リーズ・ナブルとラインホード公爵家一同
メンテ明けにて二十三話をお届けいたします。
ここがあの女のハウスね!(お友だちの家に来ました)
そんなお話でございます。
評価、ブクマのほどお願いいたします。
ラインホード家。
公爵家というこの国でも上位に位置する大貴族だ。
古くから王族を支え、武勲で有名と聞いている。特に防衛戦においては鉄壁を誇るとか。
最近は攻め込んでくる敵もおらず、出番はほとんどないのだがたまに出てくる賊や魔物を相手に実力の足りない兵士を連れだっては経験を積ませているという、今代の当主は貴族というものの中でかなり行動的な人というのが多くの者たちの評価だ。
そんなラインホード家現当主、『ダグラス=ラインホード』が、馬車に乗り込んだ俺たちを鉄のような目で見つめているのだった。
有無を言わさぬような眼差しに、俺たちは抵抗できずにすごすごと馬車に収監されている。
どうも、結構場違い、リーズ・ナブルです。
心の中でちょっとふざけてみたけど、全然心が晴れそうにありません。座席のふかふか具合だけが唯一の救いとか、涙が出そう。
ガタゴトと道を進む馬車の中は、今まで経験したことがないほど空気が重かった。
「……」
あれから、搭乗を促してから、この御仁は一言も言葉を発することはない。ずっとこちらを見たまま黙りだ。
対するこちらもこの空気では話せるわけもなく、背中に冷や汗を流しながらがちがちになっている。隣の彼女もおんなじだ、むしろ俺より状態がひどい。
目が虚ろになり微妙に震えているのが同じ座席の俺に伝わってくる。さらには呼吸が若干おかしい。明らかに動揺している。
「……」
「……」
「……」
ど、どうしろってんだこの状況…!
何、なんなの?
なんでこんなことになってるんだ? いくらなんでも喋らな過ぎじゃない? いつもこんななのこの親子?
だったらやべーよ思っていたより問題が深刻だよ聞き出すどころか会話すら困難だよ、この状態でどうやって関係を改善すればいいんだよ。専門家だれか連れてこいよどんなのか知らないけど!!
どのくらいそうしていただろうか。
お互いの呼吸音が室内を揺らすだけの時間が淡々と過ぎていった。その間にも馬車は進み続け、いつしかその歩みを止めていた。
それが指し示す事実は一つ。
「―――御当主様、本家に到着いたしました」
頑強な壁に囲まれ、鉄の門が守護する広大な敷地。
少し赤みが射してきた光を反射して、空の色を映す噴水。
緑豊かな庭園の先には質実剛健というに相応しい豪邸。
開かれた扉の先から見える光景は、そんな見事な景色が切り出された空間が広がっており。
俺たちは、結局お互いに一言も喋ることなく、目的地についてしまったのだということを、こうして理解するのだった。
執事に促され、当主の後ろを着いていくように館の中を案内される。ここの内装もまた、この男の内面を表すように華美な飾りが少ない落ち着いたものだ。
燭台の蝋燭が揺らめく光を放ち、廊下を照らし俺たちの影を床に投影する。
いくらか歩いた先にある扉が開かれており、中にはテーブルが用意してあるのが見える。
「…御客人を」
「は、どうぞこちらへ」
どうやらこの部屋は俺に用意されていたものらしい。執事が部屋へと俺を促すが、隣に立つこの娘がどうなるのか。おそらくこの後、当主と今回の討伐のことについて話をするだろう。二人きり、そこに俺を入れないために、こうして切り離すことにして。
「…大丈夫だ」
そのことを彼女も理解したのだろう。一人で一番の壁に立ち向かう困難に、それでも彼女は大丈夫だという。
「…先に行って、部屋で待っている」
「はい、ありがとうございます。御父様」
それを聞いた当主はそれだけ残し、早足にこの場を立ち去っていってしまう。そっけない態度だが、それがこの男に似合わないまるで逃げるかのような印象を受けさせる。
それが何故なのか、俺には朧気にだがわかるような気がした。
「リーズ」
「大丈夫、なんだろ?」
「…ああ」
しっかりとした意思を見せる彼女の、その瞳を見据え、俺は部屋へと足を進めた。振り替えることはない。そんなことをしなくても、今の彼女ならきっと会話ができるだろう。
なら、俺は堂々としているべきだ。たとえ離れることになろうとも、せめて気持ちだけは傍にいるのだと示すために。
そして俺たちは、ここで別々に分かれることになった。
彼女は父親と、これまでの因縁に決着を付けるだろう。
ならば俺はここで、その行く末を待とう。なに、退屈はしなさそうだしな。なんせ―――、
「―――お待たせして申し訳ないわね、ミスター」
なんせ、こうして話相手が来てくれたんだからな。
「いいえ、素敵な女性とのお茶会にお呼ばれされたのです。何の問題もありません」
「あら、以外に口がお上手ですのね?」
「むしろ失礼でないかとひやひやしておりますよ。なにせ将来この国のミセスになる御方ですから」
「ええ、ですから今はまだ、ミス、とお呼びくださいな」
メイドに連れだってこの部屋に来たのは、大輪の華のような女性。気品に溢れた、まさに貴族の女という人。
印象そのままの紅いドレスは、彼女の魅力を最大限に活かしてやまない。同色のルージュが乗った口から紡がれる言葉には人を引き付ける何かがある。
「さすがに御名前を呼ぶのは御勘弁を。ですからシスター・ラインホードと」
「それじゃ妹と被るし、何より長いわ」
「彼女とは先ほど友人になったものですから。名前で呼べますので」
「あら!? もうそんな関係なのね!! 妬けちゃうわ!!」
そんなことをいいながら、全くそんなことを思っていない笑顔のままの表情で会話を続ける女性。
「妹とそこまでの関係なら遠慮することないわ。公爵家長女として許可します。私をプリシラと呼びなさい!!」
そう、この女性こそ、我が友レティア=ラインホードの姉にして、未来の国母と成られる御方。
ラインホード家長女、プリシア=ラインホードその人である。
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