深層を照らす微光、一本道の闇は濃く
どうもアゲインストでございます。
暗黒に飲み込まれたリーズとマール。迷宮の奥底に誘われた彼らが見たものとは。
今回はそんなお話。
それではどうぞ。
黒い壁が全身を包み、足元の感覚が無くなっていく。
重力の法則に従い下へ下へと落ちていくのだが、その際に体を動かそうとして思い通りにならないことを確認する。
唯一自由にできる思考を働かせ、今起こっていることを考察すれば、おそらくだがこれは空間転移のようなものに巻き込まれているとしか思えなかった。
人類圏では失われたはずの空間魔法、対象を遠い場所へとそのままに移動させることも可能な最上級とされる高等魔法だ。ダンジョンの最終階層には地上へ戻るためのものが設置されていると聞くが、それをこのような形で行使できる存在など、考えつく限り一人しかいない。
その存在への恨み節を脳内で叫びながら下降していくに任せ十数秒ほどの時間が経ったかと思ったその時、俺たちはようやく転移の支配から脱したのだった。
「―――……っと」
「うわぁ!?」
空間の移動によるものか、迷宮の闇と遜色ない光景から脱したものの目に映る風景に変化がなく、転移が終わったのだと理解したのは体に自由が戻り落下に伴う風を感じることができるようになったため。
手の先に感じる感触を頼りに彼女を引き寄せどうにか無事に地面に着地する。
「うわっ……うわぁあああ!!」
「落ち着け、ここは普通の空間だ。叫ぶのは構わないからとにかく落ち着け、話ができない」
あまりの事態に混乱しているのだろう、マールは自由のなった手足をばたつかせている。
光のない世界で落ちるだけの感覚を味わってしまったものだからどうにかしようと必死なのだろうが、もう空間転移は終わっている。
どうしようもないので地面に彼女を横たえ、落ちる心配がないことを確かめさせる。
「はぁ……はぁ……」
「どうだ、もう落ちることはねぇ。安心して深呼吸するんだ」
「り、リーズさん……」
「待ってろ、今明かりをつける」
攻略を進めるうちはマールが灯していた魔道具、俺の小袋にも同じものがありそれを取り出して周りを光で照らす。
照らし出された周りはそれまでの迷宮とは様子の違うものであった。
まるで王宮の一部かのような作りは上層の、いかにもな作りとは違いまるで何かが住んでいるかのようなものとなっている。
太い柱が等間隔で何本も立っており、それに沿うような形で壁がずらりと並び通路を形成しているのは上層と同じだが、素材が粗雑だったこれまでとは違い職人が作り出したと言ってもいいくらいに丁寧であった。
「……大理石? 情報にないような場所だし……五階は飛び抜けてる? 落ちる感覚はそれでか?」
マールが落ち着くまでに今いる場所について考えを巡らしてみれば、事前に手に入れた情報にはこんな場所のことなどなく、攻略が進んでいる階層のことを考えれば五階層を越えている可能性が出て来ていた。
「だとしたら何が目的なんだ? あんなことをするなら問題にならないわけがないのに……条件があるのか? なら条件とはなんだ? 内部にいる人間に関係しているはず……」
おそらくこれが盗賊たちが捕らえた原因だろう、しかしそれだと俺たちが無事にいる理由が分からない。
隷属の首輪を取り付けるために転移をさせたのなら、こんなところにほっぽり出しているのは無駄でしかないからだ。
「―――あの、すいませんリーズさん」
と、そんな思考を断ち切るようにして地面に横たえていたマールから声が掛けられる。
冷静な様子の声、混乱からは脱したようで安心しつつ彼女のほうへと顔を向ける。
「もう大丈夫か?」
「は、はい……心配を掛けてしまってすいません」
「いや謝る必要はないさ、あんなもん混乱しない奴がいればよっぽど肝が太い奴だけだ」
「ははは……」
そうして落ち着いてきた彼女も周りの様子を見て自分たちがどういう状況に陥っているのか、地面の手をやりながら疑問を口にし出す。
「ここってどこなんでしょうか? ダンジョン……では、あるんですよね?」
「たぶんな。誰かの意思によって連れてこられた、と俺は考えているが、本当のところはよくわからん」
「誰かって?」
「ダンジョンの主か……それともダンジョン自身か。とにかく何も分からない状況だ、移動をするにしても目標は立てておきたい」
そう、こうして話ができるようになった以上これからどうするかについて相談しなければならない。
「……上に、地上に帰れると思いますか?」
「正直、分からん。ここの区画のことについては何も情報がない。なにがしかの上に続く通路があるだろうが、それを見つけることができるかと言えば難しいと思う」
「……そうですよね、ここって何か特別な感じですし、これって何か意味があるんですかね?」
「階層によって環境が変わる、というようなダンジョンも確かあったはずだが……ここはそれとは違う気がする」
見てみろ、とマールに指で指し示しそこを照らす。
「床が綺麗なままだ。普通なら魔物が歩くから傷だらけになるはずなのに汚れすらない」
「それって―――魔物がいないってことですか?」
照らし出したのは俺たちから少し離れたところの床面。塵が少しあるものの、それ以上に床が汚れているようには見えない。
それが導くことは、ここには少なくとも地上を移動するような魔物がいないことを示している。
「たぶん、そうだ。ゴースト系の気配はしねぇし、翼を持つタイプがいるような高さもない」
「え、でも……」
―――だったらここって、なんの意味があるんですか?
傷のない回廊、そこを守護するモノはおらずだた先へと続いているのみ。
まるでここにきた者こそがここを歩くことができる、とでもいうような、そんな雰囲気を奥底から漂わせている。
先行きすら分からない暗黒が支配する空間、その奥底に何がいるというのだろうか。
問うまでもない、そんなものは決まりきっている。
「……なんとも強引なことだ。もうちょい待ってりゃこっちからいったってのによ」
―――迷宮の深淵にて待っているであろう『魔導王』、かの存在がどんな意図によるものか、踏破するべき階層を通り越し自らのいるところへと俺たちを呼び寄せた。
この闇に包まれた回廊の先にいるだろう超常の存在が抱く思惑に巻き込まれ、それがもたらす危険に幼い少女を伴う現状。
覚悟を、しなければ、ならない。
何としてでも、どんな手段を使ってでも。この少女だけは守り通さなければと。
ここまできたのなら戻る手段は限られているだろう。そうなれば衝突は最早逃れられない。
前方にはひたすらな闇がある。その先にある存在に突き立てる牙があることだけが、今の俺を支えていた。
静かな空間が心を刺す。しかし折れるわけにはいかない。
見通すことのできない暗闇を睨み付けながら、予想される戦闘に備え改めて体調の具合を確かめた。
読了ありがとうございました。
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