話をしながら宿屋への道を歩いた。


…馬鹿話は主に俺とテレシアでだがな。





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