リーズ・ナブルとベンの傷跡
どうもアゲインストでございます。
泥のように眠りに落ちたリーズ。
目を覚ました時、彼におこっていたまさかのこととは。
今回はそんなお話。
それではどうぞ。
「―――いや、これはおかしい」
どういうことだろうか、このイナナキという土地に来てから全くもって予想できない事態ばかりが起きている。
女傑に会ったり、ベンに絡まれたり、ガキに襲われたり、女傑にしばかれたり。
どうしてこう、俺には災難ばかりが起きるのだろうか。
俺はただ母親の弔いをきちんとしようってだけで、大それたことをしようってんじゃない。せいぜいがちょっとばかしいい暮らしができるならそれでいいと思ってる程度だ。
それが何故だ、どうしてこう面倒なことばかりが起きるんだ?
俺が何か悪いことをしただろうか。
いや、してない。
そりゃ絶対とは言えないし、知らずに誰かにということがないわけではないだろう。
しかしだ、自分から率先して悪事を働いたことなどそれこそ貧民街での生活以外でしたことはない。
仕事だって真面目にしてきたし、面倒でも仲間内の催しは欠かさず参加してきた。酔い潰れた総隊長を担いで家まで送るのはいつだって俺の役目だった。炊き出しのやり方だって俺が大本を整えたのだ。
それがどうしてなんだ、なんで俺は、
「いつの間に素巻きにされてるんだ……?」
しかもかなり高温の蒸気に満ちた室内で、下には衣類がなくタオルが一枚というデンジャラスな格好だった。
新手の拷問かと思ったが、隣にいる奴の顔に見覚えがあるのでそれはないと願いたい。
「よう。やっと起きたか」
「その前に言うことあるくない?」
「無様に負けてやんのざまぁ」
「昼間の寸劇おっ始めてやんぞオラァ……!」
買うよ?
言い値でその喧嘩買っちゃうよ?
ちょっと見せられないレベルまで君の顔面を叩き潰すよ?
「まあまあ落ち着け、そう急いてもいいことないぞ」
「もうすでに酷い目にあってるんですがそれは」
「はっはっは!」
「笑い事じゃねぇよ!!」
おそらく俺をこんな目にあわせている元凶であろうこの男、ベン・ブリッチは笑うばかりで俺の拘束を解くような素振りを全くしないでいる。正直これの意図が良く分からないのでとっとと解放してほしいのだが。
「なんなんだよ……一体何の考えがあってこんなことしてんだよ」
「半分は余興だ」
「なんの余興だよ! 誰が見てんの!?」
「いいかリーズ。世の中には俺たちの思いもよらないことがたくさんあるんだよ。俺はあの悲劇でそれを学んだ」
「俺は今ここで学んでるんですけど!? 思いもよらないことがこの空間にありすぎて頭が痛いわ!」
「ちなみにもう半分はジョークだ」
「予想外だぜ!!!」
意味が分からねぇ!!
なんでこいつはこんな無駄なことをこうも真面目に執り行っているんだ?
そんなことしなくたって普通につれてきてくれたらいいじゃん、それでなんの問題はないわけじゃん。
もっと高尚な理由でも騙ってくれるのかと思ったらまったくそんなことはなく、どこまでもふざけた理由で俺をこんな目に合わせていることを、これっぽっちも躊躇なくからからと口にする。
そこにどんな意図があるのか、さすがにもう理解しようという気力が殺がれてしまい、どうにでもしてくれとばかりに俺は体の力を抜いて壁に身を寄せるのだった。
「……で、ここどこなんだよ?」
「警備の奴らが使ってるサウナだよ。俺もクランの奴らに事情を説明して終わってな、そのことをお前に話そうと思って来たんだが肝心のお前は寝てるもんだからいっちょ驚かしてやろうかと」
「大成功だよこの野郎。だからこれをほどいてくれ、逆に血行に悪いわ」
このサウナというのがどういう原理でどうこうなどは分からないが、この高温の蒸気で室内を満たして体温を上げ血の巡りを良くすることが目的なのだろう。
王都の貴族が良くやっているマッサージや湯浴みと同じなのだろ。方法は違えど汗を流すことによって体の中の毒素を排出させるとか。
「ここじゃこれでも結構な贅沢でな。平地だし、熱湯を作るのにも手間が掛かる。焼き石に水を掛けんのが効率がいいのさ」
そう言うと足元の桶から柄杓で水を掬い、部屋の中央にある筒のようなものの口へと入れる。
するとボワッというようにして下の穴から蒸気が吹き出してくる。なるほど、こういう仕組みなのか。中に焼き石が入っているのだろう、取り外しが可能になっているのなら交換も簡単だろう。
「そいつはどうも、できればこの拘束がなけりゃもっと楽しめていたんだがね」
「悪いな、できれば人目のないところで見せたかったもんでよ。拘束も、未熟な俺がそんだけ警戒してるんだってこった」
……警戒か。
その意図するところがまた分からん。
「これは俺の弱点だ。それを晒すことにいささかの以上の抵抗がある。これは戦士としての俺の生死に関わることだ、いくらお前でもおいそれと話すわけにはいかねぇ」
その言葉を切っ掛けに、この男の纏う雰囲気が変わるのが分かった。薄い殺気すら滲ませて、真っ直ぐに俺の目を見ている。
先程までのおどけた様子はこれに持っていくためか。この場に俺を連れ込んだのも、熱によって思考を鈍らせるため。
そうまでして、いやそうまでしなければこの秘密を明かせられないのだろう。
それほどに、それほどまでにこの男は弱くなってしまっているのだ。
「試合の結果は聞いた。あのマチルダを相手にして、反撃さえしてみせた。あいつの事は小せぇころからよく知ってる、その実力も……ここ数年あいつに武器を捨てさせることができた奴がいないことも知ってる!!」
こうまで、叫ぶほどにまで、悔しいのだ。
ぽっと出の俺が、自分ではできないことを次々をやってのけている。
それが悔しいのだ、情けないのだ。
自分がしたいことに手が届かないことが、悔しくてしかたないのだ。
「俺だってなぁ…! 努力したんだよ! 思い通りに動いちゃくれない体でも、何とか戦えるぐらいにはなったさ!
でもなぁ! 本当にやりてぇことにどうしても届かねぇんだよ!! どうしても動いちゃくれねぇんだよこの脚は!!!」
タオルで、腕で。
それまで隠してきた彼の右足。
その素肌が露となる。
赤くくっきりと、まるで血管がそのまま浮き出たかのような火傷の痕。
まるで呪いのようにこの男を縛りつけているこれこそが、こうまでして俺に見せたかったもの。
魔物の残した傷跡が、ベンの時間を塞き止めてしまっていた。
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