リーズ・ナブルとプリシア=ラインホード
朝の買い出しを済まして二十四話を投稿。
令嬢騎士の姉はこんな人だよ。
そんな感じのお話です。
評価、ブクマをよろしくお願いします。
プリシア=ラインホード。
散々説明したがラインホード家の長女であり、陛下の御子息であり将来この国を背負い導いていていく御方の伴侶と成られる女性だ。
物腰は柔らかく、プリシアを見る者に、プリシアと語る者に、敵意というものを抱かせることなくその懐に味方として集まってくる。王子との婚約が決まってからというもの、彼女が与える王族への形無き貢献は計り知れないものとなっている。
そんな重要人物であるところの彼女が、まるで童女のような無邪気な笑顔で俺の前に座っているのだった。
芳醇な香りを醸し出す、それだけで良質な茶葉を使っているだろうことが分かる紅茶がお互いの前に置かれている。お茶請けのスコーンは各種ジャムを塗って食べるようで、テーブルには色とりどりのものが用意されている。
「このスコーンはね、私とシュニーで作ったの。あ、シュニ-はこの子のことよ。妹と一緒に食べようと思っていたのだけど、御父様のほうにお話に行ってしまったし…冷めてしまっては折角のスコーンが可愛そうだわ。でもよかったわあなたが居てくれて、あの子のことを聞きながらこうしてお茶会ができるのですもの。あの二人の話が終わるまでお相手していただいてよろしいわね?」
「よろしいですとも」
「まあ嬉しい! 私こうしてお茶会を開くのが趣味なんですけど、最近はなかなか時間が取れずにいて少し寂しい限りでしたの。王子様の伴侶と成るべくお勉強の毎日でしょ? 別にそこには不満はないのだけど、今まで会えていたお友だちに会えなくてね。勿論お手紙なんかでお互いのことは知らせあっているわよ。この前なんかもナージャの夫が食事の約束をすっぽかしたんですって。酷い話よね」
「女心を分かっておられませんな。女性はその一瞬に向けて自分を磨きあげるというのに。この世で一番の不幸者ですな、その彼は」
「分かってくださる!! そうなのよ! 彼女の旦那様ったら仕事仕事って、いつもそうやって約束をお守りにならないの! その度に彼女泣いているというのにお詫びの品はおろか愛の言葉すら無いの! あり得ないわ!? 自分の奥さんをなんだと思っているのかしら!!」
「おそらくその彼は仕事に注力しすぎて精神が疲弊しているのでしょう。なぜ彼が仕事に邁進しているのか、それを再認識してもらう必要がありますね」
「まあ、何かお考えがありますのね!」
「これでも一部隊を率いていた経験がありますので。隊員のモチベーションを保つ術は心得ております。よろしければ後でお教えしましょう」
「ああん素晴らしいわ! まさかこんな事情にも精通されているなんて、是非ともお願いしますわ!」
「このお茶会を開いてくださったお礼としてはいささか物足りないでしょうが」
「そんなことはありませんわ! やっぱり本職だった方に聞かなければ分からないことってありますもの。それは勉強ではわからないことですわ。ねえもっと聴かせてくださらない?」
「でしたら自分の方からも一つお聞きしても?」
「ええ! 構わないわ、ミスター」
「でしたら、こんな機会でしか聞けないことでしょうし」
「―――亡くなった御母様のことについて、お聞きしてもいいでしょうか」
「止しなさい、シュニ-!!」
「……ですが!」
「私が止せと言ったのです・・・彼から離れなさい」
「……勝手な真似をお許しください」
「それは彼に言うべきこと。使用人の不始末は主人のものです。今は下がりなさい」
「……はい」
……さて。
話の流れが分からんやつのために一応説明しておくと、この家の最大級の逆鱗に不用意に踏み込んだ俺に対して、護衛としての役割をもっているメイドのシュニ-という人が、袖の辺りに忍ばせていた短刀を俺の首に突き刺そうとしていたところを、主人であるプリシア様が寸でで止めた、というわけだ。
その彼女は武器を納め、さっきまでいた位置よりも一歩下がって大人しくしている。忠誠心の高さは素晴らしいが、なんともひやひやさせられた。まあ、そういう風に促した俺がいうことではないがな。
「…大変な失礼をいたしましたね」
「いえ、こちらの方こそ不躾な質問でした。彼女の行動に間違いはありません」
「分かっておられたのかしら…シュニ-が訓練を受けた護衛を兼ねているということに?」
「ついでにいうなら隣の部屋に控えている兵士とか、あっ、やっぱりいるんですね」
意識していないところで、人間の体には動きが出てしまうのだ。目尻の僅かな動き、平静を装おうとも、動揺を隠そうとする反応はどうしても出てしまうものだ。
「…まんまと反応を誘き出された、というところかしら」
「ある程度は、というところですね。あまりにも自分に対する扱いが温いものだったので。前に任務で赴いた村で嫌な経験をしたものですから、他人の家というところでは基本警戒しているんです」
あれは本当に嫌なところだった。軍の備品を運搬している商人の馬車が盗賊の被害にあっているという報告があり、その後の調査で進行路の途中にあった村がまさかの全員盗賊だったという最悪の結果だった。村長の家で奇襲を受けたが何とか無力化し、やつらが隠して溜め込んでいたものを調べた結果、商人を襲っていたのがこいつらだと判明したのだ。
一見して普通にしか見えなかった村の人間たちが、血相を変えて襲いかかってくるのだ。対処をしようにも、突然の事態に陥った他の軍人たちのフォローで手一杯で、かなり大変な目にあったのだ。
「俺のような奴に対して、いくら当主から扱いを言い渡されていたとしても、あまりにも歓迎が良すぎる。俺の素性をいくらか知っていなければ、こんな平民を受け入れるわけがない」
おそらくはあの謁見の場に居て、親子揃って見ていたのだろう。そうでなければこの待遇、説明がつかない。
「あなたが息も尽かせぬ話し方をしたのも、こちらの反応を見るためでしょう。貴族社会で生き抜いてきたお人だ、このくらいの腹芸はお手のものだ」
権謀術数、けして明るいだけではない貴族の社会だ。そこで生き、王族の伴侶となるには光だけで生きていけるわけではない。そこに反転するように存在している闇を抱え、なお気高く生きるには並大抵のことではない。
「ですが、それは今は関係ありません。さあ、お話を続けませんか?―――お聞かせください。俺は、彼女の友として、聞かなければならないことがある」
俺には彼女に発破をかけた責任がある。あの娘に辛い思いをさせるのに、俺だけが蚊帳の外でいていいわけがない。
「…ここまで来て、お話しないわけにはいきません。よろしいでしょう」
そうして彼女は語りだした。
この家族の抱える、一つの命の話を。
娘に愛を残し、この世を去った偉大な一人の、母親の話を。
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