父と子の
四分の一ハンドレット、二十五話をお届けします。
リティアとお父さんとのお話です。
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私、リティア=ラインホードがこうして父と二人で話をするのは、遠い昔のことのように思えるほど、あまりにも機会のないことだった。
リーズから借りた隊員の服から、貴族の娘として相応しい格好になって、父の部屋で、父の背中を見ていた。
貴族然とした人だった。
何も変わっていない、私の父だ。
娘が危機にあっても、それが騎士としての役割だと割りきっている部分があることを、私は知っている。
そこについては、私がどうのこうのいうことはない。
それが騎士として生きた、父のあり方だと理解しているからだ。
だから。
「…御父様」
私がするべき事は、そんなことではないのだろう。
なあ、リーズ。
「…リティアよ。我が娘よ…よく戻った」
「多くの助けがあってのことです。彼らには感謝しています」
支援部隊の者たちには、よくよく感謝しなければならん。
陛下からの恩賞とは別に、私個人からも何か彼らに報いなければならないだろう。
「高位の魔物。どうであったか」
「強く、何よりも恐ろしい存在でした」
「そうか。騎士であるならば、いずれはあのような存在から国の民を守ることもあろう。若くしてその経験を積むことができたのは行幸ともいえる。恐怖を味わい、乗り越えたお前はもっと強い騎士となろう。今後も励んでいくことだ」
「はい。肝に命じておきます」
父の言葉に嘘はないのだろう。
騎士としてのことで、この人の言うことが外れることは無いに等しい。
「ですが、御父様。私には、まだ恐怖がございます」
「…私が見た限り、そのようなものはないはずだ」
「はい。騎士として、それはございません……ですが、あなたの娘として、ずっと怖かったことがございます」
リーズ。
私は踏み込むぞ。
一歩進んだその先に、私は行くぞ。
「ずっと、私は御父様の愛を望んでおりました。魔物との戦いで死ぬかと思った時も、そう願いを口に出すほどに」
思えば親子ではあったが、家族ではなかったのだろう。
貴族とは、そういうものだと思えばそれまでだが、私たちはそれで終わってはいけない。
「その願いを聞いて、こう言ってくれる者がいました。『それだけじゃ寂しい』と。どういうことなのかと聞いて気づかされました。そしてそれは、今までずっと私が遠ざけていたことです」
父は黙ったままで、私の話を聞いている。
「覚悟ができていなかった私に、彼は勇気をくれました。私は今、彼の言葉助けられてここにいます。それは、真実に立ち向かうこと」
「―――どうかお願いします。御母様のことを教えてください」
魔物と一戦交えた娘が、どうにも化けて帰ってきた。
私の背を見るその瞳には、今までとは全く違った光が宿っていることだろう。見ずともわかる、なんと言っても私の娘だからな。
さて、ああ、その時がきたのだなと、相も変わらぬこの顔の内でそう思う。
「…寂しいか」
「はい」
よくもまあ、貴族の娘にそれをいい、そしてそれを言わさせるとはな。よほどの傑物か、あのリーズという男は。
謁見の間で見たときは、そこまでの男とは思わなんだ。見てくれ通りの平民の男だと。
しかし、娘を連れて城下の店より出てきたとき、娘の変わりようを見て、ただの男でないことを悟った。
そして、その考えが間違いでないことを、この娘の変わった気配が教えてくれる。
ここまで真っ直ぐに言葉を話す娘ではなかったというのに、まったく。
「…母のことであったな」
「はい。彼がいう通り、私は母のことについて知らなさすぎる。子供の誕生には母の愛がなければと。だから、母の愛を私は確かめたいのです」
……愛、か。
そうか、母の愛か。
お前の口からそんなことがな。
「…知ってどうする?」
「私の間違いを正したい」
「間違い?」
その間違いがなんなのか、興味があった私はそこで初めて娘の方へと体を向けた。
娘は堂々と、振り返った私の目を見ている。
その瞳はやはり、今までにない強い光を放っている。
「私は間違えていたのです。見えるものだけに固執し、それが真実だと思っていたのです。父と、姉と、家にいる者たち。それが全てだと、そう思っていた。それが間違いだと、見逃しているものがあるのだと、彼が自分の過去をもって証明してくれました。
友のその覚悟に、私は応えたい。
逃げたままの自分ではいたくないのです!」
言葉に込めた思いの丈が、どれほどのものか。容易にわかるというものだ。しかし、この子がここまで力強く、私に主張することがあっただろうか。
握り込んだ拳が震え、ドレスにシワを作っている。そんなことに気が回らないほどに、この子は今真剣なのだ。
ならば父として、応えないわけにはいかない。
「…そうか。そこまでの覚悟があるのなら、私が思っていたよりも早くその時が来たということ」
「話そう、お前の母のこと。彼女が最後に語った言葉まで、全てをお前に教えよう」
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