リーズ・ナブルは器用な方だが、だからといって何でもできる訳ではない
どうもアゲインストでございます。
急遽始まったマチルダとの手合わせ、いったいリーズはどうなる。
今回はそんなお話。
それではどうぞ。
何度でも言うが、俺は後方支援を専門とするれっきとした後衛職だ。その中でも戦闘補助を行う付与士である。
直接的な戦闘に使えるような魔法は使えず、身体強化もせいぜいが反射神経を向上させるくらいでどんだけ頑張っても筋力が上がることはない。
それが基本的なスペックなのだ。魔物相手なら中位くらいが限界というところなのだ。
それがどうだ?
どうして俺のキャパを越えるような相手がこの短期間に二人も現れるのだ?
なんでそんな相手とハンデ有りとはいえ、真剣で戦わねばならんのだ。
非常に乗り気ではない、むしろこんなことをしなければならなくなったことを恨むばかりである。
「……意味が分からん」
俺は確かに、不用意にだが彼女との鍛練に付き合うというような意図の発言をしている。
だがそれは、あくまで鍛練という範疇での話しだ。
「ハンデはつけると言ったろう? ここから動けば私の負けだし、片手しか使わないんだ。前よりは簡単だろう?」
「その代わり死ぬ可能性が高くなってるんですがそれは」
「お前も同じような展開では飽きてきただろう? 実戦に近い方がためになるぞ」
「これだから脳筋は」
困るなんてものじゃないな本当に。
一応、今回はハンデということで決まられたの範囲から彼女が動いたら負け、ということになっている。
そして彼女は槍以外の武装であった剣鉈を持つ左腕一本でしか攻撃も防御もできない。それ以外でアクションを起こしたらそれも負け。
それに対して俺はあらゆる攻撃行動が許されている。さらには今俺が持っている武器は通常の俺が使っている武装ではない。
「剣は使えるな」
「……でなきゃ選ばねぇよ」
俺が扱える武器は、多いようで少ない。
そもそも重い物は無理、大剣や戦斧などもっての他だ。
長物も扱えないこともないが、せいぜい振り回す程度の技量でこの女傑に勝てるわけがない。
マチルダの力量に対して、ましてや剣鉈という槍よりもリーチが短くなって手数が増えた分だけ近寄れないだろう。何よりいくら装具があってもあの怪力に腕や足を晒したくない。極々近距離での戦闘は避けたいところだ。
で、得物は何にするか、と考えればまともに扱えるのはスタンダードな長剣しかないのだ。
なにせきちんと習ったことがあるのは、これしかないのだ。
「そろそろ始めるとしよう」
「あいよ」
俺が扱う戦闘技術はほとんどが人から学んだものではない。それらは必要に駆られて身に付けたものばかりで、唯一学んだと言えるのは兵士としての訓練を積んだときに死ぬほど振ってきた「長剣」なのだ。
それをこんなところで披露するとは、人生どうなるかわからないんだなって改めて思います、自分。
「さあ掛かってくるがいい!! 私は一歩進むだけで負けるぞ!」
「何の慰めにもなりゃしねぇぜ!」
ここまでのハンデを貰っても、正直負けるかもしれない。
そのくらいにはマチルダとの実力が離れていると体験で分かっている。
しかしだ。
だからって―――
(―――御安く見られたまんまってのも、堪ったもんじゃねぇんだよ!!)
そりゃ自慢もするだろうさ、その強さなら。
それに傲ることなく、街の守護者としていままで努力を重ねてきたんだろうことは簡単に想像できる。
だがな、それを頼りにして交渉しようだなんて……それは恐喝となんら変わらんぞ、爺さんよ。
「…ッシャァアアア!!」
「ふん!!」
まずは攻める。
上段からの幹竹割りのように、真っ直ぐに。
マチルダも俺の素直な攻撃に容易く対応して剣鉈で防いでくる。
相手の方が背が高いのだ、この攻撃が有効でないことは相手も分かっているはずだ。もちろんこれで終わりではない。
「ふっ!」
「うん?…っ!?」
相手の武器に俺の長剣を押し付けた瞬間に、全力で後退!
いつかと同じ手だ、磁石化した剣は触れたまま離れることはない。
更に。
「鎖はおまけじゃないんだぜ!」
いつもと用途は違うが、手放した剣の持ち手には鎖が巻き付いている。そして宣言通り、おまけではない。
「綱引きは得意かよ、ああん!」
「お前…! 性格が変わりすぎだろう!!」
「こっちが本当のリーズ君だ、どうだ幻滅しただろう!!」
「ふっはっは! 何を言う!! 私は汚い戦いも嫌いではないぞ!!」
「脳筋は戦闘狂って決まってんのかこの世界は!!」
もちろん、まともにやって綱引きなんかで勝てるわけがない。
ケインの小僧ともギリギリだったのだ、負けると分かっている相手の土俵で戦う理由はもっと別のところにある。
「ほう……! なかなか粘るではないか……!」
「そういつはどうも!! だが今ならこれは防げまい!!」
片手という制限がある以上、この状況ならいくらでも隙ができる。
僅かな均衡を保った引き合い、この短い間だけは行動が止まる。
それを狙い、掲げていた腕とは離れたところの部位に向かって投げつけたのは黒塗りの鉄杭だ。
軍人時代初期の頃に隠密みたいなことをしていた時の物である。
「小癪な!」
当然それを防ごうと、さらに力を込めて無理矢理に動かそうとする。そのくらいはすると予想はついていた。
「当然それを利用する」
磁力を解除し、振り払おうとする力を先送りさせる。
予測よりも早く振ってしまったために体勢が崩れる。それもまあ、簡単にリカバリーできるものだろうがな。
だから、同時に前に出る。
幸運なことに、相手は片足が少し浮いてくれている。やるべきことは決まった。
いくつか考えていたプランを一極化、あとは突き進むのみ。
「ブッ飛べや絶壁女!!」
「貴様言ってはならんことを!!」
あ、マズい。
ついつい口から漏れてしまった。今までの鬱憤がここぞとばかりに。
ええい、このままやるしかあるまい!
俺は怒り染まる顔をしたマチルダに向かって駆け出すのだった。
読了ありがとうございました。
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