リーズ・ナブルは花のある酒場へ
どうもアゲインストでございます。
リーズたちは次の仕事へ。マチルダの考えやいかに。
今回はそんなお話。
それではどうぞ。
昼の仕事、とマチルダは言ったがまず連れて来られたのはどう見ても酒場であった。
疑問、というのは少ない。酒が入れば警備の奴がする仕事などそれこそ山ほどあることだろう。
飯時ということもあり、中から聞こえてくるのは結構な声量の男共の声だ。何とも五月蝿い限りである。
だがわざわざこの女がくるような用件があるというのだろうか?
「飯のついでに見舞いの品を買っていくぞ。ここは飲食とは別に店員が花を育てていてな、ミハネさんが好きな花なんだ」
「誰だその人?」
「ああ、ドイル氏の奥さまのことだ。ミハネさんも同じ治療院で今も眠っている」
その辺りのことはまあ、中でしよう。
そう言って先に中に入っていってしまった。仕事に関することについては一切明らかになっていないが、それを語ってくれる人物はすでに行ってしまっているのだ。ここはあとをついて行く他ないだろう。
やれやれと肩を竦めて俺も店内へと足を進めることにした。
何にしても食事は大切、これは絶対。
とりあえず、中の様子は王都のそれとそこまで違うということはないようだ。
同じような赤ら顔の男共が昼間っから飲んだくれている。
「外から来た者たちもいるようだ。こういうところで問題を起こさないか見回りするのも私の仕事だ」
「……それあんたじゃなくてもよくない?」
「女だと舐めてくれるからな。むしろ一目で私を警戒したお前がおかしいんだぞ?」
「その腹筋隠してから言えよ」
「はは、こやつめ」
あ痛!
気安く頭を叩くな!
いや、もろに出してんだろうがその自慢の肉体美を。
それを見て警戒しないやつは馬鹿を通り越して危機感が足らんぞ。そんな認識ではこの厳しい世界を生きていくことはできないだろうに。
「リアナ、いつものを二人分頼む」
「あ、マチルダさん! 分かりましたー」
ホールで皿を回収していた顔馴染みらしい女性の店員も、こうしてマチルダが誰ぞかを連れてくるのは珍しいことではないのか素直に応対してくれる。
店の中の連中も、彼女が来たことに気づいた順に次々と声を掛けてくる。やはり彼女はこの街の人気者らしい、頼りにされているのが顔を見れば分かる。
空いていた席に座らされ、対面にマチルダがいる状況。
何となく、昨日のベンとの食事と同じだなと感じた。
「さて、それではミハネさんのことを話すとしよう。とは言っても色々と世話になった恩人というだけなんだが」
「はーん。でも不思議だな」
「ん? 何だ?」
「いやぁよ、ベンとは幼馴染みって話じゃん。ならさ、二人でどっちかの組織に属するのが普通じゃねぇのかって思うんだけどよ。ミハネさんって人がクランの人間なら、なおさらあんたを誘ってたと思うんだけど」
だがマチルダは今こうして警備の人間として立派な立場を持っている。まあ女だてらにこういった職業を選ぶというのは、何か理由があるんだろうがな。
「ああ、そうだな。実の所私も最初は冒険者だったんだ。だが、戦うのは好きだったがそれ以上にここが好きでな。冒険者だと仕事によっては何日も街から離れなくてはならないだろ? それならいっそ警備隊に入った方がいいのではないかと悩んでいたときに背中を押してくれたのがミハネさんなんだ」
ほう、この女にもそんなセンチメンタルな時期があったんだな。時の流れってやつは残酷だねぇ。
「ベンの奴も残念がっていたが、最後はお互いに頑張ろうと約束してそれぞれの道を歩みだしたんだ。二つの組織が軋轢もなく街の中で存在できるのも、ミハネさんが色々と気を使ってくれていたから今のイナナキは平和であれるんだと私は考えている」
彼女の語る言葉から、そのミハネという人物がこの街でどれだけ重要な役割を持っていたのかが分かる。
そして今その人がいないからこそ、自分がこの街を守ることでいつ目覚めても大丈夫なようにしようと努力している、ということなのだろうか。
眩しいことだ、こういった高潔な行いってのは端から見てもスゲーことだと分かっちまう。
「お待たせしました! ステーキとスープのセットでございます!」
「お、来たな。リーズここの肉は旨いぞ、おごりだから存分に食べてくれ」
「ごちになります!!」
ありがてぇ……!
湯気を立てていい香りをさせている肉の塊はそれだけで涎が垂れそうなほどの魅力に溢れている。
こういうのがないとさすがにやってらんないからね、さすが姉さん分かってる!
いやぁ、なんだろうね。
こういう気遣いをされると、なんていうか……あれだよなぁ。
「……いけねぇな、流されちゃ」
ぼそりと、目の前のマチルダにも聞こえないような声量で呟く。
沸き上がってしまう心をそうやって落ち着かせる。
いくらなんでも、俺程度がどうこうしようなんて考えちゃだめだ。それを口にしてしまえば、いらぬ希望を抱かせてしまうかもしれない。それは俺のやり方ではない。
「何か言ったか?」
「いいや、ご馳走だって言っただけだ」
「そうか。覚めない内に食えよ」
「ああ」
内心のことを明かすことなく、俺は平然とした顔で食事を進める。
こんなこと彼女からしてみても迷惑かもしれんのだ、今俺ができることなどありはしない。
まあ、それも状況次第になるんだがなぁ、と。
腹案のいかんともし難い可能性にうんざりしながら、俺は肉の解体に精を出すのだった。
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