リーズ・ナブルとベン・ブリッチの頼み
どうもアゲインストでございます。
やはりヒーロータイムがない日曜はテンションが下がりますね。
それそうとして、今回はベンとの会話の続きから。
それではどうぞ。
剣士が弱点を晒すという、絶対にしないであろうことをしたベン・ブリッチ。
彼の思惑とする所はまだ理解できないが、俺はその傷痕に何かを感じ、目を放せないでいた。
形状としては血管が浮き出たような形、膝を中心にして蜘蛛の巣のように複雑に絡み合って右足全体に広がっている。
一見すると火傷のようだが、それにしては肌の状態が少しばかり違うように見える。
なによりもこの、傷を見ているというよりはまた違ったものを見ているようなこの感覚。何が俺に違和感を抱かせているのかがまるで分からない。だが嫌な感じだ、今まで気づかなかったのが嘘のようにこの傷の存在感は大きいものである。
こちらに肌を刺すように、ピリピリとした感覚がさっきから止まない。
「……それが例の後遺症か」
「そうだ……これのせいで躓いててよ、おかげで万年十位と子供に言われてるわけだ」
ケイン少年が言っていたことには、こういう理由があったわけか。
確かにこれならば今の地位を保つのにも苦労するだろう。というか肝心要の足がこんなでよくもまああそこまでの動きができたものだ。
「で、本題だ」
殺気を滲ませた顔が、真剣なまでに引き締まる。
今までおどけた態度ではぐらかしてきたのだ。今度こそその本題とやらを聞かせてもらおうじゃないか。
晒していた傷を隠し、姿勢を正した。
そして、
「―――頼みがある」
両手を膝につき、勢いよく頭を下げたのだ。
こんなところで、こんな格好の俺を相手にそれはどうなんだと思うが、一応その頼みというのを聞いてみるのがいいかもしれない。
今までふざけられてきたせいで若干の疑いの心はあるが、男がこうも頭を下げているのだ、その覚悟を今回は尊重しよう。
「……聞くだけ聞こう」
「ありがてぇ」
俺の応じに頭を上げ、事情を説明しするために口を開くベン。
さて、だいたい想像はできるが何を頼まれるのやら。
「頼みたいことは他でもねぇ。ケインの奴のことだ」
「……それはそっちで何とかするって話だろ? ほとぼりが冷めるまで俺はここに世話になる、だからここにいる。そういう」
「分かってる。既に迷惑を掛けているってのは百も承知だ、その上で頼みたいんだ。今この時を逃がしたら、あいつを正気に戻すことは当分先になっちまう。
頼む、あいつの目を覚まさせてやってほしい」
どこまでも真剣な目で俺に訴え掛けてくる。
しかし、それは……。
「分かってんのか、身内のごたごたに他人を巻き込むってことが。どれだけ面子を傷つけるのか、理解できないわけじゃないだろう」
仮にも大手クラン、街の顔ともいえるような大所帯だ。
それの問題を解決するために他所様の手を借りる、というのはクランとしても、所属している冒険者にしても能力がないということを喧伝するようなものだ。
それがまだ内々であり、周りに知られていないのであれば問題はない。しかし、今回はケインというよく知られている対象がいる。
「問題児の教育は、お前らの仕事だろうが」
「返す言葉もねぇ。でもな、考えがないわけじゃないんだよ」
俺の考えていることに、ベンもクランの者たちと話し合ってきたことがあると応えを返す。
「あいつの目的は親父の後を継ぐことだ。だがな、それは二位である副長が許さねぇ。クランの首領ってのは腕っぷしだけでできるもんじゃねぇからだ。だがあいつはそれでも力を示せば認められると思ってる、俺たちみたいなここの顔馴染みじゃだめだ。誰がどの程度やれるかってのをあいつは分かっちまってる。それじゃだめだ。
あいつに分からせてやるためには、お前みたいな外様の、ここでは見ることのなかった力ってやつが必要なんだ!!
頼むリーズ・ナブル! あいつを止めてくれ!!」
語るところのその真意。
他人に身内のことを任せるという、その判断。
とうてい簡単ではないであろうことを、その身一つに抱えてきたのだ。
その覚悟、俺が推し量れるものではない。
―――しかし、
「―――断る」
俺はそれを容赦なく、断ることにした。
「なっ…!?」
これにはベン・ブリッチも驚いた。
短い、短すぎる交流ではあったが、それでもリーズという男がどういう者か、少なくともこうして非礼を詫び場を設け事情を話せば無下にはしない人物であるという確信があったこそ、こうして頼み込んだというのに。
「な…なん」
「何でもクソもねぇ、俺がこうしてここにいるのはお前が言い出したからだ。『あいつは俺たちがどうにかするから、お前はここで大人しくしといてくれ』っていうから、俺はその通りにしたんだぜ」
それがどうしてそうなるのだ。
「改めて、お断り申し上げる」
なーんで俺が、そんな面倒なことをしなくちゃいけねぇんだ?
「ま、待ってくれ! できるだけのことはする! だから」
「他のところに持っていきな。こんな流れの人間に任せることじゃねぇ」
いい加減鬱陶しくなってきた全身を縛る縄、話の合間に少しずつ細工をして緩めていたので簡単に拘束から脱する。
まだ引き留めようとするベンを尻目に、俺はさっさと浴場から退散するのだった。
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