過去と未来の執着
小春日和な天気に心地よい気温の自然公園は散歩日和の1日と言えた。
言葉通りの風景で、休日なのか子供の姿も見え、老若男女に加え、多種多様の人種の姿が見えた。
2、30代ほどの白いシャツに、長ズボン姿の女性が吹き抜ける風を感じ、気持ちがよさそうな様子で歩いていると、不意に後ろから女性が呼び止めた。
「おい、愛。」
「はい?」
愛と呼ばれた女性は立ち止まると振り返り、後ろの声をかけた女性のほうを見た。
「なんですか? パール?」
「……ご機嫌だな?」
機嫌がよさそうな愛に笑顔を浮かべて問いかけられた女性はパールと言う名のようで、外見は愛と似たような姿の2、30代ほどの女性で、子供のように機嫌がよさそうな愛とは対照的に、子供に連れられて疲れている大人のように微妙に不機嫌な様子だった。
「そうですか? フフ?」
愛はパールの不機嫌に拍車をかけるかのように上機嫌な様子で、少し勢いをつければ踊り始めそうな雰囲気で、少しだけ小高い丘の上に立っていた。
「愛、解っているとは思うが……」
「接触厳禁なのはわかっていますよ?
ここに来るのはあなたも含め、特別なのも理解していますよ?」
パールは不機嫌そうな顔で愛に対して注意するように言うが、愛は愛で注意されたことを十二分に理解しての上の行動のようで、答えを聞いたパールは困ったと言うように顔に手を当て、溜息を吐き出した。
「公私混同も理解してますよ?
だけどこの躍動をあなたは理解できるんですか?」
「……」
「人とは違う生命体と自負するあなたは?」
機嫌がよさそうな愛は不意にパールに対し、少々悪意を持ったような口調でものを言い、軽く笑った。
「……大将……」
「階級で呼ぶなと言いましたよね? それともわたしと一戦交えますか?」
「……」
溜息を吐き出しながら、注意するようにパールが声をかける中で不意に愛はパールに近づき、口調は少し強い程度だが、何かしらの挑発すると言うよりも、本気で勝負を挑むと言うような様子だった。
「やめてくれ、あの時のお前と言い、戦うのは二度とごめんだ。ディナたちを恐れさせた……」
「そうですね?」
少ししてパールは降参したと言うように両手を上げ、軽く目を閉じて愛に軽くだが謝り、愛も笑顔を浮かべパールから距離を開いた。
「お前は黙示録の獣すら恐れない癖に……」
「♪~」
「おい?
聞いているのか?」
パールが再び溜め息交じりに物を言う中で、愛は知らないし聞く耳持つ気がないと言うばかりに背を向け、鼻歌を歌いだし、パールは愛を呼び止めた。
「?」
「またその歌か?」
振り返り止まるが、同じような反応で再び前に歩き出し、パールは愛に対して少々強い口調で言葉を返した。
「彼が好きだった歌♪」
「……Ebullient Future、だったか?」
「まさにこの世界にふさわしいと思いませんか?
彼が言うことが真実なら、わたしは実現できる完全無欠の存在となれる!」
愛は楽しそうな様子で答えを返し、パールが疑問そうに質問を返す中で愛は軽く踊るような動作を再び前に進みだし、自然公園の幾何学的なオブジェの上に立つと、オブジェの形に合わせ、部品であるかのような姿勢をとりながら言葉を返した。
「わたしこそが真実の存在、500億以上の存在すべてに思い知らせる時が来ました。」
「いいから降りろ、あの時からお前は羽目を外しすぎだ。」
「いやです♪」
パールは落ち着いた様子で愛を注意するが、愛は聞く耳持たずな様子で笑顔で断ると、背を向け、オブジェから勢い良く飛び降り、逃げるかのように早足で歩き出した。
「おい? 愛?!」
愛はパールの呼び止める声を無視して走り出し、パールは困ったと言うかのように溜息を吐き出した。
「……まったく、タガが外れるとは、ああいうのを言うんだな……?」
パールは何にしても困ったと言うような物言いだったが、何が起きるにしても愛を追いかける必要があるのは必然なようで、愛が歩いて行った方向に歩き出した。
愛が歩いて行った方向に進んでいくと、自然公園の少しはずれのほうで、地面は時計や魔方陣のようなものが書かれている奇妙な柄の人工的な印象の強い石畳で、空には対照的に原生林とも言えるごく自然とも言える自然が広がっている場所だった。
「……愛。」
「……」
時計のような模様と評するならば愛は調度時計の針の軸の位置のあたりで軽く目を閉じ風に吹かれて肩よりも長い髪が風軽く揺れ、木の陰越しの光にかすかに身体が照らされていた。
「……歴史は繰り返される。」
「?」
パールから見て身体を横にしていた愛は、軽くだが目を閉じ深呼吸しているようにも見えたが、不意に目を向けパールのほうに顔を向けると口を開いた。
「世界を超えて物語はここから始まる。そしてここでは……」
「やめろ、愛。」
先ほどまでの明るい雰囲気とは違い、愛が真剣な表情でパールに対してものをいう中でパールは勢い良く愛の言葉を止めるように口を開いた。
「やめてどうなるんですか?
事実を受け止めないといけないんですよ? わたしたちは……」
「止めろと言っている!」
「目を背けるな! パール・ガルシア! わたしを見ろ!」
真剣で背後に何か人とも思えない薄暗い気配が漂うかのような少々恐ろしい物言いで言い、パールが黙るように言い返す中で、愛は勢い良くパールに怒号を浴びせた。
「絶望の中で彼ら2人は受け止めましたよ? だけどわたしたちはまだ受け止められてない。」
「……」
「わたしが言う権利はないと思いますけど、機構の電子人形となった彼らに本気で世界が救えると?」
押し黙らせたパールに対して言葉を続ける愛は、パールが顔を下に向け、歯を食いしばっているような表情をしている中で愛は言葉を続けた。
「……だれがこの世界を守れると?」
「……お前がここに来たのは……」
「オーグの命令は承知しています。わたしも自分勝手だとは思いますよ? だけど彼の意思が何を意味するか解りますよね?」
言葉を返せないパールに対して愛は言葉を続け、パールが何とかして言い返そうとする中で愛は黙らせるかのように問い返した。
「……わたしたちは守れなかったんですよ?
次がある。だからこそ戦い、受け止め、守らないといけないんですよ?」
「……」
「数百年と言う時間を過ごし安全神話に酔ったこの世界のすべての存在に、彼の示す通りの言葉通りの真実が通用することを至らしめる必要がありますよ?」
言葉を発しないパールに対して愛は言葉を続け、パールは言葉を返せないと言う難しい愛で見つめ、愛は言葉を続ける中で表情は笑顔とも、怒りとも、悲しみとも言えない中間的な引き締まった表情だった。
愛のパールを見つめる真剣な表情は、日本人特有の感情を押し隠す毅然とした表情で、心の奥底で吹き荒れる感情を代弁するかのように少し強い風が愛の髪を少しだけ強く揺らしていた。
風は吹くだけで変わり映えしない場所に吹き、周囲には木の陰越しに明るい太陽が照らしているが、彼女たちの心の中では激しい雨の降る暗い雲に覆われ、強い風の吹き荒れているようだった。